第24話 西方地方バハール
(アルスガルド王国 西方地域 カーナム地方 )
遠征3日目。アルスガルド王国の西部に位置するカーナム地方に足を踏み入れた。これまでの旅では、魔物たちとの遭遇はあったものの、盗賊団の襲撃に遭うことはなかった。蒼天の翼のメンバーや戦姫の活躍によって、ここまで被害を受けることもなく進むことができたのだ。
旅は、王都から出発し、小さな村を経由しながら、大きな街には立ち寄る機会がなかった。今日は、食料や水の補給と休息のため、王都国境の都市バハールに到着した。
「では、私はバハールのアルマ商会に寄るから、みんなはもう自由にして大丈夫だよ。夕波(ゆうなみ)という宿屋を取ってあるから、私の名前を伝えてね。」
アルマさんは、馬車を引いて行ってしまった。
「俺達も行くか。おい、ヒビキ。お前は、どうするんだ?付いてくるか?」
「特にすることないですし、ご同行しますよ。」
「よーし。じゃあ、行くか。」
俺は、蒼天の翼のメンバーに同行することにする。
皆が立ち寄ったバハールの街は、王都には及ばないが、かなり大きな街である。活気あふれる人々の行き来があり、市街地は賑わいを見せる。王都と同様に、街の家屋は色や建築様式に配慮され、美しい街並みを構成している。
最初に立ち寄ったのは道具屋であった。ここで主に買い求められるのはポーションである。ヒーラーのキロルさんは、職業の特性上、回復アイテムの効果を1ランク上げる能力を持つという。ヒールの魔法も使えるが、ポーションも重宝されるとのことだ。
俺はポーションを使用した経験はないが、もしもの場合を考えて10本購入し、保管しておくことにした。その上、ランプやローブなども念の為に購入しておいた。
その後、水や食料の買い出しを終え、宿屋"夕波"に到着した。蒼天の翼のメンバーは、アインさんとゼキさんの組と、リセさんとキロルさんの組に分かれて宿泊し、俺は一人部屋を借りることになった。
夕食は、皆で一緒に食べることになり、1階の食堂で4人と合流した。夕食のメニューは、マルポーの焼肉、野菜炒め、パン、野菜スープである。
「お疲れ様!乾杯~!」
皆がグラスを交わし、疲れを共有しあった。これまで、他人と共に食事をし、お酒を味わったことがなかったため、大勢で食事を共にすることは非常に新鮮であった。飲んでいるのは、シーブルの果実酒。甘みの中に微かな酸味が感じられ、非常に美味しい。
「ここの飯も美味いが、やっぱりニャンとニャメの飯が忘れられないぜ!」「確かに~。私は、あの米だったかな?あれの料理が好きだな。」「あれは、本当に異次元の料理ね?王都でお店開いたら絶対に繁盛するわよ?」
「あはは。では、明日の野営の食事を楽しみにして下さいね。」
「おーい!みんな~。」
突然アルマさんが店に入ってきた。少し慌てている様子にも見受けられる。
「アルマさん?どうしたんです?」
「聖王国の国境付近に盗賊集団が現われたらしい。」
「何だって?そりゃ、向こうかい?こっちかい?」
「向こうだって噂だよ。」
「うわぁ。それは最悪かもな。ならベンジャルの可能性が高い。」「ベンジャルならあいつか…。」「魔法使いバルザ…。」
「魔法使いバルザですか?」
「ああ。盗賊団ベンジャルの頭目でな。SRジョブ魔法使い持ちだ。奴は強い。めちゃ強だ。」
「魔法使いならゼキさんもそうですよね?」
「ああ。確かに俺と同じジョブだが、レベルが違う。俺は、まだ23だが、奴は60近いと言われている。ジョブは、ランクが高い程レベルが上がり辛くなってるからな。奴程強くなるにはどれくらいの鍛錬が必要になることか…。」
「そうなんですね。良くわかりました。では、どうしましょうか?」
「直接戦闘は避けたい所だ。バルザ相手じゃあ、むざむざ死にに行くような物だからな。」
「アルマさん。どの辺に出現したとか情報はありますか?」
「あるよ…。」
アルマさんの話では、バハールより更に西には聖王国との国境の関所があり、そこから三つの街道に別れるそうだ。聖王国北側へ向かう北街道。南側へ向かう南街道。そして、王都マルロム方面に向かう中央道である。盗賊団ベンジャルの目撃情報は、北街道側らしい。
「私達は、王都マルロムを目指しているから、本来なら中央道を通るのがベストだけど、念には念で南街道から王都マルロムを目指そうか。」
「アルマさん。そうすると、1日から2日は予定より遅れるかも知れないぞ。」
「ええ。そうね。しかし、安全を最優先しよう。期間延長した分の報酬はきちんと支払うから、安心してね。」
俺は、こっそりと探索アプリで盗賊団の位置を調べてみたが、距離が離れ過ぎており、見つけ出すことが出来なかった。俺も皆さんの方針に従うことにする。
「おし、それなら話は決まったな。みんなもいいか?」「異論なし!」「賛成!」「俺もそれで構いません。」
こうして我々は、聖王国に入って南街道から迂回して王都マルロムを目指すことになったのであった…。
―――― to be continued ――――
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