第15話 疑惑の二人
今まで昔の傷が痛むことなんてなかった。
それがここ最近は頻繁に痛む。決まって嫌な予感がする時に。鏡で傷跡を確認したが、特に変化はない。ケロイドもひきつれも検問所で治療されて大きな跡はないが、明らかに他の肌と色が違うし違和感がある。
これを知っているのは検問所の職員と爺ちゃん、そしてシャケさんだけだ。
爺ちゃんの悪友と言ってもいいシャケさんは長く此処を出入りしている。だから知らないことの方が少ないのかもしれない。此処に来るヒトの中で唯一、擬態皮無しで日本語を喋れるくらい、あのヒトは永く人間と関わっている。そして
だから仕方ないのだが、検問所はシャケさんも警戒している。
「基本的に飲酒か酒蔵巡りしてますね。個室よりも共有スペースにいることが多いので、ほぼ常に俺の視界に入っています。昨晩の時も共有スペースで飲酒してましたが、俺が侵入者の場所を伝えたら部屋の秘蔵酒を確認しに走ってしまいました」
人間の泥棒が侵入した次の日、朝一番にいつもの巡回の職員が話を聞きに来た。
念の為と言って、その場で泥棒を取り押さえたシャケさんの事を聞いてきたのだが、どうにも様子がおかしい。
「なるほど──つまり共有スペースを出てから泥棒を取り押さえるまでの間、目視できていない状態だったわけですね?」
「まあ……そうなりますね」
「昨晩の宿泊客は一人だけで間違いないですか?」
「はい。彼一人だけで、他に宿泊客はいませんでした」
職員は改めて宿泊の帳簿を確認し、何か考え込んでいるようだった。
「あの……昨日の泥棒はどうなりましたか」
考え事の邪魔する気はないが、今の職員はそのまま帰りそうだったので聞いてみた。すると職員は忘れていたと慌て気味に俺に書類を渡して、玄関から外へ出ていった。
説明もないままなんなんだと渡された書類を見ると、検問所からの健康診断の案内だった。
なるほど。敷地外からの過干渉がないように張った結界の確認を、職員はしに行ったのだと納得した。俺も昨晩確認したからわかっている。
結界を破られた形跡がない場合、考えられる侵入者の原因は俺の大家としての力の弱体化か、内部からの手引き。それくらいだろう。健康診断は大家としての力の確認も含まれているはずだ。
外の結界の確認を終えた職員が戻ってきた。その顔を見ればわかる。
「彼、連泊なんで起きたら共有スペースに来ると思いますよ」
聞かれる前に俺が言ったら、職員は俺に検問所に行くように言って共有スペースへ足早に向かった。
「俺の力の問題だといいんだけどな……」
また針を刺すような痛みが脇腹にはしった。
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