第13話 大賢者のお爺さんがTSガンに興味津々!?

「いいザマだぜ、ははは!」

「お前、自由軍だな! 何て事をしてくれた! 」

「うるせえ!」

「わあ!」


 あっ、女の人の髪掴んだ!


『ちょっ! 翼~、マドリーちゃん、あの人助けて~!』

「わかってるって!」


 TSガンを構えたその時、後ろから肩を突き飛ばされた。


「いてっ!」

「すまんの、お嬢さん」


 灰色のスーツを着た背の高いお爺さんが小さく顎を引くと、革靴の音を立てながらゴツイ男に向かって行った。


「レベル25魔法、拘束ボディ!」


 素早く上げたお爺さんの手から魔法陣が浮き上がり、そこから飛び出した黒い糸があっという間にゴツイ男を縛り上げる。


「うっ! くそ!」

「そなた自由軍の者じゃな、まんまと罠に掛かりおって」

「野郎! この役人をエサに使ったな!」

「そんな事より、リーダーの事を話して貰おうかのう」

「誰が話す――うっ!?」


 ん? 急に男の顔がポカンとなったよ。


「早くリーダーの事を話すのじゃ」

「リ、リーダー? リーダーって、何の話だ?」

「うむう、またこれか……やれやれ」


 何なのあれ、ってお爺さんこっち見た。


「さっきはすまんかったのう」


 わおっ! 何このお爺さん、すげえ目が鋭いんだけど。


「い、いえ、別にいいですよ」

「うむう? それは魔道具かの?」

「え? ま、まあ一応」 

「ふむ、初めて見る魔道具じゃのう」


 縛られた男を邪魔そうに押しのけたお爺さんが興味あり気な顔でやって来た。


「どんな魔法が封じてあるのじゃ?」


 腰を曲げてTSガンに顔を近づけるお爺さんに碧が若干仰け反る。


「えっとですね、ん?」


 この銀色の長い髪、長いヒゲ、大賢者ノエルだ、わーお!


「どうされたかの?」

「えっとその、ノエル……さんですよね? 大賢者の」

「そんなことより、質問に答えてくれんかのう」


 そんなことよりって……でも否定しないってことは本人だよな。わおっ、これはラッキー! よし、これ言って早く仲間にしよう。


「実はこの魔道具、TS魔法が使えるんですよ!」


 ノエルならこの発言にとんでもない早さで食いつくはず……って何この沈黙。


「TS……魔法、じゃと?」


 あれ? やったやったバンザーイ! ってスキップしながら仲間になる雰囲気じゃないんだけど。


「そなた、自由軍のリーダー……とは違うかの、一体何者じゃ?」

「え? その、TS神に選ばれた者、ですけど……」


 わおーっ、何か鋭い目がもっと鋭くなったんだけど!


「何と……そなたがあの忌々しいTS神に選ばれし者か」


 えっ? TS神を忌々しい言った!? じゃあこのお爺さんノエルじゃないの?


「これは……断じて見過ごすことは出来んのう」


 何かノエルの目が一瞬TSされたおっさんに動いた気が、って今はそれどころじゃない。

 今すぐここから離脱だ。


「レベル25魔法、拘束ボディ!」


 わおっ!? ゴツイ男を縛った魔法かけられた!


「何するなり―! 翼殿を放すなりー!」

「うむう? ドラゴン族のお嬢ちゃんも仲間か、ほれレベル25魔法、ボディ拘束」

「むひゃ! 何するなり! むっ、むぐぐ……」


 あのマドリーでもこの魔法破れないとか、こりゃマジでやばいんだけど。


「お主ノエルなりか! ノエルならそれがしのTS百合漫画返すなりー!」


 瞼がピクッと動いた、やっぱこのお爺さんノエル?


「……そなたら、ここで待っておれ」


 お爺さんがTSされたおっさんとこ行ったんだけど。


「うう、お、女、女になってしまった……」

「そんな事より、こちらを見るのじゃ」

「は、はい」

「レベル39魔法、グリムリーパーの鎌」


 ちょっ、それデス魔法でしょ! 囮やった人に何でそんな事すんの!?


