第22話 親について
自分の覚えている中で一番古い記憶を聞かれたら、きっと普通は幼少期まで遡れるのかもしれない。けれど俺は、高校生の頃の記憶ですらぼんやりしている。
まるであの火事で記憶も燃やされたかようだ。なんて言って信じるのは検問所くらいか。
爺ちゃんなら知っているとわかっていた。俺の本当の親のこと。
聞く機会がなかったわけではない。それでも今聞いたのは、俺が気にしていなかったからだ。
「人間だ。産みの親はな」
「じゃあ育ての親は?」
「育ての親は、ヒトと人間で三人──おい、大丈夫か」
両肩を掴まれて、俺は間抜けな声しか出なかった。何か気づかずに首を傾げていたら体を横にされた。
「顔が真っ青だぞ」
「ほんと? 全然気づかなかった」
特に自覚症状もないし意識もはっきりしているので続きを話してもらった。
「わしはお前の育ての親と面識があったんだが……その、子育ての方法が独特で、とても産みの親が頼んだとは思えなかった。だから双方の合意の上かと聞いたんだが、一方的な善意の押し付けだったんだ」
「俺、どうやって育てられたの?」
当然の疑問に爺ちゃんは言葉につまった。しばらく上手い表現方法を探し、両手で何かを伝えようと空をかき、やっといい言葉が出たようだ。
「卵に入れられたうえにカンガルーの様に体のポケットに入れられていたと言ったら想像できるか?」
「あー……うん」
深く考えたらいけない。大家の鉄則だ。
「産みの親が育児の愚痴を吐いたのを曲解した結果、お前はヒトに新生児の頃に拐われてる」
「うん?」
「それで十六年間お前は卵の中で育てられ、わしやサケさんが気づいて咎めたから返しに行ったものの、納得はしていなかった」
「……シャケさんは知ってたんだ」
俺の小さな呟きを無視して爺ちゃんは続けた。
「すぐに検問所に報告しようとした矢先だ。あの火事でお前が検問所に運ばれてきたのは」
「え……」
「お前に大家を任せてから、わしは昔のツテで独自に調べたが、やはりお前の育ての親は──」
「待った、爺ちゃん」
俺は思わず起き上がった。爺ちゃんの言うことが間違っていないなら、時間軸がおかしい。
「どうした?」
爺ちゃんと俺のどちらかの記憶の
「もう、いいよ。サインして」
いつまでも検問所にも、自分にすら隠したままというわけにもいかない。
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