第42話 ユーザリア帝国との戦い②

 テーブルを挟んで睨み合いのダスティン伯爵と戦姫カレラ。ヒビキの能力を理解して貰うため、リッテルバウム侯爵が力比べを提案したのでした。


「開始!」


 リッテルバウム侯爵の合図により、力比べが始まった。ダスティン伯爵は、反対側の手をしっかりとテーブルに押し付け、身体の反動を利用して猛烈な力を発揮した。しかし、カレラは全く動じることなく、むしろ余裕を見せ、笑顔まで浮かべている。ダスティン伯爵はますます力を込め始め、その顔色はみるみる赤く変化していった。


「そろそろかな。じゃあな!」


Doka!


「おっ、やり過ぎたか…すまねぇ。」


「うわぁー!!」


 カレラの本気で、一気に形勢が逆転した。伯爵の腕は、テーブルを粉々に砕くほどの力で強烈に叩きつけられ、試合はあっけなく終わりを告げた。カレラの顕著な実力は、粉砕されたテーブルと、不自然に折り曲がった伯爵の腕を見ても明らかだった。

 

「ジュリア!」


「はい、ヒビキ様!」


 ジュリアは、素早くダスティン伯爵のもとに駆け寄り、魔法の詠唱を始めた。


「ハイヒール!」


 彼女の手からは、優しく暖かな光が放たれ、ダスティン伯爵の骨折した腕を包み込んだ。光が伝わるにつれ、伯爵の腕はみるみるうちに元の健やかな状態へと戻っていった。


「ハイヒールだと!」「見ろよ!伯爵様の腕が…」「何者なんこのエルフは…。」


「おお!治った!治ったぞ!」


 ダスティン伯爵は、激しく打ちのめされたことも忘れて、驚きの声を上げた。


「伯爵様、カレラの失礼をお詫びいたします。」


 俺は、すぐにダスティン伯爵に謝罪した。


「ガハハ!お前達は凄いな。侯爵様が認める訳だぜ。次元が違う。カレラも、そのエルフの嬢ちゃんもな。ヒビキだったか?気にするな。カレラや嬢ちゃんが仕えるお前は、もっと凄いのだろう?」


「あ、はい…そうですかね。あはは…。」


「団長は凄いぞ!」「ヒビキ君は凄いよ!」「ヒビキ様は凄いです!」


「お、おう…。」


 いつの間にか、リッテルバウム侯爵とカレラとジュリアが肩を組んで仲間になっている。あのダスティン伯爵も三人の圧に押されていた。


 軍の幹部や貴族達も、この様子を見て俺達の能力を受け入れてくれた様である。


 この後、俺達を含めて改めて作戦会議を行い、決戦の地に踏み出した。


――――


(3時間後)


 南側より、雄々しきユーザリア帝国の軍団が雲霧のように現れた。鑑定や探索アプリを使用し、その壮大な規模を確認したが、先行情報に違わぬ約3万人もの鋼の戦士たちが、勇猛果敢にこの地に降臨する模様であった。敵軍の勢力は、精鋭騎兵や猛烈な弓兵、荒々しい重騎士や威風堂々たる騎士、そして魔法兵といった、広範囲にわたる多様な兵種で構成されていた。


 これに対し、我らがアルスガルド王国の軍団は、総数2万人にすぎなかった。しかも、その構成も帝国軍と同様に、一般的な兵種である。アルスガルド軍の数における劣勢が顕になった状態で、ここセイン平原に双方全ての戦力が集結した。


 侵略者であるユーザリア帝国は、我が国を狙い、軍勢を三つに分けていた。中央には一万四千の兵士を集め、左右にもそれぞれ八千の兵を編成している。我が国に迫る彼らの野望に対し、我々は決然と立ち向かわねばならない。


「さて、君の予想した通りの布陣のようだ。君が率いる独立軍は、どう戦う?」


「はい、侯爵様。我が戦姫は、一騎当千。いえ、それ以上の存在です。中央の一万四千の兵は我々が対応します。王国軍の皆さんは、1万ずつに兵を分けて左右に展開する敵の軍団に対処して下さい。そうすれば、中央の戦闘以外においては王国軍の方が優位に立てる筈です。」


「それは素晴らしい考えだが、君たちはたった12名で1万4千人を相手にできるのかね?」


「私は、最近になってSRの戦姫を呼び出せるようになりました。SRの戦姫の場合、皆殺しにしても構わないならば、一万四千人の兵相手でも一人で対処が可能です。しかし、流石にそれでは目覚めが悪いので、主にR戦姫を中心に手加減を加えながら、戦力を無力化させていきます。」


「SRの戦姫は、平均的な能力値は約1000前後です。恐らくはこの世界の人種、亜人種で勝てる者はいないでしょう。」


「そこまでとは…。それを聞いて安心したよ。残念ながら、アマーシャ君の姿は、国内で確認出来なかったよ。私達は、ヒビキ君だけに頼ることになってしまい、その点は申し訳なく思っているんだよ。」


「いいですって。アマーシャは、己を磨く為に武者修行の旅に出ているようです。私は、アマーシャの分まで頑張りますよ。」


 俺は、決して逞しくない二の腕を見せつけながら、そう述べた。


「あはは。わかった。ヒビキ君、ありがとうね。検討を祈るよ。」


―――― to be continued ――――

 

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