ランク外の最弱職《スマホマスター》が実は最強だった話。

飛燕 つばさ

第1話 プロローグ

1話 プロローグ

「北条 響が命ずる!戦姫。前へ!」

「はい!」

 俺の掛け声に反応して、戦姫がスマホ画面に表れる。俺は戦姫の存在を確認して指示を与える。

「顕現せよ!!」

 俺の合図と同時に、スマートフォンの画面から戦姫の姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、戦姫の形が浮かび上がっていった…。


ーーー (オープニング) ーーー


 かつて、世界は魔王とその手下によって荒廃し、破壊されました。その後、魔王の支配下に置かれた人々は、奴隷や家畜としての生活を余儀なくされたのです。


 世界に平和と調和を取り戻すため、神々は勇者や、強力な才能を持つ者達を生み出し、魔王とその手先を倒すことに成功しました。


 その後、勇者は平和の世界から姿を消しました。それ以来、新たな勇者の出現が、歴史の舞台で認められることはありませんでした...。


魔王とその手下が滅ぼされてから約2500年…。


(アルスガルド王国 王都バラン ヨブ神殿)


「全能の神々は、人類に彼らの召命、彼らの仕事を授けました。」

「全能の神々は、人類に彼らの召命、戦いの仕事を授けました。」


「成人した諸君。神々は、君達に天職を授けるだろう。」


 目の前に広がるのは、真っ白な壁と天まで届くような天井。神聖な装飾が施されたステンドグラスの窓が天窓に輝いていました。そこからこぼれる光は、部屋を美しく彩り、より一層神秘的な雰囲気を醸し出していました。


 ここは、ヨブ神殿。毎年多くの成人がここを訪れます。そこで彼らは、一生に一度だけジョブを授かるのです。変更も再試行もできません。これは神々の慈悲の行為であり、試練でもありました。


 彼らに与えられたジョブは、実に多様でした。戦士や魔法使いなどを代表とする戦闘職、宿屋や商人などを代表する商業職、農民や鍛冶屋などの生産職もありました。


 ジョブには、ランクがありました。一般的には、次のようにランク付けされました。


LR:勇者

SSR:剣聖、賢者、召喚士

SR:魔法剣士、魔法使い、狂戦士など

R:戦士、神官、狩人など

N:農民、商人、漁師など

ランク外 : 不明


 LRランクの勇者は、魔王討伐時代にしか存在が確認されておりません。以来2500年、勇者のジョブを得た者はいないと言われています。そして現在の最上位は、SSRの剣聖と賢者達です……。


 神々だけが彼らがどんなジョブを手にするかを知っていました。我々は、神々の意のままに運命を受け入れるしかありません。

 

「アマーシャ。お主のジョブは、剣聖じゃ!」


「聞いたかよ、剣聖だってよ…。」「遂に出たか…SSRだろ?」「羨ましい。」「クソッ。俺は、農民だったのに…。」「女の子が剣聖だって?」


 授かるジョブは、殆どがNかRであることが、世の通例です。SSRどころか、SRですら、類い稀なのです。


「静粛に!これも神の導きなり。アマーシャよ。神の御心じゃ。そのジョブを大切にな。」


「はい。あの…身体に何か異変が…。」


「剣聖と言うジョブが、お主の身体を進化させたのじゃろう。身体能力が上がったのではないか?」


「ええ、確かに…。力が漲り、身体が軽く感じられます。」


「アマーシャよ、"ステータス"と唱えてみよ。さすれば己の能力が把握できよう。」


「ステータス!」

「これは!?素晴らしいわ…。神官様、感謝致します。」


  "剣聖のアマーシャ"。類を見ぬ剣の才能を持つ者が、今ここに誕生した瞬間でありました。そして、ここにもう一つの才能が誕生しようとしていました…。

 

「次は、ヒビキ。神玉に手をかざしなさい。さすれば、そなたにジョブが与えられるじゃろう。」


 青年は、恐る恐る神玉に手をかざします…。神玉は、一瞬鋭い光を放ちますが、直ぐに鎮まります。


「今の光は、何じゃ?奇怪な…。ヒビキ。お主のジョブは…なんと!スマホマスターじゃと!?」

 

「神官様…初めて聞くジョブですが…。」

 

