第45話 ユーザリア帝国との戦い⑤

―――― シノブ視点 ――――

 

 「よくもやってくれたな!このまま帝国と王国を我が手中に収める計画が台無しになったではないか。」


 悪魔ルーナスは、老人の身体を脱して、軽やかに姿を現した。その初めの頃は小さな身体であったが、次第に膨らみ、私が見上げざるを得ないほどの壮大な大きさに成長した。ルーナスの容姿は、羊のような顔と馬のような輪郭を持ち、逞しい肉体には暗黒の羽が不気味に生え揃っていた。


(羽か…空中戦になったら不利ね…。)


「脆弱な人間め。その身体を八つ裂きにし、魂を食らってやろう。」


 ルーナスの手には、瞬時に薙刀のような武器が現れた。私は身構え、相手の攻撃に備えた。


 ルーナスは、強く地面を蹴って、一気に私の間合いに入り込んだ。


Zan!


 その攻撃は、激しい風圧を巻き起こしながら繰り出され、私の首を的確に狙っている。その速度は、まさに疾風迅雷。必死で身体を反らせ、攻撃を回避しようとするが、それでも横凪の際に生じる空気の圧力によって、私の頬はかすかに傷ついた。頬から滴り落ちる血を拭い、私は次の攻撃を仕掛ける。


Keen!


 私の刀と相手の薙刀が、火花を散らしながら激しくぶつかりあった。だが、私は二刀流の使い手であり、左手でルーナスの首を狙った。


Shu!


 ルーナスは、辛うじてこの攻撃を回避する。


「やるな。人間にそなたの様な強者がいるとは思わなかったぞ。我は、能力ある者を好む。我に従うならば、このまま殺すのを取り止めよう。どうだ?」


「それは、お断りします。私には、この身も心も捧げている主がおります。そして、我が主は、あなたの消滅を望んでおられます。私は、主の意向に従うまでです。」


「くだらんな。ならば死ぬがよい。」『デスフレア』


 ルーナスより、大きな魔力を凝縮した漆黒の塊がこちらに放たれた。直撃すれば私でも無事では済まないことを瞬時に判断する。


「忍法『瞬発の術』!」


 脚力を強化し、この場から一目散に避難する。


「あなたたち!死にたくなければ、逃げなさい!」


 私は、帝国兵士にも大声で退避を促す。私の声で彼らも悪魔に変貌したルーナスに気づいたようで、デスフレアに巻き込まれないように逃げ出した。


 デスフレアは、私がいた場所の周りに正確に移動し、静止した。その後、さらに周囲の魔素を吸収しながら肥大し、強烈な爆発を引き起こした...。


Dokkaahann!


 周囲100メートル四方の範囲には大穴が開き、砂塵は上空高く舞い上がっていた。まだあの場所に残っていたらのならば、まともに被害を受け、落命していたかもしれない。帝国兵士たちは、この惨状に恐れをなし、散り散りに逃げ去っていった。私とルーナス以外に、この辺りに誰もいないようだ。


「よく逃げたな。だが、お前を必ず滅ぼしてやる。」


「あなたにそれができるとは思えないけど。」「今度は私の番よ。忍法『魁力(かいりき)の術』!」


 魁力の術は、全身の身体能力を向上させる忍術である。脚力に特化した瞬発の術とは異なり、全身の筋力が増強される。したがって、脚力や腕力を含めた、攻撃力や防御力も強化されるのである。


Tata!


 地面を強く蹴り、素早く移動する。私は元々、素早さに自信があったが、SRになったことで、飛躍的に能力が向上した。そして、魁力の術を使用することで、私は瞬く間にルーナスの背後に回り込んだ。


「何っ!?」


 ルーナスは、私の圧倒的な速度に動作が遅れ、慌てているようだ。


Zan!


「うぉー!!」


 ルーナスにとっては、予期せぬ攻撃だった様だ。その瞬間、ルーナスは対応が遅れ、両翼の羽が刈り取られ、無慈悲に地に落下した。背中からは、赤黒い体液が滴り落ちていた。私は、懸念していた上空への退路を事前に封じることに成功する。この期に更なる攻撃を仕掛けることにする。


「忍法『火遁(かとん)、炎玉の術』!」


「ぎゃあ!」


 ルーナスは、強烈な炎の玉が衝突し、爆発的な炎に包まれた。しかし…。


「はぁ!!」


 ルーナスは、激しい闘気を放つ。皮膚を焼き始めた炎は、全て吹き飛ばされていた。


「よくもやってくれたな。もう一度くらうがいい。『デスフレア』!」


 再び、漆黒の魔力が凝縮され、こちらに放たれた。デスフレアの威力は、知っての通り、凄まじい。直撃は死を意味する。


「忍法『土遁(どとん)、包み壁の術』!」


 デスフレアは、私に迫りながら膨張を始める。しかし、魔力の塊の周囲には土の礫が集まり、動きを阻むように取り囲んでいた。土の礫は、やがて土の壁となって魔力の塊を覆いつくして、今度はどんどん凝縮されていった…。土の礫は、第2弾、第3弾と土の壁を形成し、強度を高めていく…。

 

Bon!


 包み壁が破裂して音を立てた。しかし、決して前のような規模の大きいものではなく、規模の小さな爆発に留まっていた。どうやら包み壁の術は成功したようだ。パラパラと音を立てながら地面に落下した包み壁は、その役目を終えたのであった。


「な、何だと!?」


 ルーナスが絶対的に自信を持っていたデスフレアは、ここに破られたのであった。


「残念だったわね。一度全容を見せて貰ったから、対応させて貰ったわ。じゃあ、今度は私の番ね…。」


「ちょっと、まて…」

「忍法『雷遁(らいとん)、落雷の術』!」


Gorogoro…Dokkaahaan!


 激しい閃光とともに巨大な落雷がルーナスを襲った。頭上から直撃する。


 強烈なパワーと激しい電力により、ルーナスは丸焦げになり、気を失って倒れた…。


 「じゃあ、仕上げしましょうか。顕現、妖刀魂喰(ソウルイーター)」


 シノブのもう1つの能力「妖刀顕現」である。妖刀魂喰と呼ばれる、刀身より青紫色のオーラを放つ禍々しい刀が顕現された。魂喰は、妖刀としての斬れ味も然る事乍ら、別の能力も持ち合わせている。


「さあ、妖刀魂喰よ。悪魔ルーナスの魂を喰いなさい。」


 気を失い、地面に突っ伏しているルーナス。そのルーナスより可視化された魂が表れた。これは妖刀魂喰の能力である。ふわふわ浮かび上がった魂は、妖刀魂魂に向かって移動し、刀身に吸収されてしまった。魂を失った悪魔ルーナスの身体は、忽ち灰になって崩れ、やがて完成に消失したのであった…。


―――― to be continued ――――


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る