第40話 師団デッキ
帝国からの宣戦布告を受けて急いで王都に戻ったヒビキ。依頼の報告のために冒険者ギルドに向かったところ、ギルドマスターのルナから話があると呼び止められたのでした。
(ギルドマスター 執務室)
「どうぞ入ってくれる?」
「失礼します。」
俺とジュリアは、ギルドマスターのルナさんと向かい合う形で椅子に腰掛けた。
「状況は、どのくらい把握している?」
「帝国が宣戦布告して王国と戦争になることくらいです。」
「じゃあ、殆ど知らない訳ね…。現在は、王国最南端の都市アレリアが陥落し、帝国軍は北上を続けているわ。」
「えっ!もうそんなに?」
「ええ。事前に準備されていたみたいに、非常に迅速なんだよね。たぶん地方での戦いは、全て敗北すると思う。敵軍は3万人規模だそうよ。恐らくは、王都の南側にあるセイン平原で全面対決するのが一般的な戦術だと思うわ。」
「王国は、勝てますかね?」
「相手の方が軍事力が優れていると噂されているわ。王国軍は2万人集めるのがやっとみたい。相手を上回る戦略がなければ、かなり苦戦するんじゃないかしら。」
「もし、王国が負ければ…?」
「そうなれば、最悪の場合は王国が滅亡し、領土は帝国の支配下に入ることになるでしょう。良くても属国として存続することができるかも知れないけど、どちらにしても明るい未来は見いだせないわね。」
「それで、何故俺にこの話を?」
「この戦争にあなたの力を貸して貰えないかしら?」
「えっ!?そんな…。戦争なんて、俺一人の力でどうこうできる訳ないじゃないですか?」
「それは、もちろんよ。冒険者ギルドも王国防衛に協力するつもりよ。冒険者にも任意で協力を募っているのよ。あの剣聖アマーシャにもね。」
「アマーシャも!?」
「ええ。剣聖とあなたのスマホマスター。類稀な能力者が加われば物量に劣る王国が何とか打開できるのではと考えているの。」
「そうだ。ナビィちゃんはいるかしら?」
「はーい!ルナさん。」
存在を消していたナビィが姿を現した。
「ナビィちゃん。あなたなら、ヒビキ君の能力を熟知しているわよね?王国は侵略されて危険な状態なの。何かいい知恵はないかしら?」
(能力者の俺よりナビィの方が知っているって口ぶりだよな。何と言うか…情けない…。)
「団長!ガッカリしないの。ルナさん。もちろんあるよ!」
「ええ!?」「ナビィちゃん。本当に?」
自信満々に答えるナビィに、ルナさんどころか、俺まで驚きの声を上げてしまう…。
「団長!しっかりしてよね。私や戦姫達はどこから来ているのよ?」
「そりゃ、WWGでしょうよ。」
「そのWWGは、どんなゲームなのよ?」
「自国や世界を侵略者から守るゲームですね…。」
「ということは、今回の戦争は、WWGでいう…」
「戦争イベント!」
「そういうこと。私達は、この手のイベントには慣れてるのよ。」
「あー。そういうことか…。でも、ナビィ。ここでは、顕現コストがあるから、戦姫は少数しか呼べないぞ。」
「団長、忘れちゃったの?戦争イベントになると使用可能になる"師団デッキ"よ。」
「"師団デッキ"か…。なるほどな。師団デッキならかなりの戦姫を顕現できそうだ。」
「師団デッキ」とは、WWGの戦争イベントでしか使用できないデッキである。通常の戦闘では最大5人までの戦姫を配置できるが、このデッキでは最大12人までの戦姫を配置できるのである。
「師団」とは、1万人以上の規模の軍団を指して言われる。戦姫が12人しか配置できないのに、なぜ「師団」と呼ばれるのか疑問に思うことだろう。しかし、戦姫は「一騎当千」と言われるほどの戦力である。そのため、一騎当千の戦姫が12人集まると、一師団に相当する戦力となるからである。
「意味不明の言葉が飛び交っていたけど、話は纏まったかしら?」
「ええ。わかりました。協力しましょう。ただし、条件があります。」
「ありがとう。条件とは何かしら。」
「一つ目は、俺や戦姫たちは、軍とは独立して行動することが望ましいです。そうすることで、戦姫たちは自分たちの実力を最大限に発揮することができます。二つ目は、今後侵略目的の戦争には、俺たちは加担しません。俺たちは、防衛のためにのみ戦います。」
「わかったわ。リッテルバウム侯爵に交渉してみましょう。」
――――
(リッテルバウム邸 侯爵の執務室)
「やあ、ヒビキ君。良く来てくれたね。ルナ君からは、話を聞かせてもらったよ。王国の困難な状況に力を貸してくれて感謝するよ。とても心強く思う。さて、君の条件に関しては、全部受け入れるつもりだ。国王陛下や、騎士団の方にも必ず話を付けておこう。」
「侯爵様。ありがとうございます。でも、あまり目立ちたくないんですが…。」
「ははは。君は相変わらずだね。その要望には、なかなか応えられそうにないが、善処することにしよう。大規模な戦闘に関してだが、恐らくはセイン平原となるだろう。到着まで2日は猶予があるだろう。それまでは、我が家で休息を取るがいい。」
「侯爵様のお宅に宿泊など恐れ多いですよ。」
「何を言っているんだね。君は私と娘の恩人だ。これくらいはさせて貰えないか。そこのエルフの娘さんも一緒で構わないよ。」
「それでは、お言葉に甘えさせて頂きます。彼女は、ジュリア。私の従者です。」
「ジュリアです。宜しくお願いします。」
「ほう…。エルフの従者とは、珍しい。では、部屋に案内させよう。おーい!セバ。二人を客間に案内してくれ。」
家令のセバさんに連れられて客間に移動する。客間は壁や床がとても豪華な雰囲気で、宿屋とは違う空間であることを実感する。
「ヒビキ様。凄く豪華なベッドですよ!」
ジュリアは、初めての貴族のお屋敷に興味津々の様だ。ジュリアの笑顔を見ていると、近く戦争があることなど忘れてしまいそうになる。そして、戦争のことで憂鬱になっていた心が少し晴れたような気がしたのだった…。
―――― to be continued ――――
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