「えっ? ええっ! お、お止めくださいー!」


 ほら、浮かんだ死のカウントダウン数字に腰抜かしてるよ! 


「というのは冗談じゃ」


 手の平に浮かんだ魔法陣が消えた。


「ほれ、男に戻ったであろう」

「え? あっ、ああ! ありがとうございます、ノエル様ー!」


 マジか、TSされたおっさんが元に戻ってる。

 ホント訳わからない、っていうかあの人、ノエル様言った?


「どれ、そなたら……」


 わーおっ、ノエルがこっち戻って来たー!


「儂と共に来てもらおうかの、聞きたい事は山ほどあるでの」


 あのデス魔法見せられたら付いて行くしかないんだけど。

 という訳で部下と思われる黒スーツに囲まれながらノエルの後ろを歩いて数分、都庁みたいな建物に着いた。

 中も現代的な作り、地下への階段を下ると、天井に魔石っぽいのが光る長い廊下があった。

 その廊下に並ぶ部屋の一室に押し込まれるとガチャンと鍵を掛けられた。

 部屋も現代的な作り、何かガッコの視聴覚室みたいだよ。


「むほー、ここも不思議なトコなり。本当にこの国は見たことない世界なり」

『ホント、完全に浮いてるわよね。ちょっと翼、何でこの国だけあたし達の世界にそっくりなのよ!』

「それはこっちが聞きた――」


 慌てて口を閉じる、そして心の中でこう怒鳴った。

 碧ーっ、何マドリーの前で口滑らせてんのー!

 あいつもそれに気付いたのか、口に手を当てマドリーを見る。


「碧殿」

『え! な、何かな~? マドリーちゃん」

「碧殿と翼殿はどこから来たなり?」

『え……え~っと、その~……ほら、あそこよ……ねっ、翼~』


 助け船早よ早よ! な目でこっち見ないで欲しいんだけど。

 俺がこの世界の創造主と知ったらマドリーは気を遣ってくるはず。

 だから言いたくなかったのに。

 気兼ねなくTS百合仲間同士、キャッキャッウフフしたかった。

 でもこのまま嘘をついてるのは嫌だし何よりメンド臭い、ここは本当のコトを全部言っちゃおう。


「マドリー、落ち着いて聞いてね」

「はいなり」

「実は俺と碧、こことは違う次元の世界にいたんだ」

「むほ? 違うじげんの世界?」

「うん、そして何かわからないヤツの手でこの世界に飛ばされて来たんだ」

「飛ばされたなり!? そ、それは大変なり……」


 ここまでは理解したみたい、では次の難関ステージへGO。


「その元いた世界で俺はゲームを作ってたんだ」

「むほ? げぇむ?」

「何ていうかその、人を楽しませるもので……ほら、マドリーも漫画描く時キャラとか世界観作るでしょ? そういうの作ってたんだ」

「よくわからないけど漫画みたいなのを翼殿は作ってたなり?」

「うん、そして俺が作った世界がここ。そして俺と碧は何者かの手によってここへ送られたって訳」


 とうとう言ってしまった。

 マドリーにはかなりの衝撃に違いない。

 これからもこの世界の創造主と感じさせないよう接しなければ――ってあれ? 仰天すると思ったのに何の反応もない。

 って、目が虚ろなんだけど。


「むほー……わかったなりよ、翼殿の作ったこの世界に……翼殿と碧殿が……送られて……うん、わかったなり……ここは翼殿が作った世界……むほ、むほー……」

 わーお! 真実を受け止めきれないマドリーが崩壊寸前! これは失敗だった、早くマドリーの混乱を解かないと。


「TS魔道具を持つ者とその仲間よ」


 ノエルが黒スーツ二人を連れて部屋に入ってきた。


「TS魔法を見せよという王からの命令じゃ、ついて来るがよい」



【14話予告】

 見たいなら、見せてやろうTSガン、とばかりに王様の前でわーおっとTSを披露する翼。

 王様の前で何かやると褒美か処罰のツーウェイしかないよね、的なお話。

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