第10話 お菓子作り
「バナナ・・・バナナ・・・バナナの食べ過ぎで苦しい」
通路に横たわっていたのはビスケットちゃんであった。そして、お腹を押さえて苦しそうに悶えていた。
「バナナの食べ過ぎ!」
私はとんでもない言葉を耳にした。
「愛しの~愛しの~バナナ様~あなたはなぜ~こんなにも~私を苦しめるの~」
「もしかしてバナナを盗んだ犯人は・・・」
私の目の前が真っ暗になる。
「ずっと一緒~ずっと一緒~バナナ様~バナナ様~あなたへの愛が~愛が~強すぎて~こんなにも~お腹が苦しいのね~」
私はビスケットちゃんの苦しみの歌を聞いて、この世界に起きた二つの大事件の謎が解けたような気がした。
「兵士さん。すぐにこの子をお部屋に運びます」
ビスケットちゃんが犯人であることを兵士にバレるわけにいかない。私はこの大きな証拠の塊を隠すために、ビスケットちゃんを抱え込む。非力な私だが、火事場のバカ力とは本当にあるのだとこの時に思い知った。私はビスケットちゃんを軽々と抱え込み、兵士に案内された部屋に逃げ込むことにした。
「兵士さん、後は私に任せてください」
私は部屋に逃げ込むとベットにビスケットちゃんを投げ捨てる。
「ドスン」と大きな音が部屋に響く。
「ビスケットちゃん!どこでバナナを食べたのよ」
私の迫力ある問いかけにビスケットちゃんは静かに答える。
「神様がくれたのよ」
「神様がくれたってどういうことなの?」
「目の前にバナナの束があったのよ。それは神様が用意して下さったプレゼントなのよ」
「そうなの。それならよかったわ・・・てならないわよ!もしかして貯蔵庫を破壊してないわよね」
「邪魔者は排除したわ。でも、それは神様からの試練だったのよ」
「貯蔵庫を壊して、中にあったバナナをたべたってこと?」
「ちがうわ。神様からの試練を乗り越えてご褒美を授かったのよ」
「そうだったのね」
私は、ビスケットちゃんの言葉を信じることにした。信じる事で現実逃避をするためである。もしビスケットちゃんが犯人だとすれば、どのような罰がくだされるか想像もしたくない。いくら、リリーちゃんを助けたからといっても、その元凶をつくったのはビスケットちゃんであり、謝って済む問題ではない。2人の領主生命を脅かす大事件を起こしてしまった以上、大罪人として捕まる事は確実である。私は共犯者にならないように何も知らないことにした。
「それならよかったわ。私はてっきりビスケットちゃんが、貯蔵庫を壊してバナナを盗んだものだと勘違いするところだったわ」
私は自分に言い聞かすように言った。
「そうともいうわね」
「そこは否定してよ!せっかく現実逃避をしようと思っていたのに!」
わたしは、大声を張り上げてしまった。
「マカロンちゃん、逆ギレはよくないわ」
「あなたのせいでしょ!」
私の怒りは頂点に達しようとしていた。
「マカロンちゃん、そんなことよりも、町に着いたのだからビスケットを作ってよ」
「・・・わかったわ」
私は子供の頃からお菓子を作るのが大好きであった。甘くて美味しいお菓子を自分で作れる楽しさは、何をするよりも幸せの時間であった。しかし、人生は厳しいものであり辛いものである。
中学生になった時クラスの同級生と人間付き合い、反抗期ってのもあるけど家族との不仲など、誰しもが通る険しい道を私も通ることになる。しかし、そんな時に全てを忘れさせてくれるのはお菓子を作っている時である。
どのようなお菓子を作るかイメージして、自分なりに創意工夫をしている時間は至福の時であり、嫌な事を全て忘れさせてくれる。しかも、作ったお菓子を家族と食べる事で、家族との関係も美味しく甘いお菓子が緩衝材となり、家族関係も良好になった。学校でも家庭科の時間で私が作ったお菓子が大好評だったので、家で作ったお菓子を学校に持っていくようになってからは、お菓子を通じてたくさんの友人が出来ることになった。
そして、この世界に来た時も、ブラックウルフに襲われた時、私を救ってくれた要因はお菓子である。
今は、絶体絶命のピンチに立たされている。しかし、こんな時はお菓子を作って、一旦全てを忘れるのが一番良いと私は思った。だから、ビスケットちゃんとの口論は避けて、お菓子作りに集中しようと思ったのであった。
私は部屋を抜け出して、屋敷を警護する兵士に事情を話し、リリーちゃんから調理場と食材の使用の許可をもらった。
「ビスケット様はまだお迎えに来ないの~」
さっきまでバナナの食べ過ぎで苦しんでいたビスケットちゃんはもういない。
「今すぐ作るから少し黙っていてね」
私はお菓子を作る時は全てのノイズを遮断してお菓子作りに専念する。材料は全てそろったわけではない。この世界には薄力粉、バター、砂糖、牛乳はあるので、ビスケットは作ることは出来る。しかし、チョコレートやクリーム、イチゴジャムなどのはなく一から作る必要がある。ビスケットちゃんが食べたビスケットはクリームを中に挟んだビスケットなので、同じビスケットを再現するには、クリームを作らないといけない。と私が考えた時、何かポケットに違和感を感じた。私はポケットに手を入れると、そこには市販で売り出されている生クリームのチューブが入っていた。
「あれ?どうしてポケットに生クリームが入っているの?」
私は生クリームをポケットに入れた記憶はない。
「どういうこと?いや、今はビスケット作りに集中するのよ」
私は深く考えるのをやめてビスケットを作ることにした。
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