第17話 雑音

 大家としての能力は、土地限定での情報掌握と物質操作、そして結界を張ることと、警告という名の行動の強制制限。

 だが俺は、検問所のお偉いさんとの契約で封じられている別の能力がある。


 職員はシャケさんを別の職員に任せ、足早に俺を医務室に押し込んだ。

「できるなら宿に戻るのが安全なんですがね。決まりで上層部の人たちは検問所から動けないんですよ」

 時間帯のせいなのか無人の医務室に職員の息切れがよく聞こえる。俺は大人しくいう通りに従うほかない。俺の封じられた能力は無意識で発動する。だから余計なことをしないために、俺は医務室の端のベッドに腰掛けた。

「それならそのままお偉いさんの部屋に行った方が良かったのでは?」

「ヒト除けのまじないをかけたとしても、今の貴方を不用意に連れ回すよりはここで待ってもらう方が安全ですから。上層部のフロアにヒトを入らせないためでもありますが……」

 職員は俺が腰掛けるベッドを囲う範囲で結界を張った。

「部屋全体にかけるよりも強固なはずです。契約で封じていた力が発動している以上、大家の力は弱まっていることは確定ですし、再契約のために上の者をここに呼んできます」

 膝を抱える俺に、職員は結界越しに警告した。

「いいですか? 上の者と戻ってくるまで、そこから動かないでください」

 俺の返事を待たずに職員は慌ただしく医務室から出ていった。その瞬間、静かな医務室が一変する。

 職員の結界で俺に近づけない大小さまざまなヒトがベッドの周りを取り囲んで何か呻いている。擬態皮を着ていないからザラついた金属が擦れるような音にも聞こえて、思わず耳を塞いだ。音を完全に遮断できるわけではないが、これから来る音に対する予防だ。

「お待たせしました」

 来た。職員に似た声質だが、違う。目を合わせると余計に厄介だから目を閉じて我慢だ。

 いつからこんなことに慣れたのかわからない。

 俺の厄介な能力は、ヒトを異常に寄せ付ける。大家になる前は俺の周りで変な雑音とポルターガイストがよく起きるくらいだった。そのせいで普通の人の生活なんて物語でしか見ないものだと思っていた。

 これさえなかったら、など何度思っただろうか。高校に入学した時に先生から貰ったお守りがあった時は少しはマシな生活を送れたが、火事で全て燃えてしまった。

 あのお守りはどの先生に貰ったんだっけ。

 唯一まともな学生生活を送ったはずなのに、同級生の名前も思い出せない。

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