第28話 ヒビキの従者

 俺は、村で唯一の生存者であるエルフの女性を救出した。彼女は、手足を紐で拘束されていたので解いてあげた。発見時は、気を失っていたが、ようやく目を開いた。


「きゃあー!!」


 女性と目が合った瞬間、あからさまに恐怖の視線を向けられた。怯えきった様子を見ると、余程恐ろしい目に遭ったのだろうと推測する。


「安心して下さい。俺達は、旅人です。盗賊は、全て倒されましたよ。」


「お父さんとお母さんは?」


「この村の人達でしょうか?」


「はい。」


「申し訳ない。あなた以外の人達は…。」


 女性は、悲報を聞いて悲しみ、泣き崩れてしまった。


 俺もかつて、名前も知られていない小さな村で育った。そこは、村人たちが互いに支え合い、団結して生きていくために、深い絆で結ばれていた。そのため、村人たちの間には強い連帯感があり、彼らはお互いを家族のように大切に思っていた。だからこそ、彼女が一度に多くの家族を失ったという事実を目の当たりにして、俺自身も彼女の悲しみを感じることができた。


 俺は女性の肩を抱き、彼女が落ち着くまでそばにいることにした。


 その間に、アルマさんや、蒼天の翼の方々、戦姫サキのサポートのお陰で、盗賊の捕縛を終えて、火災も鎮火した。


「ヒビキ君。その女性が村の生き残りの…。」


「ええ。両親も他の村人も殺されてしまいました。彼女は、これからどうなるのでしょうか?」


「そうだね。この国の兵に引き渡すことになるんじゃないかな。」


「やだ!」


「え?」


 女性は、俺の服の袖を掴み、懸命に意思表示している。


(両親を殺された挙句に、今後の生き方も危ぶまれているなんて…なんて不憫な方なのだろう。)


 過去に両親を失ったとき、孤独と絶望に襲われた。しかし、支え合う村の仲間たちが助けてくれた。今、その想い出が蘇ってくる。女性を抱きしめながら、自分が彼女を助けているのではなく、過去の自分を救っているような気がしてくる。


「あの…アルマさん。」


「何だね?」


「俺が彼女を引き取ることは可能でしょうか?」


「本気なの?お人好しで務まる程、簡単なことじゃないんだよ。」


「ええ。上手く説明ができないんですけど…。こうなることが運命のような気がしてしまうのです。村を助けようと思ったことも、彼女を救おうと動いたのも、何かに突き動かされたような気がするのですよ。」


「なるほどね。確かに彼女は、君の決断がなければどうなっていたことか。まあ、君がどうしてもというなら、3つの方法が提案できるかな?1つ目は、養子。君は既に成人しているから可能だ。年齢は、君の方が歳下だろうがね。ただし、きちんとした法的な手続きが必要になる。2つ目は、従者だ。これについては法的な手続きが無いから簡単だ。ただし、主が衣食住をを賄う責任が発生する。3つ目は、奴隷だ。我が国も、聖王国も禁止しているから、もしやるなら別の国に行くことになる。」


「なるほど。どうしようかな?奴隷は無いですね。養子か従者か。君は…ジュリアだったかな?どう思う?俺と行くかい?」


「はい。あなたと行きたいです。私は、娘でも従者でも構いません。」


「うーん。ジュリアは、実は俺より年上なんだよなぁ。だから、娘ってのはなんだか…。ジュリア。俺の従者になるかい?」


「はい!従者…やります!」


「よし!決まりだ。今から君は俺の従者だ。俺は、ヒビキだ。よろしくな!」


「はい。ヒビキ様。ジュリアです。宜しくお願いします。」


 この時より、俺は従者を持つことになった。まだ、年若いエルフの女性だ。


「おーい!何があったんだ?」


 現れたのは、近郊の都市リレイドの騎士団であった。アルマさんが先頭に立ち、騎士への対応をする。 


「私達は、アルスガルド王国の商家。アルマ商会と、護衛です。偶然にも村を襲う盗賊団のベンジャルと接触し、捕縛致しました。」


「ベンジャルですと!?承知した。アルスガルドの方々。感謝する。我々の方でも状況確認をさせて頂く。」


――――


(数分後)


「お待たせした。確かに貴殿の仰る通りでした。盗賊団の捕縛を確認致しました。誠にありがとうございました。特にバルザは、この国有数の強者。我々も手を焼いておりました。村のご遺体を含め、この後の対応は、我々リレイドの騎士団が引き受けます。追って報酬などの対応はさせてて頂きます。貴殿らはどちらまで?」


「王都マルロムに向かいます。」


「承知致しました。でしたら、マルロムの騎士団兵舎へお越し下さい。そこで盗賊の捕縛報酬をお支払い致します。どうか旅のご無事をお祈り致します。」


「ありがとうございます。」


 村人のご遺体の埋葬や、盗賊団の移送などは、騎士団が引き受けることとなった。ジュリアのご両親の亡骸は、ジュリアと我々できちんと埋葬し、供養した。その後、我々は遅れた時間を取り戻すべく、急いで王都へ向かうのであった…。


―――― to be continued ――――

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