第6話 金の腕輪

 

 「非常識と言って誠に申し訳ございません。つい、本音が出てしまいました。マカロンさんの住んでいる地域ではユニークな風習があるのですね。決して異文化をバカにしたわけでなく、あまりにも突拍子もない文化だったので驚いてしまいました」



 リリーちゃんは慌てて先ほどの発言を訂正する。



 「いえ、気にしていません」



 めちゃくちゃ気にはしているが、ここは冷静に対処すべきだと私は思った。今更ながら自分の名前をマカロンにした事を非常に後悔している。以前にいた世界では、私は平凡な名前だったので、せっかく別の世界に転移したのだから、可愛らしい素敵な名前にしたかったのである。



 「それならよかったです。マカロンさん、先ほどお聞きしたビスケットという食べ物には非常に興味がそそられました。なので材料はこちらで用意させて頂きます。できれば、私にもビスケットをわけて頂ければ幸いです」


 「本当に!それは助かります。ビスケットが出来上がったらリリーちゃんにもお渡しするわ」


 「ありがとうございます。マカロンさん、ほかに何か必要な物があればなんでもいってください」


 

 「お金をください!」

 と大声で言いたかった・・・でも、つまらない所でカッコつける性格の私は、心の声とは逆の言葉が飛び出した。


 「いえ、これ以上は必要ありません。ビスケットちゃんにあなた方を助けに行ってもらったのは、お礼を期待してしたおこなったのではありません。人として困っている人を助けるという当然の事をしただけです」



 私は自分の言葉に酔いしれていた。お金を手に入れることは出来なかったが、カッコいい言葉が言えて非常に満足している。



 「マカロンさん、あなたはなんて聡明で思慮深い方なのでしょうか・・・それなら、私からも言わせていただきます。マカロンさんは長旅で路銀が底をついて困っています。困っている人を助ける事は当然のことです。なので、この金の腕輪をさしあげます。町で売ればかなりの値がつくと思います。どうぞ、受けとってください」



 リリーちゃん・・・あなたはなんて素晴らしい人なの!私はただカッコつけたくて、意地を張っていただけなのに、見るからに高そうな金の腕輪を私にくれるなんて、素敵すぎるわよ。私はこのチャンスを絶対に逃すことはできない。あの金の腕輪を売れば、しばらくは、自由気ままな生活をおくっていけるはず・・・と私は考えていた。



 「いえ、結構です。私が見たところその金の腕輪はかなりの価値があるとお見受けられます。そのような大事なモノを受け取ることはできません」



 うひょうーーー!私は何を言ってるのよ!ここはカッコつけずにありがたく頂くのが筋ってものよ。せっかくリリーちゃんが千載一遇のチャンスをくれたのに、それを蹴ってしまうなんて、なんて愚かのことをしてしまったの!


 私はひどく後悔している。



 「マカロンさんの言いたいことはわかりました」



 いやぁ~~わかっていないわ。本当は喉から手が出るほど欲しいのよ。



 「しかし、受け取って欲しいのです。高価な品を渡す事でしかお礼の気持ちをあらわすことの出来ない不甲斐無い私ですが、お願いします、受けとってください」



  さすがリリーちゃん、とってもとっても素敵だわ。私が一番欲しい言葉をかけてくれたわ。私は感激のあまり涙があふれそうであった。



 「わかりました。それでしたら・・・」


 「その金ピカに光っているモノは美味しい食べ物なの?」



 私がリリーちゃんから金の腕輪を受け取ろうとした時、ビスケットちゃんが、チョコレート様に捧げる愛の歌を歌い終えて、私たちのところにやってきた。



 「ビスケット様、これは食べ物ではありません」


 「命を助けてもらったのに、食べれないモノを差し出すなんて、とっても不愉快だわ。こんな物あっちいけぇ~」



 ビスケットちゃんは、リリーちゃんから金の腕輪を取り上げて空の彼方へ投げ捨てた。



 「あぁぁぁ~~」



 金の腕輪と一緒に私の悲鳴も飛んでいく。



 「甘い食べ物がほしいのよ!」



 ビスケットちゃんは、食べれないモノを見たので少し不機嫌になっている。



 「ビスケット様、馬車の中にバナナがあります」


 「バナナ好きぃ~」



 ビスケットちゃんは、バナナと聞いて満面の笑みを浮かべる。




 「それでしたら馬車にお乗りください。好きなだけバナナを差し上げます」


 「わぁ~い。わぁ~い。バナナ!バナナ!」



 嬉しそうにビスケットちゃんは馬車まで走って行く。しかし、私はショックのあまりその場に崩れ落ちてなかなか動き出す事ができなかった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る