第5話 宿屋に帰る際の出来事

 俺は初めてのギルド依頼である「薬草採取」を成功させた。薬草を大量に採取したことで、俺のギルド貢献ポイントは52ポイントに達し、見事にFランクに昇格することができた。ルナさんからは、Fランクの冒険者カードと、報酬として銀貨8枚をいただき、ギルドを後にした。


 「ナビィ、銀貨8枚だよ?信じられないよ。まさかこんなに貰えるなんて思っても見なかったよ。」


「団長、お金は貰えて良かったけど、あの薬草採取は、流石にやり過ぎだったね。ギルド職員さんも、数が数なだけに大変だったみたい。」


「そ、そうだったんだ。面目ない…。」


 俺が宿泊している宿屋「銀月」は、朝夕2食付きで、1泊あたり大銅貨3枚が必要である。今回俺が受け取った銀貨8枚であれば、26泊分の費用をまかなうことができてしまうのだ。俺はたった1日で、約1ヶ月分の収入を得てしまったのである。


 現在、俺は大通りを歩いて宿屋に向かっている。今日は長い距離を歩いたため、できるだけ早く体を休めたいと思っている。日が南に沈みかけており、人通りも少なくなってきている。俺は大通りから右折して小道に入った。俺が泊まる宿屋「銀月」は、この先にあるはずだ。


「よう、最弱職のあんちゃん。」「随分ご活躍じゃないか。」「俺達は、ちょいと金に困っていてな。少しばかり貸して貰いたいのよ。」「今日は、たんまり稼いでたみたいだしな。」


 不意に視線を向けると、前方には二名、後方にはまた二名が立ち塞がっていた。どうやら、完全に逃げ道を遮断されてしまったようだ。その四人の正体は、Dランク冒険者のボギー、ルッツ、キーファ、サンという者たちである。彼らは、問題を起こすことが日常茶飯事であり、その素行の悪さは周知の事実だ。


 Dランクは、ある程度実力を認められないと昇格するのが難しいそうだ。奴らは、それなりの実力はあるということだろう。


「えっと。俺は、そう言うのは、ちょっと…。」


「はぁん!?俺達が穏便に話を進めようとしているのに、随分な態度じゃないの。」「ちょいと痛い思いをしないと分からねぇみたいだなぁ。」


「脅しですか?」


「おっと、人聞きが悪いな。俺達は、安全に部屋に帰れる方法を教えているだけだぜ。」


「嫌です!通して下さい!」


「行かせるかよ!」「身の程って奴を教えてやるぜ!」


「クッ…。」


 俺は、迅速に態勢を整えた。相手は4人もいる。抵抗すれば大けがを負う危険があるが、ただ黙って金を差し出すわけにはいかない…。


 4人組が俺を完全に包囲した。もう逃げ道はない。唐突に、正面の男が拳を振り下ろしてきた!

 

Doka!


「うぐぅ…。」


 強烈な拳撃が俺の顔面を直撃し、後方へと吹き飛ばされた。と、同時に背後から一人が俺を捕まえ、自らの方へと引き寄せた。


「ほら、こっちだよ。」


Boka!


「うぅ…。」


 そのまま、腹部を強く蹴り飛ばされて、痛みで疼くまる。もはや、抵抗すら困難な状況に陥っていることを理解する。


「さぁて、どうする?」


 俺の髪を強く引っ張って、無理やり立ち上がらせる。リーダー格のボギーは、臭い息を吹きかけながら、俺に向かって話しかけてきた。非常に醜悪そうな人相をしており、この状況を楽しんでいるような表情を浮かべている。


「お断りします!」


「テメェ!最弱職のくせに、舐めやがって!」


 男が右手を振り上げ、瞬く間に猛攻を仕掛けようとする。俺は、目を閉じ、歯を噛みしめた。


「あなた達、待ちなさい!」


 俺の前に、銀色の軽鎧をまとい、片手剣を帯剣した女性が突如現れた。まだ若いが、黄金色の長髪が印象的なその女性は、ジョブを授かった時に出会った剣聖、アマーシャさんだった。


「何故お前がここに!?」「おい、剣聖がいるぞ。」「やばくないか?」


「あなた達、寄ってたかって弱い者いじめ?それとも、盗賊紛いに恐喝かしら?」


「チッ!今日は引いてやるよ。」「おい、行くぞ!」


 4人組は、剣聖のアマーシャさん相手では、分が悪いと思ったらしく、あっさり諦めて帰って行った…。


「助けて頂いてありがとうございます。本当にどうなるかと思いました。あっ、俺は弱い者いじめされていたヒビキって言います。」


「あはは。ごめんなさいね。ヒビキ君ね、知っているわ。ランク外の最弱職と言われてるのに、アイテムボックス持ちで、大量の薬草を持ち込んだ新星と噂よ。私は、アマーシャよ。」


「あはは…剣聖のアマーシャさんに覚えて頂いて光栄です。」


 俺達は、ここで初めて握手を交わした。


「もしかして、君もそこの宿屋?」


「はい。銀月です。」


「そう、同じだったのね。私は、偶然帰る所だったの。大切なお金奪われなくて良かったわ。」


「本当に助かりました。ありがとうございました。」


 俺は、改めてお礼をしてから、アマーシャさんとはここて別れた。


 ――


 俺は、銀月のベッドに横になっている。先程のことを思い出していた。


「どうして、絡まれたんだろう…?」


「それは、団長が大量の薬草と、ストレージを大勢の前で披露して、大金を貰うのも見られていたこと。」「そして、最弱と言われているのに、戦姫も連れずにフラフラ歩いていたことだと思うよ!」


「グサッ!もろに心に刺さって痛い…。まあ、そうなんだよな。あんなに注目されると思わなかったんだよ。」


「次からは気をつけてね。」


「うん。」


 今回は偶然にもアマーシャさんに救ってもらえが、これからはもっと気をつけないといけないと思った。とはいえ、剣聖と最弱職という相対的なランクの違いによって、人から受ける印象も違うということを改めて痛感することになったヒビキであった。…。


―――― to be continued ――

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