第35話 パンケーキちゃんの怒り
「お前が絶対の信頼を置くパンケーキというヤツの姿を見るがいい」
私とリリーちゃんはアスパラ宰相とのやり取りでパンケーキちゃんの存在を忘れていた。
「あぁぁぁ~~パンケーキちゃんがぁ~」
私はとりあえず驚いてみた。そして、アスパラ宰相の指さす方向に目をやった。すると・・・パンケーキちゃんが美味しそうに果物を食べていた。
「なんだ。いつものパンケーキちゃんじゃん」
私は驚く必要はなかった。
「ガハハハハ・ガハハハハ」
アスパラ宰相の高笑いが牢屋にこだまする。
「聞いて驚くなよ!」
「わかりました」
リリーちゃんは素直に返事をする。
「ケモ耳族は、果物さえ与えていれば、簡単にテイムできるポンコツ種族だ!俺はフルーツスライムをテイムするほどの腕を持つ、最強テイマーのキングダムだ」
「そんなことはありません。パンケーキ様は義理と人情を糧として戦う崇高なる戦士です。現に私は何も対価を与えずとも何度も助けて頂きました」
アスパラ宰相の言葉に全く動じることのないリリーちゃん。
「その通りだわ・・・」
アスパラ宰相の言葉に納得した私。
「もし、あなたの言っている事が本当だとしても、私にはマカロンさんがいます。マカロンさんは、どんな強敵を前にしても逃げる事はしない勇敢なる戦士です。たとえ、私が助けを求めなくても、放っておくことが出来ない素晴らしい人です」
「なんだと・・・」
と言ったのは私である。リリーちゃんの曇った眼には私はそのように映し出されていたことに憤りを感じていた。
「そんな魔力のかけらも感じない女など何も怖くない。パンケーキ、果物はまだまだたくさんあるぞ。もっと欲しければアイツらを殺してしまえ!」
アスパラ宰相のおどおどしい言葉にパンケーキちゃんが反応した。
「もっと果物が欲しいの」
パンケーキちゃんはムクッと起き上がりギラギラした目つきで私の方を見た。
「マカロンさん!私の為に戦わないで」
リリーちゃんは大声で叫ぶ。もちろん、戦うつもりなどない。しかし、あのギラギラした目は瀕死の獣を狙うハイエナのような殺気を感じる。
『どうすればいいの・・・そうだわ!果物よりも甘い物を用意すればいいのよ。たとえばチョコレートのようなお菓子を・・・』と私が考えていると、ポケットの中に何か出てきたように感じた。私はすぐにポケットに手を突っ込んだ。
「あるわ。チョコレートがあるわ」
私はすぐにポケットからチョコレートを取り出した。
「パンケーキちゃん、果物なんかで満足が行くのかしら?私はチョコレートを持っているのよ」
私は吸血鬼に十字架を見せるようにチョコレートをパンケーキちゃんに見せつける。
「チョ・・・チョコレート様」
パンケーキちゃんから漂う殺気が薄れていく。
「なんだ!あの茶色い板は。そんなものよりもこっちにはパイナップルもあるぞ」
「パ・・・イ・・・ナップル」
パンケーキちゃんの口元から一筋のよだれが滴り落ちる。
「パンケーキちゃん、王都に着いたら私の大好物のマカロンを作ってあげるわよ。だから、そいつをやっつけて!」
「マカロンちゃんが大好きなマカロンを食べれるの・・・」
「そうよ。とっても甘くて美味しいわよ」
「なにがマカロンだ。そんなヘンテコな名前の食べ物など絶対に不味いに決まってるぞ!」
「私の大事なマカロンちゃんをバカにするなぁ~」
パンケーキちゃんはアスパラ宰相にグーパンチをお見舞いした。アスパラ宰相は頭から壁にめり込んでしまった。
「マカロンちゃん・・・」
パンケーキちゃんは、すぐに私に近寄って来た。
「パンケーキちゃん」
私は嬉しかった。チョコレートが欲しくて私を助けたのではなく、私の名前をバカにしたことを怒って、アスパラ宰相を倒してくれたことに。私は歓喜余って涙がこぼれてくる。
「早く、チョコレート様をよこすのよ!」
パンケーキちゃんは、強引に私の手からチョコレートを奪い去って嬉しそうに食べるのであった。そして、私の瞳から溢れ出した涙はすぐに止まってしまった。
リリーちゃんは、アスパラ宰相を壁から引っこ抜き縄で縛って馬車に乗せて王都へ連行することにした。パンケーキちゃんは、牢屋を隈なく探して隠してあった果物を全て奪った。結局私は帰りもリリーちゃんと一緒の御者席に座ることになった。私たちが監禁されていた牢屋は、【蛇龍王】のアジトと思われた大洞穴とは別の小さな洞穴であり、蛇龍王親衛隊のみが使っているアジトであった。アスパラ宰相がリリーちゃんに連行されている間に蛇龍王親衛隊は、危険を察知してすぐに逃げ出した。リリーちゃんはアスパラ宰相だけ捕まえれば芋づる式に【蛇龍王】を捕まえる事が出来ると言って、それ以上の深追いはしなかった。そして、翌日には私たちは王都に着いたのであった。
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