第4話 大事件

 2分後・・・



 「お待たせしましたチョコレート様!」



 ビスケットちゃんが姿を消して僅か2分で戻ってきた。



 「ビスケットちゃん盗賊は倒したの?」


 「もちろんよ。盗賊を倒したのだからチョコレート様を差し出すのよ」


 「わかったわ」



 私は板チョコをビスケットちゃんに手渡した。



 「香ばしい甘さのビスケット様も素敵だけど、重厚な甘さをかもしだすチョコレート様も素敵だわ」



 ビスケットちゃんは、チョコレートを食べる前にチョコレートの風味をじっくりと堪能する。



 「ダメ、ダメよ。甘ーい匂いが私の脳を刺激して全身に電気が走ってくるわぁ~」



 ビスケットちゃんはチョコレートの匂いを嗅いでのたうち回る。



 「馬車を護衛していた人は大丈夫なのかしら?心配だわ」



 馬車までの距離は500mほど離れているので私には詳しい状況はわからない。しかし、悲鳴や叫び声などもしなくなったので、騒ぎが収まったのは確かである。



 「あまぁ~い。すご~くあまぁ~い」



 ビスケットちゃんはチョコレートをかぶりつき至福の笑みを浮かべている。



 「あの~すみません」


 

 1人の傷ついた兵士がビスケットちゃんに声を掛ける。



 「チョコレート様~チョコレート様~私の愛しいチョコレート様~甘くてやさしい~素敵なチョコレート様~チョコレート様~」



 ビスケットちゃんはまたしても変な歌を歌い出す。



 「あの~すみません。さきほど助けて頂いた者です」


 「チョコレート様~チョコレート様~私をやさしく包み込んでくれる~チョコレート様~あなたの愛が~わたしの愛を~やさしく~激しく~包み込んでくれるのぉ~」


 「兵士さん、ビスケットちゃんは今忙しいようなので、代わりに私が話を聞きましょう」


 「あなたはあの強い女性のお仲間でしょうか?」


 「はい。ビスケットちゃんは私の友達です」


 「あの方はビスケット様といわれるのですね。私達を助けてくださって本当にありがとうございます。もし、ビスケット様が助けに来て下さらなかったら、私たちは盗賊達に殺されていました」


 「ご無事でなによりです。ここは盗賊が出る危険な場所だったのですね」


 「いえ、普段は魔獣も出ない平和な場所です」


 「え!それならなぜ?盗賊が出たのでしょうか?」


 「それは私が説明致します」



 兵士の背後から13歳くらいの可愛らしい女の子が姿を見せた。



 「リリーお嬢様、馬車から降りては危険です」



 兵士は血相を変える。



 「命がけで私達を助けてくださった方に、きちんと会ってお礼を言わなければ、伯爵家の家名に泥を塗ることになります」


 「しかし、まだどこかに盗賊達が潜んでいるかもしれません」


 「そうかもしれません。しかし、危険を恐れてお礼を言わずにこの場から去る事はできません」


 「あの~、あなた方を助けたビスケットちゃんは、チョコレートを食べて上機嫌なのでお礼の言葉はいらないと思います。それに、そっとしておいた方が身のためだと思います」



 今、ビスケットちゃんはチョコレート様に捧げる愛の歌を歌うので必死である。それを邪魔する方が危険であると私は判断した。



  「わかりました。ビスケット様へのお礼の言葉は後程にしておきます」


 「それが懸命の判断だと思います。話を戻したいのですが、なぜ?平和な場所に盗賊が姿を見せたのですか?」


 「それは、私を誘拐するためです」


 「誘拐!」


 「はい。実は3日ほど前に大事件が起きたのです!」


 「だ・い・じ・け・ん!」


 「はい。エーアトベーレンの町で大事に育てたイチゴが何者かに盗まれたのです」


 「イチゴ?盗み食いでもされたのかな?」



 私はビックリして損をしたと思った。たかがイチゴを盗まれたくらいで大事件なんて大げさである。


 

 「そんな可愛らしいコトではありません」



 リリーちゃんは真剣なまなざしで私を睨みつける。



 「何者かが果樹園に入ってイチゴをパクって食べただけでしょ?」



 私は事の重大さを全く理解していない。



 「違います!大事に育てたイチゴが強奪されたのです」


 「そ・それは大変なこ・・ことですね・・・」



 私はリリーちゃんの鬼気迫る迫力に押し負けた。それに、イチゴを生産する人への配慮が欠けていたと反省した。



 「そうです。これは由々しき事態なのです。品種改良を重ねて大事に育て上げたイチゴは、果樹園に設置されているオリハルコンの貯蔵庫に保管されて、一か月後に開催される国王陛下の誕生祭に提出される予定でした。しかし、頑丈なオリハルコンの貯蔵庫は破壊され、中にあったイチゴが全て奪われてしまったのです」


「国王陛下の誕生祭にイチゴを提出?」



 私は、国のトップである国王の誕生祭に、提出されるのがイチゴであることに理解できなかった。国王に提出するのならもっと高価な品を提出すべきだと思った。



 「はい。年に1度開催される国王陛下の誕生祭には、最高品質の甘い食べ物を提出するのがしきたりとなっています。なので、各町の領主は誕生祭に向けて最高のフルーツを作り上げるのが責務となっています。私のお父様も最高品質のバナナを1年かけて大事に育てています」


 「イチゴが盗まれたのならリンゴでも提出すれば良いのでは?」



 安易な発想かもしれないが別のフルーツを提出すればよいと私は思った。



※ 人物紹介

  リリー・ダンディライオン (13歳) 紫色のポニーテールが似合う女の子。髪を結ぶ黄色のリボンがトレードマーク。バナーネの町の領主の娘である。

 




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