第5話 TS美少女同士の会話は楽しい

『麗しのマドリーちゃんが女の子になったでしょ~が!』

「いいんだよ、ちょっと早いけど女体化する事になってんだから」

『いい訳ないでしょ~が! 早くマドリーちゃんを激かわショタに戻してよ~!」

「あのね、これ俺の作ったTS百合ゲームだから。ショタなんて概念存在しないから、ってか女体化した感想を聞かなきゃ」


 やだやだー、ショタがいいー! とロングポニテを振り回す碧を無視してペタン座りのマドリーに近づいた。

 俯いてるので断言出来ないけど、むっちゃロリ美少女の予感、わおっ。

 しかしこんなに近づいてるのにまだ気づかないの? もしかしてさっきのドタバタで呆然としてるとか。


「おーい、マド――いてっ!」


 何っ、見えない壁に当たったんだけど!? ってこれマドリーの体? 擬人化でこう見えるけど、実際はでっかいドラゴンだった。


「ギジギジストップ!」 


 擬人化で見える効力を解除。

 わおっ、でかっ!


「おーい、マドリー!」


 十分距離を取って呼びかけた。


「何なり?」


 こっち向いた! って、なりって何?


「むほっ、人間さん? ちょっと待ってなり」


 マドリーの体がぐにゃっと歪んだ。

 そしてみるみる縮むと少女の姿になった。


「人間さん、どうやってここまで来たなり?」

『ちょ、翼~! マドリーちゃんに何か着せてよ~』


 碧の声にマドリーが自分の体を見た。


「むほ? むほほ?……むほーー!?」


 いやその「むほ」って何?


「それがしのアレが消えてるなり!! ど、どうなってるなり、むほほー!」


 TSしたんだよ、良かったね。

 そう言いたい所だけど、自分の体を触りまくるマドリーのテンションに言い出せない。


『翼~! 麗しのマドリーちゃんだと思ったのに~、どうなってるのよ~!』

「お、俺もちょっとわかんない」

『あんなに自分の体触って~、何かいかがわしい感じでしょ~が! ちょっとどうするのよ、コレ~!』


 麗しのマドリーちゃんからコレ呼ばわりとか。

 しかしおかしい、慌てた時マドリーは「はわわ」と言うはず。

 何で「むほほ」とかキモい口調なんだろ。 


「あの……マドリー?」

「むほっ!? お、お主達がやったなり? むほっ、何でそれがしの名を知ってるなり?」


 言いながら涎垂れまくってんだけど。

 っていうか「お主達」とか「それがし」とか何でオタ口調になってんの?

 とはいえ金のショートウェーブヘア、そして可愛らしいロリ顔にギザ歯。

 作成素材から選んだアイコンとは比べものにならない超絶美少女なのは嬉しいんだけど。


「えーっとね、タルバル村の宿で読んだTS漫画にその名前があったから知ってるんだよ」

「むほ、あの漫画を読んで会いに来てくれたなり?」

「うん、村の人達に聞いたらこの山に居るって言われたんだ」


 レベル1では絶対行けない村だけど、そこで交わされる会話を俺は知っている。

 これぞ製作者ならではの攻略。


「う、嬉しいなり」


 立ち上がったマドリーが手を握ってきた。


「俺、翼っていうんだ、よろしくね」

「よろしくなり!」

「で、マドリーをTSしたの俺なんだ」

「むほ! どうやってなり?」

「実はその、俺……TS神に選ばれた者なんだ」

「TS神に選ばれた者なり!? 本当にいるなんて、神話とばかり思っていたなり!」

「漫画読んでわかったよ、マドリーがTSして美少女になりたがってるの」

「そ、そうなり! 毎晩夢に見る位そうなりたかったなり! 夢を叶えてくれてありがとうなり!」

「いいよ別に、それより今の気分はどう?」

「最高なりよ!」


 金色のショートウェーブヘアをなびかせ、その場をくるくる回る。


「最高だよね、俺もTSして美少女になった時そうだったからわかるよ」

「むほっ、翼殿も男だったなり? 全然そう見えないなり!」

「いやいやマドリーこそ生まれつきの美少女に見えるよ」

「こ、ここ、困るなり、翼殿の方が美少女なりよ」

「いやいやマドリーの方が絶対美少女だって~」


 なにこれ、美少女同士で褒め合うってむっちゃ楽しい!


「そうなり! ちょっと待ってなり」


 マドリーが空間に手をかざすと、微妙に透けた白い紙が現れた。


「え? なにそれ、どうやって出したの?」

「タルバル村で手に入れたマジックアイテムなり」


 言いながら度肝抜く早さで絵を描き始めた。


「出来たなり、翼殿のイラストなり」

「すっげー、マジ上手いー! でもちょっと可愛く描き過ぎじゃない?」

「むほほ、そんな事ないなり。本当の事を描いただけなり」


 やべえ、美少女マドリーと美少女俺のやり取り楽し過ぎ!


