第16話 模擬戦 (前編)
俺は、昨日Dランクに昇格した。だが、俺がランクアップを果たしたことに、敵意を向ける者たちがいた。俺は、最も弱い職業であると見なされており、それがDランクに上がることに疑問を呈する者たちがいるのだ。その疑念を払拭するため、俺を気遣ったギルドマスターのルナさんが模擬試合を提案してくれた。俺の力を、彼らに示して納得してもらうことが目的だった。
そして、今、模擬試合が始まる。中央には審判のルネッサルさんが控え、双方が30m離れた場所に対峙した。
「それでは、試合開始!」
審判のルネッサルさんの合図で試合が開始する。
「いくぞ!」「おー!」「うるぁ~!」「殺るぞ!」
4人が、私に向かって猛スピードで駆け寄ってきた。しかし、私はその場から一歩も動かなかった。
「北条 響が命ずる!戦姫エルル。戦姫シノブ。前へ!」
「はい!」「御意!」
俺の掛け声に反応して、エルルとシノブがスマホ画面に表れる。俺は二人の存在を確認して指示を与える。
「顕現せよ!!」
俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からエルルとシノブの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が二つにまとまり、やがて大きな光となり、エルルとシノブの形が浮かび上がっていった。
名前 エルル
年齢 28歳
性別 女性
種族 ドワーフ族
ランク N ( ノーマル )
ジョブ 鍛冶師
レベル 100 (MAX)
HP 411
MP 256
AT 361
MAT 253
DEF 349
MDEF 301
DEX 442
INT 311
AGI 258
スキル なし
説明 小柄だが力持ちな少女。とても能天気。
「エルル参りました~!」「参上しました。」
「おい!何だ!」「突然女の子が現れたぞ!」「スゲー!」「スマホマスターってそんなことが出来るの?」「最弱職じゃねぇのか?」「あれって召喚なんじゃ?」
戦姫の登場に、一瞬で場内には動揺の空気が漂う。戦姫の顕現は、相当にインパクトが強かった様である。
「当たり前だ。私が見込んだ男だからな。」「はい!」
会場にいる侯爵様は、嬉しそうに呟き、ララーヌ様もそれに追従する。
「お、おい!慌てるな!たかだか二人増えただけだ。こっちの方が多い。」「そうだ。それに相手は丸腰だぜ!」「気にするな!やっちまえ!」
一度立ち止まった4人も、再びこちらに向い始めた。
「エルルは、前方の奴らを倒せ!殺すなよ!」
「シノブは、俺を守れ!」
「は~い!」「御意!」
「武器は、周囲に置かれている木製の武器のみ、使用を許可されている。お前達なら素手でも大丈夫だろうが、必要なら使って貰って構わない。」
「わかった!」「承知!」
エルルは、距離を縮めて四人に立ち向かった。会場には、しばし時間が凍りついたかのような静寂が広がり、双方の動きも一瞬にして止まった。エルルは拳を握り締め、接近戦に備えて身構えた。目の前に現れたのは、四対一の圧倒的不利な状況だった。
「サン、行け!」
リーダー格のボギーは、サンに先陣を切らせるよう命じた。グループ内には、明確な上下関係が存在しているようだった。
「え!お、おう。」「くらえ!パワースラスト!」
サンは、スキルを駆使して攻撃を仕掛けた。彼は槍戦士が持つジョブスキル「パワースラスト」を使用し、猛烈な一撃を放った。
鑑定スキルによると、槍の突きによる攻撃威力を2~3倍高めてくれるのだそうだ。
エルルは、サンの突き攻撃を察知しており、半身の姿勢より少し身体を逸らして簡単に回避してしまう。
「何処を攻撃するか丸分かりだね。残念だけど、経験も練習も足りてないんじゃない?」
エルルは、回避したままの体制のまま、片手でサンの喉元をグッと掴み上げて、一気に地面に叩きつけた。
Batan!
「うぐぅ…。」「ゴホッ!ゴホッ!」
サンは、身動きも取れぬまま、容赦ない一撃が背中を直撃した。衝撃の波に飲まれ、しばらくの間呼吸困難に陥ってしまった。彼は自らの無力さを痛感し、瀕死の状態で戦線を離脱せざるを得なかった。
「うぉ!強え!」「何だあの子。男を片手で軽々持ち上げてた!」「すげえ力!」「カッコイイ!」
「な、なに!?ルッツ、キーファ二人同時にかかれ!」
「なるほど。それなら…。」「任せろ!」
俺の鑑定アプリによると、ルッツのジョブは格闘で、キーファは、希少なSRジョブである魔法使いであった。
(魔法使いは、初めて見るな。どんな攻撃をするんだろう。)
「フォー!」
ルッツは、掛け声と共に一閃の打撃を繰り出した。その打撃は大振りではなく、コンパクトで素早く、相手の反撃の隙を作らないように計算されていた。対するエルルは、相手のスタイルに合わせて腕を駆使してガードを行う。彼女はレベルカンストというキャリアにふさわしく、余裕を持って攻撃を防いでいる。ルッツの強烈な攻撃を受けているが、有効打は一発もないようだ。
「ウインドカッター!」
今度は、キーファから魔法詠唱の声が聞こえた。そのタイミングに併せてルッツは、攻撃を止めてエルルから距離を空けた。
Shun!
風を斬り裂く音が轟き、空気が切り裂かれる音が響き渡る中、空中から空気の刃がエルルめがけて迫る...。しかしエルルは、機敏な動きを一切せず、静止したまま右手の手のひらを顔の前に押し出している。
Pachin!
空気の刃は、エルルの手のひらにぶつかると、パチンと音を立てて散布して、消滅してしまった。
(相手の魔法は凄かった!俺にヒットしていれば大怪我は免れないだろう。それをいとも簡単に防いだエルルは、もっと凄い。おれのNキャラは、凄いのだ。)
Nキャラは、WWGのゲームでは、チュートリアルで使用するか、レベル上げの素材になるかしか無かった。こちらでは、活躍の場合があって良かった。まあ、彼女らはSRキャラやSSRキャラとして再登場するのだが…。
「さて、君達の攻撃はわかったよ。今度は、エルルの番だよ~!」
エルルは、後ろ足を強く蹴りだして、前方へダッシュする。
「えっ!」
一瞬でルッツの間合いに入る。ルッツは、余りにも早い動きで反応が遅れた…。
Zugon!
エルルのボディブローが腹部にめり込んだ。
「ゲボォー!」
ルッツは、激痛と呼吸困難に陥り、泡を拭きながら気を失った。
エルルは、更に素早く移動する。このままキーファの間合い入る。キーファは、既に魔法発動の為に詠唱を始めているが、発動は間に合わない。
「歯を食いしばりな!」
エルルのアッパーカットがキーファの顎を捉えようとしている…。
「ひいぃ。」
エルルの圧倒的な力に直面したキーファは、死を予感し、その場で白目を剥いた。エルルのアッパーは、キーファの顎手前で急停止した。驚異的な制御力に加え、殺意を感じさせるエルルの攻撃は、キーファを完全に圧倒していた。彼は膝から静かに崩れ落ち、気を失った…。
彼女はこれで3名を一気に撃破した。残るは、リーダー格のボギーだけだ。
「あれ?いない…。」
先ほどまで居たはずのボギーの姿は、いつの間にか無くなっていたのだった…。
―――― to be continued ――――
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