第14話 緑林

 検問所の巡回があったとしても、規則を破るヒトは関係なく問題を起こす。

 それはヒトでも人でも同じことだ。まあ今はそんなことはどうでもいい。


「大家、警察と検問所のどちらに突き出せばいいんだ?」


 俺が大家になって初めて、人間の泥棒が入り込んだ。

 不法侵入は俺がすぐに気づいたのだが、入り込んだ場所が悪かった。すぐに隔離しようと間取りを弄る前に、泥棒はすぐ近くのシャケさんの部屋に入ってしまったのだ。

 そしてあろうことか各部屋に設置している石が嵌めこまれた燭台を盗んで廊下に出てしまった。それは部屋で擬態皮を脱いでも部屋の広さに合わせてヒトの大きさを調整してくれる代物。

 見た目はアンティーク調の年代物で、石も検問所が用意した物だから、人間には金目の物に見えたのだろう。まあ普通に換金しようとしても一円にもならないだろう。

 ただ、ヒトに横流しされたら非常に不味い。

 幸い泥棒が廊下に出た時にシャケさんと鉢合わせ、泥棒を取り押さえてくれた。これがロロアさんや他のヒトだったら、咄嗟の加減がわからず怪我をさせていたかもしれない。運の良い泥棒だな。

 シャケさんは長年こっちの世界にいるだけあって経験豊富だ。だから泥棒を床に押さえつけ、さらに自ら泥棒の背中に乗って、両腕を捻り上げて固定してくれている。ハンマーロックの両腕版という感じかな。おかげで泥棒は小さく動くことしか抵抗できない。


「検問所に引き渡します。盗んだ物が物なので──無関係と俺が判断できませんから」


 ヒトと人の共犯なんて今の時期に最悪な話だ。そうではないことを願いつつ、俺は泥棒から回収した燭台を強く握った。

「それにしても、大家が鉢合わせなくて良かったな」

「宿泊客の前で言うのもなんですけど、その通りですね。俺は対人では無能なんで」

 大家としての力は一般の人間には通用しない。物質操作で密室に泥棒を隔離するくらいしかできない。情報掌握で鉢合わせしないように距離はとっていたが、万が一大家の情報掌握をかいくぐって奇襲できる人がいたら、俺は簡単に殺されるだろう。

 それができるのなら、その人間は確実にヒトと手を組んだ人だ。

 大家の情報掌握を無効にする薬が爺ちゃんの代で闇取引されていたらしいが、今は取り締まられて生産所も潰された。昔の話だ。だからといって油断や大家の力を過信しているわけではない。

 ただ、検問所の職員が駆けつけ、泥棒を連行し、検問所との扉が完全に閉まるまで、俺は脇腹が痛くて仕方なかった。

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