『こほんっ、こっほ~ん!』


 碧に水を差された。


「あ、紹介するよ。この人はTS神から授かったTSガンの、その、えーっと……精霊だよ」

『ちょっ、翼!?』


 驚かないで、これ以外説明のしようがないんだけど。


『せ……精霊の碧です。よ、よろしくね~マドリ~ちゃん』


 作り笑いで手を振るの止めて欲しいんだけど。


「むほぉ、TSガン!」 


 マドリーが微妙にキモい動きで立ち上がると、これまたキモい歩きでこちらにやって来た。


「精霊の碧殿、よろしくなり!」


 今度はカミツキガメみたいな速さでTSガンに顔を近づけた。


『わっ、キモっ!……じゃなく、えへへ~、マドリーちゃん? そこまで近づかれるとお姉さん困っちゃうな~?』


 作り笑いで脂汗浮かべるの止めて欲しいんだけど。


「碧殿のイラストも描いていいなり?」

『え? い……いいけど~』


 すかさずイラストをとんでもない早さで描き上げる。


「はいなり! 自信作なり」

『わ~い、どれどれ~……ん?』


 相変わらず凄い上手さだけど、何かこう中性的なんだけど。

 少女漫画に出て来る男子みたいな。


『じょ、上手ね~、でもあたしこんな感じに見える~?』

「言われる前にそれがし気付いたなり」

『え? 何を~?』

「碧殿もTSしたなりね、男の面影あるなり」

『あたしは最初から女よっ!』


 TSガンが勢いよく回転、マドリーの頬をぶった。


「なりブフッ!!」

「ちょっ碧! 何やってんの!」

『あっ! ご、ごめん……』

「大丈夫? マドリー」


 頬をぶたれて横を向いたままのマドリーに声をかける。


「まったく大丈夫なりよ」


 またもや涎を盛大に流しながらこちらを見るマドリー。

 その頬は真っ赤っか、しかも涙目なので痛々しさ四割増しだ。


「大丈夫そうに見えないけど、っていうか涎垂れまくってんだけど」


 それに慌てて涎を拭う。


「こ、これは癖なり……緊張すると自然に出てくるなり」


 こんな設定無いんだけど。

 ひとまずそれは置いといて。


「碧! マドリーに謝りなさい!」

『う、うん! ホントにごめんね~!』

「あ、謝らないでくださいなり、男からTSしたと本気で思ったそれがしが悪いなり」


 何で怒らすようなこと言うの?

 マドリーってこんなヤツだっけ? 悪気無くとも相手を怒らせるタイプじゃないんだけど――って、両手を合わせる碧のおでこに怒りマークが浮かんでる!

 別な話題を振ろう。


「それにしてもエリドラ達の前でずっと下向いてたけど、居眠りしてたの?」

「違うなり、何も言われずここに連れて来られたと思ったら、エリドラTさんのお話が始まったからこっそりTS百合漫画描いてたなり」


 持ち上げたマドリーの両手が左右に開くと、カワイイ美少女が描かれた原稿用紙が現れた。


「うわっ、レベルたかっ!」

「むほほっ、そう言われると嬉しいなり」


 そこでマドリーがきょろきょろ周囲に目をやる。


「あれ? エリドラさん達いないなり」


 こっそり漫画描いててあのドタバタに気づかなかったのか。 

 繊細な性格の設定なのにこんな図太い神経の持ち主だったとは。

 おっと、マドリーが超カワイイ顔でじーっとこっちを見てる。

 早く説明しよっと。


「――って訳なんだよ」

「むほぉ……そんなことがあったなり、エリドラさん達大丈夫なりかな……」

『あんな連中心配することないわよ~。それにしてもホント、プロの漫画家みたいに上手いわね~』


 碧がウィンドウから顔を突き出して原稿に目を近づける。


「そ、それがし何てまだまだなり」


 両手を前に組んで腰を左右にモジモジさせる仕草にまったく不自然さがない。

 さっきまでキモオタだったのが信じられない美少女ぶりだ!


『ところでこれ、印刷とかどうやるの~?』


 碧が宙に浮かぶ原稿に指を伸ばす。


「さ、触っちゃダメなり、紙に封じ込む前のデータはちょっとしたショックで壊れるなり」


 そっと指先から原稿を遠ざけた。

 マドリーにとってそれ程大事なんだ


「こらぁぁぁぁ! 人間ー!」


 わっ! 何? 空から凄い声、って女体化したエリドラ達じゃん。


【6話予告】

 げきおこエリドラ軍団に更なる悲劇が、的な話。

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