「ふむ…。大昔にその名前のジョブの話を聞いたことがある…。かつてそのジョブを授かった者がいた。しかし、その者は扱うことが出来なかった…。あまりにも不明なことが多すぎて、使い方が全く分からなかったのじゃ。SSR並に希少なジョブなのだが、授かっても使える者のいないジョブ。しかもステータスは、農民以下。スマホマスターは、いつしか"ランク外の最弱職"と呼ばれるようになっていたと言う…。」


「ランク外の最弱職…。そんな…。」

 

「聞いたかよ。」「最弱職だってよ。」「可哀想。」「俺は、農民で良かった。」「人生詰んだろ…。」


「静粛に!これも神の御心なり。ヒビキや。これは神の試練じゃ。気を落とさずにな。諦めずに励みなさい。」


「あの…俺…。」

 

 青年は、神殿から逃げる様に走り去ってしまったのです…。


――――


 俺の名は、北条ホウジョウヒビキ。名も無き村からジョブを得る為、王都へやって来た。父も母も冒険者をしていたが、5年前、依頼中に帰らぬ人となった…。俺は、両親の遺産と村人達の支援のお陰で、その後も何とか一人で生きてきた。しかし、そろそろお金が底を着くので、冒険者としての成功を目指すことにした。そんな矢先の出来事である。


(期待してジョブ神殿まで来たのに、最弱職とは予想外だった!しかも、みんなに最弱職と馬鹿にされるし。俺だって、SSRのジョブが良かった… 。あぁ。悔しい!悔しい!悔しい!!)


「はぁ、はぁ、はぁ。」


 街中を全力で駆け抜ける。身体は、重く、走れば激しく息がきれる。身体の進化など起こる気配もない。俺は、剣聖アマーシャとはあまりにも違い過ぎた…。


「チクショウ!」


 足がもつれて倒れ込む…。にじんだ汗に砂が貼り付いて、無惨な姿を晒している。道ゆく人々は、憐れむような視線をこちらに向けていた…。


「使い方のわからないジョブなんていらねーんだよ!!」


 俺は、絶望し、宛もなく歩いていた。普段は、美しく聴こえる鳥のさえずりは、今は濁音にしか聴こえない。すれ違う人々の顔は、どれも俺を嘲笑うように映っていた…。一体どれくらい歩いたのだろう…。この道は、宿とは反対側…街の郊外へ抜ける街道である。


(あれ?こんな所に大穴?洞窟かな?今まで無かった気が…。)


 目を向けた山の斜面には、3メートル四方の大穴が空いていた。


「ま、まさか、ダンジョン?」


 俺は、口に出しながらも、そういう話がこれまで無かったことは、ちゃんとわかっている。好奇心と、得体の知らない物に対する恐怖心によって、意味も無く発せられた言葉であった。


 大穴の壁は、これまで見たことも無い技術により、非常に精巧で、綺麗に造られていた。そして、とても奇妙な照明が、内部を照らし続けていた…。


 俺は、この世の物とのは、明らかに違う物なのだろうと察知した。しかし、恐怖心よりも、好奇心の方が勝り、1歩、また1歩と大穴の奥へと足を運んで行くのであった。


(何となく見たことがあるような気がする…。)

 

 そんな錯覚も抱きながらも、ゆっくりだった足取りは、徐々に確かなものとなっていた。大穴の前方から光が射し込んでいる。どうやら、大穴の出口に辿り着いたようだ。


 出口を抜けた先には、これまで見たこともない景色が広がっていた…。


「わぁ!こりゃ凄いな…。」


 高く大きな建物があちらこちらに連なっており、辺りには、奇妙な大箱が、もの凄い速さで列を作って移動している。別の所では、我々とは明らかに身なりが違う人々が活動していて、どこかへ向かって歩いているようだ。何だか、みんなとても忙しそう見える。

 

(ここは何なんだ!俺は、一体何を見せられているんだ!)


