第21話 爺孫の会話

 爺ちゃんがなぜ俺を大家にしたのかはわからない。そもそも爺ちゃんの事を、何も知らない。

 他人なのか、血のつながった親族なのかすら俺にはわからない。だけどあの火事の後に、俺の居場所をくれたのは間違いなく爺ちゃんのおかげだ。

 俺は自分のことすらよくわかっていない。


 いつの間にか俺は眠っていたらしい。右頬にはしった激痛で目を覚ました。

「おう、起きたか」

 寝ぼけ眼でもはっきりわかるほど鬼の形相の爺ちゃんが、俺の襟ぐりを掴んでいる。なるほど、おそらく平手打ちされたんだ。職員が慌てて爺ちゃんを止めようと肩を掴むもびくともしない。

「先ほど話した通り大変な目に遭ってるんです! 容赦してあげてください!」

「そんなもん今はどうでもいい。二人きりにしてくれ、話し合いが必要なんだ」

 怒気混じりの爺ちゃんの声に職員はたじろいだ。それが普通の反応だろう。俺は黙ってハンドサインで職員に大丈夫だと伝えると、渋々だが職員はため息をはいた。

「暴力はダメですからね! 言葉で! 話し合いをしてくださいよ!」

 至極当然のことを吐き捨てて、医務室から出ていった。


 職員が戸を閉めたのを確認して、爺ちゃんは俺から手を離した。そして近くに丸椅子を持ってきて腰を下ろし、俺をジッと睨んだ。

「サインはまだしてない。お前の話を聞いてから決めると話をつけてきたが……お前はどうしたい」

 こんな時すら俺の意思を聞くのかと、俺は思わず吹き出した。また平手打ちされるかと覚悟の上だったが、なにもなかった。

「正直、あまり俺も思い出してないけどさ、嫌なことが起きると脇腹の火傷跡が痛むんだ」

 爺ちゃんは黙って真剣に俺の言葉に耳を傾けてくれる。まるで最初に会った時のようで懐かしいが、あの時とは違う。

「爺ちゃん、俺の本当の親って人間?」

 今日、俺は爺ちゃんにずっと聞きたかったことを聞く覚悟ができた。

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