第27話 イセ村の悲劇 (後編)

( ナバラム聖王国 南東部 イセ村 )


 我々は、ナバラム聖王国への遠征中、盗賊に襲われた村を発見した。その村は、盗賊団ベンジャルによって壊滅状態に陥っていた。生存者が1人だけ発見されたため、救出に向かうことにした。本来は接触しないつもりだった盗賊団との戦闘は、結局避けることができずに発生した。危険を避けるため、アルマさんと蒼天の翼さんには退避してもらい、今回は俺と戦姫のサキだけで対応することにした。


 サキは、盗賊団を圧倒するほどの能力を持ち、頭目のバルザとの一騎討ちに挑んでいた。俺は、新たに手に入れた隠密アプリを使って潜入し、無事に生存者の元にたどり着いた。


(この女性は、エルフだ。)


(団長!確かに人族の村にエルフは妙だけど、ここは危険だよ。早く避難しようよ。)


(ああ。そうだな。裏口から回って退避しよう。)


 エルフの女性は、手足を縄で拘束されていた。現在、気を失っている様子なので、女性を抱えて裏口から脱出した。


――――


 一方、サキの方は…。


「もう戦えるのは、そなただけの様でござるよ。降参してお縄につくでござるよ。」


「馬鹿か、お前!俺はレベル57の魔法使いだ。SRジョブだぞ!お前などが相手になる訳がないだろう?」


「この世界の人間にしては、まあまあでござるな。なら教えてあげるでござるよ。上には上がいるでござるよ。拙者は、レベル125のサムライでござるよ。そして、拙者の上にもまだまだ強者はいるでござるよ。」


「馬鹿言え!レベル125だと!?そんな嘘が通じるかよ?100レベルに到達できる人間なんかいるものか!聞いたこともない。」「まあいい。やれば分かる。貴様の嘘を証明してやるさ。」


「嘘などついていないでござるが、確かにやればわかるでござるな。分かったでござる。軽く相手をしてやるでござるよ。」


「身の程を知るがいい。」

「ウインドカッター!」


 バルザからは、鋭い空気の刃がサキ目掛けて飛んで行く。


Shun!


 サキは、最小限の動きで魔法を容易く回避した。まるで魔法の軌道が読めていると言わんばかりである。空気の刃は、サキに命中することは無く、代わりに後方の木に命中した。


 木は、鋭い切り傷が見えたと思ったら、スパっと切断されて、地面に倒れていった。


「どうだ。この威力は。」


「まあまあでござるな。しかし、当たらなければ無駄な攻撃でござるよ。」


「小癪な!回避できなきゃ終わりだろう?これでどうだ。"プラントバイン"!」


 地面からつるのようなものが出てきて、サキの足に巻きついた。これでサキの機動力を封じるのだろう。


「どうだ?これで避けることはもう出来ないぞ!死ね。フレイムバースト!」


 バルザから更に攻撃が仕掛けられる。1m大の炎の玉がサキ目掛けて飛んで行った。


 サキは、蔓を解こうとはせず、その場で対処するつもりの様だ。刀を構えている。

 

「はぁー!!」


 掛け声と共に、力強い上段切りが炎の玉に振り下ろされた。


Ban!!


 若干タイミングの早い上段切りだったが、刀より衝撃波の様な物が飛び出して魔法を相殺した。


「馬鹿な!?アレを相殺しただと?」


「もう終わりでごさるか?その程度の実力なら、これ以上の対戦は無意味でござるよ。」


「フレイムバースト!ウインドカッター!アイスジャベリン!」


「連続詠唱でござるか。盗賊などにならなければ、大成していただろうに。勿体無いでござる。」


 サキは、今度は刀を地面に刺して両手をそっと刀の上に置いた。


「やぁー!!」


 サキが大きな声を上げると、彼女の身体から闘気のようなものが放出され、飛びかかる魔法を全て相殺した。驚くべきことに、サキは激しい魔法攻撃を受けても、まったく傷ついていなかった。そればかりか、サキを拘束していたはずの蔓も、闘気の力で消し飛んでいたのだ。


「はぁ、はぁ、はぁ。馬鹿な!?無傷だと?化け物め。まさか、本当に…。」


「さて、もうこの辺りで終いにするでござる。このままでは、首を切り飛ばして大人しくさせないとならなくなるでござるよ。」


「プラントバイン!」

「馬鹿が!こっちには人質がいるんだよ。」


 バルザは、魔法の蔓でサキを拘束し、その隙に村長の家に入り込む。どうやら、人質を盾にするつもりの様だ。


「あれ!あのエルフは?」


「そのエルフなら我が殿とのが既に救出したでござるよ。」「残念だが、これで終わりでござる。この場で、死ぬか、拘束されるかどちらか選ぶでござる。」


「俺の負けだ。降参する。」


 膝をついて崩れ落ちるバルザ。これで村を襲撃した全ての盗賊を撃破した。


――――


「おーい!ヒビキ君!」


 盗賊との戦闘が終わり、アルマさんや、蒼天の翼のメンバーが駆けつけてくれていた。無力化したとは言え、約30名もいる盗賊の捕縛には人手が必要である。王都で何気に購入したロープだが、ここに来て役に立ちそうだ。


 おまけに盗賊達は、サキに利き手をバッサリ斬り落とされ、出血が酷い。ヒーラーのキロルさんの応急処置が必要だろう。彼らは、村人を大量殺戮した悪党だが、簡単に命を奪えばいいとは思わない。彼らは、聖王国の法に則り、厳正に処罰され、きちんと罪を償わせるべきだろう。


―――― to be continued ――――

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る