第33話 リリーちゃんの策


 「パンケーキ様はフルーツスライムを食べ終えた後、食べ過ぎで倒れてしまったのです。私はすぐにパンケーキ様の元に駆け寄りました。すると、森の茂みから白の仮面で顔を隠し赤のマントを羽織った蛇龍王親衛隊のボスと名乗る男が姿を見せたのです『俺は蛇龍王親衛隊のボスであるキングダムだ。俺たちがフルーツスライムの為に用意した果物を食べるとはけしからん』と生まれたての子鹿のように震えながら私を怒鳴りつけたのです。なので、私はズバリと言い返しました。森の中に果物を置いている方が悪いのです。危うくパンケーキ様がフルーツスライムの餌食になるところでした。もし、パンケーキ様でなければ、フルーツスライムの酸の攻撃によって、骨ごと溶かされいました。このような危険な状況を作り出したあなた方の方がけしからんと思います」



 リリーちゃんの気迫ある説教にキングダムもさぞかし怖かったであろうと私は思った。


 

 「ごめんなさいとキングダムは素直に謝ってくれましたので、私はなぜこの森に来た理由を説明して、【蛇龍王】のアジトを教えてくれるように頼んでみたのです」


 「それで、どうなったの?」


 「キングダムは私の申し出を素直に受け入れてくれました。そして、この牢屋で待つように言われたのです」


 「え?自分から牢屋に入ったの?」


 「はい。パンケーキ様もすぐに目を覚まし、たくさんの果物を用意してくれるとキングダムが言ったので、苦しいお腹を抑えながら寝ているマカロンさんをここまで運んでくれました。しかし、マカロンさんは、いつまで経っても目を覚ます事がなかったので、パンケーキ様は心配になってマカロンさんから離れずに、一緒に寝てしまったのです」


 「そうだったのね。それなら、いつでもここから出る事は出来るって事なのね」


 「残念ながら、鍵をかけられてしまったので、ここから出る事はできません。なので、ここでゆっくりと待つ事にしたのです」


 「なにを呑気な事を言ってるのよ!」と怒鳴りつけたいところであったが、凛とした表情のリリーちゃんを見ていると、何か秘策があるのではないかと思った。



 「解ったわ。リリーちゃんの作戦に任せるわ」



 私は大船に乗ったつもりでリリーちゃんに任せる事にした。



 「サーペント様、良いご報告と悪いご報告があります」



 キングダムは顔を真っ青にして、サーペントのいる秘密の部屋に姿を見せた。



 「俺は良い報告しか必要はない」



 サーペントは鋭い眼光でキングダムを睨みつける。



 「ダンディライオン家の娘を捕らえる事に成功しました」


 「そうか、でも、次の作戦には必要のない事柄だな」



 サーペントは金の腕輪を使った次の作戦に駒を進めていた。しかし、誰も理解していないので、何も進んでいない事はサーペント以外はみんな知っている。



 「サーペント様の作戦は理解しています。しかし、念のために、初期の作戦も同時に遂行するのも良いと思います」


 「俺は良い報告だけを待っている。過程などどうでもいいから、早く良い報告を持って来い」


 「わかりました」




 キングダムはフルーツスライムを簡単に倒したパンケーキちゃんの事を報告出来ずに会話は終了した。



 「パンケーキちゃん、やっと目を覚ましたのね」


 私の下敷きになっていたパンケーキちゃんが大きなあくびをしながら目を覚ます。



 「マカロンちゃんこそ、やっと目を覚ましたのね」



 眠りまなこの目をこすりながら嬉しそうにパンケーキちゃんは言った。



 「疲れが溜まっていたみたいね。たくさん寝たからスッキリしたわよ」



 私もパンケーキちゃんが元気そうで嬉しかった。



 「せっかく目を覚ましたのに牢屋の中なんて最悪だわ。早くここから出たいわ」


 「マカロンちゃんはここから出たいの?」


 「もちろんよ。いつまでもこんなジメジメした暗い牢屋の中になんて居たくないわ」


 「マカロンちゃんがここから出たいならすぐに出るわよ」



 パンケーキちゃんが牢屋の鉄格子を握りしめると、ポキンと簡単に折れてしまった。




 「やっぱりお前はケモ耳族なのか?」



 牢屋の前には口をあんぐりと開けたキングダムが立っていた。



 「あなたはケモ耳族の事を知っているの?」



 私は思わず大声を上げた。




 「それは・・・言えない。ケモ耳族の事は王家の秘密事項だから」



 キングダムは思わず口を両手で塞いだ。



 「キングダムさん、口が滑りましたね」



 リリーちゃんが不敵な笑みを浮かべる。



 「俺は何も言ってない」


 「あなたは、パンケーキ様の事をケモ耳族と呼び、そして、ケモ耳族は王家の秘密事項だと述べました。その発言から推測される事は、あなた王家の人間であるという事です」


 「さすがリリーちゃん、アイツの失言でそこまでわかったのね。で、アイツは一体誰なの?」


 「私、あの人の声に聞き覚えがあるのです。初めて聞いた声ではありません。たしか、お父様が王家甘味勲章を授与された時に、国王陛下と話をしていた男性の声と同じです」


 「そんなわけはない。俺はあの時何も声を出していないぞ・・・あ!」



 キングダムの表情は読み取れないが、明らかに動揺している。



 「私の作戦にハマってくださってありがとうございます。私はあなたの声に全く聞き覚えはありません。なので、一つ策を練ってみたのです」



 キングダムはリリーちゃんの策にひっかかって自分から正体を明かしてしまった。


 

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