第30話 第一候補
「ところでリリーちゃん、今日も一緒に御者席に座らないといけないのかしら?」
昨日は馬車の中には多量のバナナがあったため、1人で座る御者席に2人で座っていた。しかし、今日は馬車の中はゆったり座るスペースがあるはずである。
「申し訳ありません。パンケーキ様のご指示により今日も馬車の中は果物で溢れています。残念ながらマカロンさんが座る席はありません」
私とパンケーキちゃんとの扱いは雲泥の差を感じる。
「でも安心してください。私はマカロンさんと1つの席を一緒に座ることは苦痛を感じることはありません。むしろ、心地よく思っています。もしかしたら、パンケーキ様はそれを見越して、あえて多量の果物を馬車の中に用意するように指示を出したのかもしれません。パンケーキ様の思慮深さには感服致します」
リリーちゃんの純真無垢な瞳でそのような事を言われると、私も悪い気はしないのだが、パンケーキちゃんのくだりはちょっと納得はいかない。
「私も妹が出来たみたいで嬉しいわ」
この気持ちには嘘偽りはなく本心である。
「私にはヴァイオレットお姉さまがいますので、マカロンさんはお姉様とは思えませんが、そのような事を言って下さるのはとても嬉しいです」
リリーちゃんの嘘偽りのない言葉に、私は心に釘が刺さるようなダメージを受けるが、最後の嬉しいと言う言葉で死に至らずには済んだ。
「ところでリリーちゃん、【蛇龍王】のアジトはわかっているの?」
むやみやたらに幻影の森を探索してもアジトを見つけれるとは思えない。リリーちゃんなら何かしらあてがあると私は推測している。
「もちろんです」
さすがリリーちゃん、やっぱり出来る子である。
「それなら安心したわ。むやみやたらに幻影の森を探索しても意味がないからね」
「何を言っているのですか!マカロンさん」
リリーちゃんの鬼気迫る声に私は体が硬直した。
「え!私、何か変なことを言ったかしら?」
私は恐る恐るリリーちゃんに聞いてみた。
「むやみやたらに幻影の森を探索して何が悪いのでしょうか?幻影の森は幻想的な森です。適当に探索をしながら幻影の森の風景を楽しみながら【蛇龍王】のアジトを見つけるのが私の作戦です」
リリーちゃんは自分の作戦に絶対の自信があるように堂々と言いきった。
「でも、かなりの時間がかかりそうよ」
私はサクッと終わらせて王都に行きたいと思っていた。
「マカロンさん、時間とは有意義に使うべきだと私は思っています。マカロンさんの旅の目的は存じ上げていませんが、おそらく、世界中の美しい風景を探し求めて旅をしているのだと私は推測しました。なので、アジトを探しつつ幻影の森の風景を堪能するのもオツなものだと思います」
リリーちゃんは私の事を思っての発言であった。
「そうだったのね、リリーちゃん。私はすぐに証拠の写真を撮りいち早く【蛇龍王】の悪事を晒す事が大事だと思っていたわ」
私も対抗してリリーちゃんの事を考えているアピールをした。
「ありがとうございます。いつもマカロンさんは私の事を考えてくれて嬉しいです」
ひまわりのように眩しい笑顔のリリーちゃんを見て、私は少し後ろめたい気持ちになった。
「マカロンさん、私の推測では【蛇龍王】のアジトは3つの場所に絞ることが出来ると思います」
リリーちゃんは私の為に、むやみやたらに探索をするつもりだったが、私の言葉を聞いて作戦を変更した。
「3つね、リリーちゃん。詳しく教えてくれるかしら?」
「わかりました。1つは幻影の森の中心部にある廃墟です。廃墟はいつの時代になんのために作られたのか不明ですが、王都のお城ほどの大きさがあり、隠れ家として最適な場所になっています。そこは国の重要文化財に指定されていて、定期的に王国軍が管理をしています」
「待ってよ!リリーちゃん。それが本当なら王国は【蛇龍王】と遭遇していることになるのじゃないの」
「私もそのように思うのですが、王国軍の調査で一回も【蛇龍王】の存在の報告はありません」
リリーちゃんは淡々と答える。
「もしかして、王国と【蛇龍王】は繋がっているのでは!」
王国と【蛇龍王】がグルだとしたら報告がないのも納得がいく。
「マカロンさん!言葉に気を付けてください!」
リリーちゃんは烈火の如く叫ぶ。
「ごめんなさい」
私はビビりながらすぐに謝る。
「証拠のない国への批判は不敬罪に問われます。本当に気を付けて下さい」
リリーちゃんの瞳はウルウルと滲んでいた。心の底から私の事を心配しているのである。
「安易な発言をしてごめんね」
「わかってもらえたのならよかったです。安易に国の批判をして命を失った人を何度も見たことがあったので、私もついカっとなってごめんなさい」
リリーちゃんは頭を下げる。
「いいのよ。私の事を思って言ってくれたのはわかっているわよ」
私はリリーちゃんに微笑みながら言う。
「それよりもリリーちゃん、廃墟が一番有力な場所だと思うわ。他には考えられないわ」
絶対に廃墟が怪しいと私は思った。
「お言葉ですがマカロンさん。私は廃墟が一番可能性が低いと思っているのです」
「そ・・・そうなの!でも廃墟以外は考えられないわ」
私は自分の信念を貫くことにした。
「マカロンさんが廃墟が怪しいと思うのは理解できます。でも、残りの二つの場所を聞いてから判断してください」
「もちろんよ」
しかし、私は最初に言った意見を曲げるほど、柔軟な思考は持ち合わせていない。どんな場所があろうとも廃墟に行くと決断していたのであった。
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