第23話 夢旅の支度
大家になるために爺ちゃんに引き取られた時からの記憶は思い出せるのに、どうにもあの火事よりも昔のことは朧げではっきりと思い出せない。
それでも何か検問所に言えない事が俺にはある気がする。なんとなくだけど。
爺ちゃんがサインした後の検問所の対応は早かった。
すぐにその担当の職員が車椅子を持って医務室に来て、俺を乗せてさっさと移動し、あっという間に専用の部屋へ案内された。
人間の脳をいじって記憶を見る部屋にしては、想像していた数倍ふつうだった。
病室のように真っ白な壁に、清潔感あるタイル床。歯医者で処置するときのような椅子の横には大きなモニターがあり、それに繋がっている数本のコードのような細長い物が垂れ下がっている。
部屋にいる職員は全員スーツを着ている。まるで会社の中のようだ。ドラマでしか見たことないからよく知らないけど。
「はじめてなんですけど、頭開けたりするんですか?」
車椅子から降りて歯医者にあるような椅子に座りながら聞くと、準備していた職員は笑顔で否定した。
「しないですよ。専用のコードを繋げたヘッドホンをつけるだけでいいですから」
寝ている間に終わるというのは本当のようで、椅子の背もたれを倒してタオルケットもかけてくれた。
「俺は一緒に見れないんですか?」
真っ暗な画面のモニターを指さしてみたが、首を横に振られた。
「記録として録画はするのでそれを後で見ることはできますが、リアルタイムでは無理ですね」
やっぱりそうか。もし検問所にバレて不味いことがあったとして、このまま処理されそうな心配もあるけど、意識を保ったままの全身麻酔をお願いするようなもんだし。無理か。
俺が観念してヘッドホンを着けようと受け取ると、職員はモニターに繋がる機械を弄りながら独り言のようにぽつりとこぼした。
「まあ大抵は本人も夢を見るように見れてるって言いますし。何かしらの加害者であろうと、貴方の場合は例の被害者である立場が優先されるから処理されるとしても上層部の話し合いの後になる──ま、大丈夫ってことです」
「なんか……ありがとうございます」
「いえ。はじめてこれをやる人はみんな心配することですから」
職員は穏やかな笑顔で話す。慣れた人だな。実際にそうなった人もいたんだろう。
「じゃあ心の準備ができたらヘッドホンをつけてください」
「はい──」
いくつも繋げられているコードを引っ張らないように注意しながらヘッドホンを装着すると、一気に全身に力が入らなくなるほどの眠気に襲われた。
何度か気絶した経験はあるが、全然違う感覚だ。意識が遠のくのは同じなのに不思議だ。
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