第10話 捜索
「なんと!地下室の先にこんな空洞が!?」
空洞は広く、高さも十分なあるようである。光の差し込む場所がないため、兵士達が持つたいまつや、俺のスマホライトの明かりだけが頼りである。侯爵様は、静かに進むことを指示し、兵士達は慎重に足を進めていった。空洞の中は、足元が不安定である場所があったり、狭い通路が続いたりと、探索には適さない場所であった。
「不快な匂いだ。」
侯爵様が指摘した通り、辺りには腐肉のような不快な臭いが漂っている。私たちは手元にある布で口と鼻を覆い、前進を続けることに決めた。空洞の内部はやや湿気があり、石でできた壁や床には水滴が滴り落ちていた。暗闇に包まれた中、照明がなければ進むのは困難である。それでも、空間は幅が5mほどあるようで、十分な広さが担保されていた。
「何かいるぞ!!」
先頭の兵士が声を上げる。俺もスマホのライトを使って前方を照らす。
「グールだ!気をつけろ!」
この世界におけるグールとは、死者や亜人種の遺体に憑依した邪悪な霊によって、魔物として再び活動を始めた存在である。その姿は人間に近く、人型をしているが、高度な思考能力や理性は欠落しており、その生命活動は停滞しているため、ただ魔物として振る舞うのみである。現在、この場にはざっと7~8体のグールが存在することが確認されたが、その数は増え続けているようだ。
「うわー!」
新米兵士の一人がグールに噛みつかれてしまったようだ。グールは、北条響の記憶に残るゾンビと言う魔物に良く似ている。ゾンビの場合は、噛みつかれると、体内にゾンビのウイルスが回ってゾンビになるらしい。兵士の隊長さんの話では、噛まれただけでグール化すると言う話は、特に無いそうなので安心した。
「やあ!」「うりゃ!」「くらえ!」
前方には、相当数のグールが集結しており、兵士たちは追い詰められた状況にあった。しかしながら、戦闘職を持つ兵士たちの動きは見事であり、グールの首を刈り取って殲滅している。グールは肉体を切り刻まれても動揺せず、しかしその首が失われると即死するようだ。
後方からもグールが現れる。列の後方は、俺と侯爵様である。兵士達は、前方のグールの対応しているので、こちらには手が回らないだろう…。
「団長!戦姫を!」
「ああ。分かってる。」
「北条 響が命ずる!戦姫カレラ。前へ!」
「おう!」
私の掛け声に反応して、カレラがスマホ画面に表れる。私はカレラの存在を確認して指示を与える。
「顕現せよ!!」
俺の合図と同時に、スマートフォンの画面からカレラの姿がスッと消え、スマートフォンから多数の光粒子が放たれた。散乱していた光粒子が一つにまとまり、やがて大きな光となり、カレラの形が浮かび上がっていった。
名前 カレラ
年齢 86歳
性別 女性
種族 鬼人族
ランク N ( ノーマル )
ジョブ 総合格闘
レベル 100 (MAX)
HP 450
MP 100
AT 360
MAT 209
DEF 293
MDEF 210
DEX 300
INT 150
AGI 300
スキル なし
説明 男勝りな性格をしているが、優しくて面倒見はいい。
「団長来たぞ!久しぶりだなぁ。」
カレラは鬼人族の女性で、その筋肉質で逞しい体格は彼女の特徴である。また、額から伸びる角は鬼人族の象徴とされる。彼女は、戦闘スタイルとして格闘技を用いており、剛腕を駆使する素手や蹴りなどの攻撃を得意とする。
(やはり、スマホキャラのカレラとは、迫力が違う…。)
「やあ、カレラ!来てくれてありがとう!そこに居るグールを倒せ!」
「あいよ!いっちょ揉んでやるよ!」
カレラは、後方から現れたグールと対峙する。
「ヒビキ君。あれが戦姫かね?ルナ君の報告通りだね。凄い。凄すぎる!まるで召喚士のようだね。」
「恐れ入ります。侯爵様。危険ですから下がっていて下さいね。」
「ああ。任せたよ。」
「そーれよ!っと。」
Ban!
