第3話 チョコレート様
私が頭上を見上げると、大きな岩が私を覆いつくしていた。そして、よく見るとその岩には大きな目と鼻と口がある。
「何を見ている人間!」
頭上を覆っていたのは巨大な岩山の形をした亀の頭であり、ビスケットちゃんがパンチで穴を開けたのは亀のお腹であった。
「ビスケットちゃんが大事なお腹に穴を開けてごめんなさい」
私はすぐに謝った。
「謝ってすむ問題ではない!お前を食べてお腹の修復の足しにしてもらうぞ」
「キャー―――」
大きいな岩山の形をした亀の頭が、ズズズッと伸びて私の目の前にまでやってきた。
「マカロンちゃんに何をしてるのよ!」
真っ先に洞穴に入っていたビスケットちゃんが私を助けにきてくれた。
「お・・・お前は・・・」
大きな岩山の亀はビスケットちゃんを見るとガクガクと震え出し、亀の体である岩が崩れ落ち、たくさんの岩が空から降って来る。
「危ないわね!マカロンちゃんにぶつかったらビスケット様に会えなくなるじゃない!」
ビスケットちゃんは、頭上から降ってきた岩を目にも止まらぬ早さで叩き潰す。
「ごめんなさい」
大きな亀はすぐにビスケットちゃんに謝る。
「これから私たちは町まで行くの、だから魔樹海の出口まで連れて行って」
「わかりました。私のお腹の中でゆっくりと休んで下さい」
「マカロンちゃん、ロックタートルちゃんが魔樹海の出口まで連れて行ってくれるみたいよ」
「・・・」
私はあまりの出来事にすぐに言葉は出なかった。
翌朝
私とビスケットちゃんが寝ている間に、ロックタートルが魔樹海の出口まで運んでくれたおかげで、かなりの時間を短縮することが出来た。
「ありがとうロックタートルさん」
私は丁寧にお礼を言う。
「また、お願いね」
ビスケットちゃんもお礼を言う。
「二度と魔樹海にくるなぁ~」
ロックタートルは、大きな目から涙を流しながら猛スピードで去っていった。
「私との別れがさみしくて泣いているのね」
ロックタートルの思いはビスケットちゃんには届かない。
「さぁ!ビスケット様に会いに行くわよ~」
私達は町を目指して、青々と茂る草原にしかれたのどかな砂利道を歩く。
「ビスッケト様~ビスケット様~私の愛しい~ビスケット様~あなたを思うと~心が張り裂けるのよぉ~♪」
ビスケットちゃんは、わけのわからない歌を歌いながら上機嫌で歩いている。
「ビスッケト様~ビスケット様~あなたはどこからの来たの~、あなたと出会えた奇跡は~神の導きなのねぇ~♪」
3時間後
「ギャー――」
遠くの方で叫び声が聞こえた。
「え!今の悲鳴は何」
私は悲鳴が聞こえる方へ目を向けたが、遠く離れた場所のようなので状況が把握できない。
「豪華な馬車が盗賊に襲われているようね」
ビスケットちゃんは無表情で淡々と答える。
「盗賊?盗賊って悪い人よね。今すぐ助けてあげないと」
「えぇ~~。面倒くさい」
あきらかにやる気のないビスケットちゃん。しかし、私は盗賊に襲われている人を放ってはおけない。
「お願いビスケットちゃん。盗賊に襲われている人たちを助けてあげて」
「大丈夫よ。馬車には護衛の兵士が10人ほどいるみたい。私が助けなくても大丈夫。それに、私はビスケット様へ捧げる愛の歌を歌うので忙しいの!」
「ビスケット様~ビスケット様~世界で一番あま~いビスケット様、あなたの香ばし匂いは~私を天国へ連れて行ってくれるのよぉ~」
「ギャー―」
再び悲鳴が鳴り響く。
どうしよ。ビスケットちゃんは歌に夢中で助ける気がないわ。私が助けにいったところで何も出来ないし。どうしよう・・・気が動転してあたふたしていると、自分のポケットに手があたった。
「え!何か入っているわ」
私はポケットに手を入れる。
「え!板チョコが入っているわ。なぜ?板チョコが入っているのかしら」
私はポケットに板チョコを入れた記憶はない。
『これをビスケットちゃんにあげれば、助けて行ってくれるかも』と私は思った。
「ビスケットちゃん、これをあげるから、盗賊に襲われている人を助けてあげて」
私はポケットから板チョコを取り出してビスケットちゃんに見せる。
「なにそれ!ビスケット様よりも濃厚な甘い匂いがするわ。それは・・・もしかしてビスケットキング様ですか?」
「違うわ!チョコレートというお菓子よ」
「チョコレート様・・・ダメよ!私にはビスケット様がいるのよ」
ビスケットちゃんは手を伸ばしてチョコレートを受け取ろうとしたが、ビスケット様の愛を貫くために手を引っ込めた。
「ビスケットちゃん、チョコレート様はビスケット様と仲良しなのよ。だから、チョコレート様を食べてもビスケット様は怒ったりはしないわ」
私は面倒だがビスケットちゃんの子芝居に付き合うことにした。
「本当に・・・」
「本当よ。私がビスケット様とチョコレート様をもっているのだから問題ないわ!」
「そうだったわ。マカロンちゃんは節操のない人間だと思ったけど、ビスケット様とチョコレート様が仲良しだったから、一緒にいたのね」
「そ・・・そうよ」
私は少しイラっとしたが、馬車の人を助ける為に怒りを抑えた。
「チョコレート様、少しおまちください。サクッと盗賊を退治してすぐに戻って着ます」
ビスケットちゃんは颯爽と馬車の方へ駆け出した。
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