第36話 勇敢なる私

 王都に着くとアスパラ宰相は国王騎士団に連れて行かれて、今までひた隠しにしていた【蛇龍王】の存在が明るみとなった。すぐに王国騎士団は幻影の森に向かったが、アジトと思われる大洞穴はもぬけの殻であり、サーペン・ドラゴンキングこと、ウェザーコック第二王子の姿は忽然と消えてしまった。



 「リリー殿、この度の活躍を我は非常に満足をしている。果物の価格の高騰は国も非常に頭を痛めていたのだ。まさか、ウェザーコックとアスパラがその元凶だとは夢にも思わなかったぞ」



 私とリリーちゃんは【蛇龍王】の正体を世間に知らしめた功績で玉座の間に呼ばれていた。もちろんパンケーキちゃんは食堂で果物を食べている。



 「私は失礼を承知で言いたい事があります」



 私はリリーちゃんの発言にビックリして小声で止めに入る。



 「リリーちゃん、余計な事は言わない方がいいわよ」



 しかし、私の声が小さすぎて聞こえない。



 「なんなりと言ってみよ」



 寛大なホーステイル国王は、リリーちゃんに発言権を与える。



 「今回の事件は王族家の慢心と怠惰によって起こされた事件だと思います。きちんと捜査をすれば、【蛇龍王】の存在はすぐに特定出来たと思います」


 「リリーちゃん、言い過ぎよ」



 私は再度、小声で注意するがリリーちゃんにはやっぱり聞こえない。


 

 「我の捜査に不手際があったと言いたいのだな」


 「そんなことないと私は思うけどなぁ~」


 

 と私は呟くが誰も聞いていないようだ。



 「はい。私のお父様からも【蛇龍王】に関する案件を報告していたと思います。しかし、きちんとした捜査は行われずに、すぐに捜査は打ち切りになりました」


 「それは、我の不手際ではない。部下が勝手に捜査を打ち切ったのだ」



 ホーステイル国王は、初めの余裕な振る舞いはなくなり、リリーちゃんの態度にイライラし始めた。



 「部下の不手際は上司の責任です。部下に責任を転嫁するような上司は必要ありません」


 「私はそんな事全然思っていないです!」



 私は声を張り上げでアピールをした。しかし、リリーちゃんの厳しい言葉にホーステイル国王も我慢の限界がきて、私の言葉は耳に入らない。



 「お前は我に責任があるというのか!我を誰だと思っているのだ。我はオーブスト王国の国王だぞ」



 ホーステイル国王は玉座から立ち上がりリリーちゃんを恫喝する。



 「そうです。あなたこそ偉大なるオーブスト王国の国王陛下です」



 私は跪き誠心誠意の忠義を見せつける。が、2人には私は見えていないようだ。そして、周りにいるホーステイル国王の従者たちも、リリーちゃんとホーステイル国王の熱い口舌バトルに飲み込まれて何も言えない。



「もちろん、知っております。だからこそ、私は言いたいのです。無能な王は国をダメにしてしまいます」



 「我がダメな王だと言うのか!」



 ホーステイル国王の恫喝に、私を含めて国王の従者達はオシッコを漏らしそうになる。



 「そうです。それは私だけの意見ではありません。同席している全ての方がそう思われているでしょう」



 私を含めて国王の従者達は大きく首を横に振る。



 「我が裸の王だと言いたいのか?」


 「いえ、違います」



 リリーちゃんは静かに首を横に振る。その姿を見た全ての者はホッとした。これで、少しは収束に向かうであろうと。



 「裸の王のがまだ有能です!あなたは裸の王以下です」



 リリーちゃんの厳しい指摘に、国王以外は失神した。



 「ふざけるのも大概にしろ。我にそのような口を聞いて生きてここから出れると思っているのか!」


 ホーステイル国王は玉座の間に飾られている煌びやかな剣を手にした。



 「自分の思い通りにいかなければ次は力で抑えつけるのですか?それが、オーブスト王国を導く王の姿なのですか?」


 「死を前にしてもそのような口を聞けるのはたいしたモノだ。だが、死んでしまっては意味がないぞ」



 ホーステイル国王は、ニヤニヤと笑いながらリリーちゃんに近寄る。



 「私が死んでも何も変わりません。私の意思はマカロンさんが引き継いでくれるでしょう」


 思わぬ発言に私は目を覚ます!



 「ホーステイル国王、あなたの悪事は全てわかっているのです。私は玉座の間に訪れる前に秘密の書庫によったのです。そして、なぜ、国王の誕生祭に甘い果物を提出するのかその真相を‼️」


 「黙れ!」



 ホーステイル国王は、リリーちゃんを斬りつけた。剣から赤い血が滴り落ちる。


 「ギヤァーーーー」


 けたたましい悲鳴が鳴り響く。


 「マカロンさん」


 私は思わず飛び出してしまった。リリーちゃんを守る為に。卑怯者の私を最後まで信じてくれたリリーちゃんを見捨てる事は出来なかった。


 「うゎぁぁ〜〜」



 激しい怒号が聞こえたかと思うと、玉座の間の床に穴が空いて、何者かが飛び出してきた。



 「マカロンちゃんに何をしたのよぉ〜」



 飛び出してきたのは、身長が3mほどのケモの耳が生えた美しい美少女であった。手には鋭い爪、口には尖った牙、目は真っ赤に染まり、髪は銀色に輝いていた。


 

 「パンケーキ様、助けに来てくれたのですね」



 リリーちゃんはすぐにパンケーキちゃんだと気づいた。  



 「マカロンちゃんは大丈夫なの?」


 「大丈夫です。躓いて転んだだけです」



 私はリリーちゃんを助ける為に飛び出した。しかし、足が絡まり転んでしまい、リリーちゃんと衝突した。しかし、それが幸いとなり、ホーステイル国王の振りかざした剣は、リリーちゃんの肩をかすめる程度に済んだのである。


 



 

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