轟音を轟かせながら、カレラのパンチがグールの顔面に命中した。激烈な一撃は、グールの頭を吹き飛ばし、首から上の無残な姿となったグールは、力尽きて倒れ、絶命した。
「ヒビキ君。君の召喚獣は凄まじいな…。」
「ありがとうございます。侯爵様。彼女は、召喚獣ではなく、戦姫といいます。私のスマホマスターの能力の1つでございます。」
「そうか、戦姫か。覚えておく。」
「おーい団長!後ろの7体の雑魚は潰したぞ!前のもやるか?」
「ああ。前のグールは、かなり数が増えているみたいだ。カレラ、味方の兵士を傷つけない様に殲滅せよ!」
「了解!お兄さん達!危ないから下がってな!ああ、危ないのは俺の攻撃な!」
「おぉ、あれは味方か!」「味方らしいぞ。」「人間じゃないよな?」「一度引こう。」
兵士の皆さんは、カレラの登場で一旦引いて貰った。負傷兵もいるので、手当てをして貰っている。
「そいや!」
Don!
「よいしょっと!」
Ban!
カレラは、冷静な表情を浮かべながら次々とグールを屠っていく。一撃一撃が重厚で、その威力は鮮やかにグールの顔面を薙ぎ払っていく。パンチだけでも十分な強さを誇るが、ハイキックはまさに芸術品といえる。軸を安定させ、身体のブレを微塵も許さぬその技は、美しいという言葉すら不足しているように感じられる。
「凄いな。」「ああ。」「強い…。」
兵士達も認める強さだったようだ。
(100レベルカンストですから…。)
自分自身の勝利ではないものの、自分の戦姫が称賛されるのは、心地よいものである。カレラは結局、たった一人で20体を超えるグールを無傷で倒してしまったのだ。
「団長!終わったぜ。用がないなら俺は帰るぜ!」
「カレラ、ご苦労さま。依頼が終わるまで護衛を頼めるかな?」
「ああ。任せな!団長には指1本触れさせないよ!」
(ピロリン!)
(どうやら戦闘が終わって俺のレベルが上がった様だ。今回も全く戦っていないが、いいのだろうか?ステータスを確認しよう。)
「ステータス!」
名前 ビビキ
真名 北条 響
年齢 18歳
性別 男性
種族 ヒューマン
ジョブ スマホマスター
レベル 5 → 10
HP 29 → 34
MP 9 → 14
AT 14 → 19
MAT 9 → 14
DEF 9 → 14
MDEF 9 → 14
DEX 14 → 19
INT 19 → 24
AGI 9 → 14
顕現コスト 10 → 20
スキル スマホ召喚・異能アプリ ・ スマホフィルター ・ 戦姫解放 ( レア )
(おー!レベルが一気に5も上がったな。カレラが20体も倒してくれたからだろう。けど、相変わらずステータス値の上昇は鈍いな。それから戦姫解放でレアキャラが使えるようになったぞ!これは楽しみだ。ん!?戦姫の顕現コストが上がったぞ。顕現コストとは何だ?ナビィ!わかるか?)
(もちろん!わかるよ!WWGでも戦姫の編成コストがあったじゃない?顕現コストは、戦姫を顕現できる数に関係するんだよ。Nキャラはコストが10で、Rキャラがコスト20だよ。Nキャラなら2体、Rキャラなら1体顕現できるようになったよ。)
(なるほど、理解したよ。)
「ヒビキ君!どうしんだね?急にボーとして?」
「え?いや、申し訳ありません。少し考え事を…。大丈夫です。さあ、先へ進みましょう。」
我々は、グールの群れを殲滅して、更に先へ進むのだった…。
―――― to be continued ――――
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