第7話 すれ違い
「この度は娘を助けて頂いて本当にありがとうございます」
私はリリーちゃんの馬車に乗せてもらいバナーネの町に到着して、リリーちゃんの屋敷に案内された。リリーちゃんから事情を聴いたローレル・ダンディライオン伯爵は、私を歓迎してくれてお礼の言葉を述べたのである。
「いえ、実際に助けたのはビスケットちゃんですので私は何もしていません」
私は好感度を上げるために謙虚に答える。
「そんなことはありませんマカロンさん。あなたはビスケット様に私達を助けるようにお願いしてくれました。マカロンさんの愛情あふれる対応がなければ兵士たちは命を落とし、私は誘拐されていたでしょう」
リリーちゃん素敵よ!あなたならそのように言ってくれると私は信じていたわ。私の打算の考えは見事に的中してにやけ顔になる。にやけ顔を見られないように私は少し俯いて顔を隠す。
「マカロンさん、あなたの謙虚な姿勢に私は胸を撃たれました。私はこの町の領主をしておりますので、温情を盾にして無理な要求をしてくる者もいます。あなたは、そのような下心まる出しの恥知らずとは全く違います。ぜひともお礼をさせていただきたい」
ローレル伯爵は私の偽物の謙虚さに心を打たれて、熱狂的な視線で私を見ている。
「いえ、何もいりません。それに、お礼はリリーお嬢様から受け取っています。これ以上のご好意を承る事はできません」
と私は述べて頭を下げる。頭を下げた私は固唾をのんで状況を伺っている。それは、リリーちゃんがどのような事を述べるかによって私の運命が決まるからである。
「お父様、マカロンさんは長い旅路で路銀が底をついているようです。今後の旅路のための資金を提供するのが良いと思います」
きたぁーーーーーー!さすがリリーちゃん、あなたは長年の相方のように私の心が読めるのね。私の期待した通りの事を言ってくれて本当にありがとう。私はあまりの嬉しさに体の震えが止まらない。
「そうだったのか・・・それなら、金貨10枚、いや、金貨50枚用意しましょう。マカロンさん、どうぞ受け取ってください」
金貨?私はこの世界のお金の事はしらない。でも、金貨なら相当の価値があることは理解できる。これは、謹んでお受けするのが正解である。
「いえ、結構です。旅を続けるにはお金は必要です。しかし!お金は自分で汗水たらして得てこそ意義があり、自分で稼いだお金で旅をする事が大事なのです。そのような大金を受け取ることはできません」
またまた私の悪い癖が出てしまった。でも、リリーちゃんがなんとかしてくれるはず・・・と私はわらをもつかむ気持ちでリリーちゃんを見つめる。
「申し訳ございません。マカロンさんの気持ちを理解せずに余計の事を言ってしまいました」
リリーちゃんが頭を下げる。
ちがうのよ!ちがうのよ!リリーちゃん。あなたは何も間違っていないのよ。もっと自分の意見に自信をもっていいのよ。私の悲痛なる心の声はリリーちゃんには届かない。
「マカロンさん、親子ともども失礼な事を言ってしまいました。マカロンさんの崇高なる考えを理解出来なかったこと、誠に申し訳ございません」
「いえ、謝るのは私の方です。私の旅事情を配慮して頂いた上でのご好意を無下に扱ってしまいました。この度は非礼な態度をとってしまい誠に申し訳ありません。そして、伯爵様のご好意をありがたく受け入れることにします」
私は必至である。自分で蒔いた種ではあるが、このまま大金を見逃すわけにはいかない。いつ、元の世界に戻れるのかわからない危機的状況なので、必死に大金にしがみつく。
「いえ、いえ、非礼な態度をとったのは私の方です。マカロンさんは成人君主といえる立派なお人です。その志を曲げることなく突き進めることが良いでしょう。なので、私に気をつかわなくても良いのです」
「は・・・はい」
自業自得とはこのことである。私は大金を手にすることをあきらめる。
「マカロンさん、ビスケット様にもお礼を言いたいのですが、どこに居るのでしょうか?」
ビスケットちゃんは、バナーネに到着すると「天啓が私を呼んでいる」と言って姿を消したのである。
「え~と・・・それは・・・」
私はどのように説明したらいいのかわからずにしどろもどろになる。
「お父様、ビスケット様はお花を摘みに行ったのでしょう。そのうちお戻りになると思います」
「うむ、わかった」
「そういえば、リリー。私が渡した金の腕輪はどうしたのだ!」
温厚だったローレル伯爵の目つきが鋭くなり、リリーちゃんを怒鳴りつけた。
「実は・・・」
どうしよう。さっきまで温厚でやさしい笑顔が絶えないローレル伯爵が大声を出して怒っているわ。やはり、あの金の腕輪は相当価値があるものだったのね。でも、あの金の腕輪はビスケットちゃんが空の彼方に放り投げたはず。もし、この事実がバレてしまったら、さっきまでの良好な関係は壊れ、殺伐とした修羅場に代わってしまう。私はどうすればいいの。すぐにこの場から逃げた方がいいのかしら?
私はガクガクと体が震え出し、恐怖で顔がこわばっていた。
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