第11話 空虚

 指名手配書が配られてから定期的に検問所の職員が見回りに来るようになった。うちには今だに常連の二人しかいないから変わり映えしないのだが、それでも職員はまた来ると言う。

「これ、捕まるまで続くんですか」

「そうですね。検問所の規制は厳しくなるばかりで緩む目処はないですし……そろそろ密入国ルートも此方で捜査対象にしなければならないんで」

「検問所を経由せずにこっちの世界を移動しているってことですか」

「犠牲となった異世界の被害者の身内がけっこう上位の権能者でしてね……ご協力していただいてるんですが、そちら側も視野に入れるよう忠告されたんですよ」

 職員はやれやれとため息を吐いた。



「大家さん、毛糸を紡ぎ直すのを手伝ってくれる? シャケさんだと酒の臭いがつきそうで……」

 職員が帰った後に共用スペースに戻るといつもの二人がいつも通りにしている。疲れる話の後だと肩の力が抜けて安心すらした。

 俺はロロアさんが両手で抱えているカゴから、絡まっている毛糸を二つ取った。

「いいですよ。絡まっているのをほどくのをやりますね」

「ありがとう……助かるよ」

 珍しくシャケさんがいないのでソファーに座ってやることにした。俺の向かい側に座ったロロアさんは細い指で毛糸を引っ張りながら、ポツリとつぶやいた。

「シャケさんがいないから言うけど、例の指名手配のヒトってここの常連客だったんだって? あたしは会ったことないからわからないけど、シャケさんはどう思っているのかな」

 一番の古株の常連であるシャケさんがいないから出せた話題だ。俺は手元を見たまま返した。

「シャケさんはどうですかね──ああでも、今まで触れてこないあたり聞いちゃいけないのかと思います」

「大家さんは気にならないの?」

「俺も会ったことないんでどんなヒトかも知らないので特には。此処に居座っているとかでないなら今のところは他人事ですね」

「もし……大家さんの家を焼いた犯人だったらどうするの」

 ロロアさんは恐る恐る聞いてきたが、俺は絡まってこんがらがっている毛糸の端を強く引っ張る方に気が入っていた。そもそもそんな気を使わなくて良いのに。

「此処の敷地内に入ってこない限りはどうもしませんよ。俺は外ではただの人間なので」

 力任せに引っ張ったせいで、毛糸は短く千切れてしまった。

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