「クッ!頭が割れそうに痛い…!」


 何かを思い出しそうな気がして、脳をフル回転させると、頭が割れそうに痛んだ。しかし…。


(ああ、これは…ビルだ。東京の高層ビルを見ていたのか。そして、あれは車だ。こっちは、早歩きで移動する人々。私も昔は…。)


「思い…出した!」


 どうやら、潜在的に眠っていた記憶。恐らくは、前世の記憶をまだ断片的ではあるが、思い出したようである。


ーーー


(前世の記憶の断片)


 俺は、北条ホウジョウヒビキ。東京でサラリーマンをしていた。若い頃は、イケメンと評判だったこともあったが、陰キャでゲームオタクだったことが災いし、生涯女性に縁がないまま他界した。


 仕事で得た収入は、殆どがゲームの課金へと流れて行った。ゲームは、複数やっていたが、中でもWWGが一番のお気に入りであった。そういえば、俺は何故死んだのだったか…。


ーーー


 俺は、気づくと地面の上に倒れていた…。


 辺りを見渡してみる。ここは、先程の大穴トンネルのあった場所である。不思議なことに、目の前にあったはずのトンネルは、綺麗さっぱり消えていて、山の岩肌が見えているだけであった…。


「あれ、確かにあったはずなんだけどな。」


 不思議なこともあるものだ。先程目にしていた世界は、紛れもなく現実であったと五感がそう告げているのだが、元々何も無かったかの様に、トンネルも何もかもが無くなっていたからである。


 しかし、先程の出来事がきっかけとなり、今まで眠っていた前世の記憶が、ある程度は蘇った様である。その結果、これまで全く使い方が分からなかった、"スマホマスター"のジョブの使い方が、スッと頭の中に入って来た様な気がした…。


「よし!一度試してみるか…。」

 

 流入して来た知識によると、スマホにおける異能の使用は、全て真名マナで命ずる必要があるらしい。真名は、前世の俺の名前"北条 響"だ。よく、ファンタジーの世界では、真名を隠すように言われているが、このスマホマスターには、その常識は当てはまらない。スマホマスターの場合の真名は、他から一切干渉されないマスターだけの最強の名となる。


 そして、スマホの能力には、通常アプリと異能スキルアプリとに分かれている。異能アプリは、異能力を行使するので、真名でスマホに命ずることが鍵となる。

 

「 北条 響 が命ずる!顕現せよ!スマートフォン!」

 

Shun!


 俺の呼び掛けに反応して、表れたのは、スマートフォンだった。この世界には無い素材。そして、この完成された形状と艶感。前世で使用していた様なスマホが、今、この手の中に収まった。これが、俺の能力の1つ"スマホ召喚"である。


「この手に馴染む感触…何と懐かしいことか。」


 俺は、スマホを手に取り確認する。いくつかのアプリケーションがインストールされている様だが、殆どのアイコン表示がグレー色になっており、起動が制限されている印象を受ける。 電気供給ができない代わりに、大気中の魔素を利用して動く仕組みのようだ。充電が不要であることは、大変有難い。


「現在使えそうなアプリは…。」「お、これは!WWG(ウォーウォージー)ではないか。懐かしい。」


 俺が前世で廃課金した、WWG (War World Girls)のアプリが使用可能な状態で存在していた。

 

(俺が死んでどれくらい経つのか…。流石にWWGのサービスは終わっていると思うが…。)


 俺は、不思議に思いながも、アプリのアイコンをタッチせずにはいられなかった。


 アプリが起動すると、突然見知ったキャラの姿が見えていた。


(えっ!?いきなりかよ。オープニングの画面とかは無し?あの背景は、傭兵団ギルドか…。)


「あ、来た来た!団長~!みんな、団長だよ~!」「えっ!なになに…。あっ、団長だ!」「団長おひさ~!」「ちょっと私に代わってよ。」


(何やら凄く賑やかになっているのだが…。ビデオ通話的な感じか?団長ってまさか、俺のことなのでは…。)


 画面よりこちらを覗き込むように写っているのは、非戦闘員で案内役のナビィ。そして、LRキャラのリヨン。SSRキャラのアセラと、ルルカであった。


「もしかして、俺はスマホ越しに君達と会話をしている?」


「団長、そうだよ。」


「通じた!?マジ~!?」


(俺は、何とゲームキャラクターと会話しているらしい。一体どんな仕組みなのだろうか…。)


 このスマホマスターのジョブは、扱い方が分からない最弱職のジョブだと言われていた。しかし、扱い方が少し分かった今…。このジョブは、他のジョブとは異なる不思議な力を秘めていると感じたヒビキであった…。


ーーー to be continued ーーー

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