第4話 ドラゴン軍団をTSした
「ここがドラゴンの巣だよ、碧」
わおっ、遠目にもかなりデカイ。
『あの金ぴかなドラゴンが親分~?』
碧が円陣の真ん中にいるドラゴンを指差す。
「違うよ、金ぴかと向かい合ってる角が欠けてるヤツが親分、っていうかエリドラT」
『エリドラT~?』
「円陣組んでる連中が一族でも有能なエリートドラゴン。そのエリドラを束ねるトップだからエリドラT」
『あ~、そういうことね。じゃあそのTの向かいにいる金ぴかドラゴンは何~?』
「あの金ぴかこそ俺たちの仲間になるドラゴン、そして最強のドラゴン」
ベタではあるが俺のゲームでもドラゴン族は最強クラスに設定してある。
そんなドラゴン族の中でも金色の鱗を持つあのドラゴンはめちゃくちゃ強い、パラメータ設定しながら「ゲームバランスやばいんだけど」と笑った程強い。
だがその強さ故の辛いイベントがこれから始まるのだ。
『ねえねえ翼~、このアイテム使おうよ~』
見ると碧が目薬っぽいのを手にしている。
「何それ?」
『宝箱で見つけた擬人化目薬でしょ~が。これを目に垂らせばどんなものも人間に見える、って書いてあったわよ~』
え? そんなアイテム作ったっけ?
『ど~れ、ギジギジゴ~! わっ、すごっ! すっご~い!』
ギジギジゴーって何?
よくわからないけどドラゴンの群れを見て興奮してるから擬人化して見えるのだろう。
うう、俺も見たい……作った記憶ないのがアレだけど、どうせ消し忘れた宝箱アイテムか何かだろ。
「碧、それ貸して」
『え? ああ、はい』
こちらに目薬を放り投げる。
ウィンドウから飛び出したそれをキャッチすると、ラベルに書かれたちっこい使用法を見た。
・ギジギジゴー! と言ってください、対象が擬人化して見えます。
・ギジギジストップ! と言えば解除されます。
<効果>一度の点眼で半永久的に持続します。
なるほど、ギジギジゴーとかストップとか変な掛け声は切り替えスイッチってコトか。
では両目に垂らして、と。
「ギ、ギジギジゴー……」
わおっ、全部のドラゴンが角としっぽ生えた人間になってる!
エリドラTはトップらしく髭面のシブいおっさん。
他のエリドラ達はどうなってるかな?
おー、メガネを指で押し上げるインテリ男に腕組みした格闘家っぽい男、みんなビシッとしたスーツ姿でいかにもエリートな感じ。
『ねえねえ翼~、あそこにいる3人の女の人もエリドラ~?』
「え、女の人? あっ、ホントだ……どうだろ、多分一族の女性だと思うけど、何でいるんだ? 俺のイベントじゃ居ないはずなんだけど」
「マドリーニ・キュプニケル・デュゲルよ」
わおっ、エリドラTが喋った!
まさか自分の作ったキャラの声が聞けるとは! それにしても声シブッ!
『翼~! Tが呪文唱えたわよ~!』
「呪文じゃないよ、金色ドラゴンの名前だよ」
『えっ、その長ったらしい呪文みたいな名前やばくない~っていうかアンタ考えたの~?』
「一週間かけて考えた、でもテキストが大変なことになったから泣く泣くマドリーと呼ばせることにした」
『ぷぷ~、中二らしいドジ~!』
「うるさいんだけど、っていうかここから大事なイベント始まるんだけど」
『イベント~? どんな~?』
「マドリーは人間でいうと十歳ちょいの少年」
『うん、細身のボクちゃんで金色のふんわりショートボブが堪らないわよね~、しかも俯いたままのペタン座りなんてツボ抑えすぎ~。うへへ~、じゅるっ』
ヨダレ拭ってキモいんだけど、ってか碧って微妙におねショタ趣味あったよな。
「マドリーはあの見た目通り内向的で優しいお子さま。大好きなのは漫画を書くこと、大嫌いなのは争うこと」
『漫画描くのが大好きとかってカワイ~、ますますおねショタ心をくすぐりそ~』
いや、言ちゃってんだけどこの人。
「そんなマドリーだけど、皮肉な事にメチャクチャ強い。そこにいるエリドラ全員と戦っても余裕で勝っちゃう」
『心優しいのに鬼つよっ! すっご~い、あたしのおねショタ心が場外ホームラ~ン!』
いやそこドストライクでしょ、場外飛ばしてどうすんの?
「そんなおねショタ大好き碧さんに悲報、マドリーはこれから大変な目に遭うのです」
『え! 何? どんな目に遭うの~! っていうか別におねショタ大好きでもいいでしょ~が! アンタのTSなんかよりずっとマシでしょ~が!』
「はいはい」
『で、どんな目に遭うの~?』
あるところにマドリーという、それはそれは強いドラゴンがいました。
『やった~、何かお話始まった~』
ところがマドリーは争うのが何より嫌いでした。
『うんうん、いいコいいコ~』
ドラゴンは他の一族と常に縄張り争いをしています。
『ドラゴンってバカね~』
マドリーが先頭に立って戦えば、相手の一族はあっという間にフルボッコ。
でもマドリーはエリドラ達に怒られようが叩かれようが戦うのを拒み続けました。
『ふんぬ~! エリドラ達許すまじ~!』
今回もエリドラ達はマドリーを呼び出しました。
当然他の一族と戦うよう強制するつもりなのです、それを拒んだマドリーが怒鳴って叩かれるのは火を見るより明らかです。
『もう我慢できない! アンタの作ったゲームでしょ~! マドリーちゃんを何とかしてよ~!』
そこへ一人の人間が颯爽と現れました。
『え~! 誰? 誰~?』
「それは俺です」
『は~? アンタ~?』
「当然でしょ、俺が主人公なんだから。という訳でエリドラ達がマドリーを怒鳴って叩こうとしたらすかさず俺が登場する」
『も~、面倒だから今すぐ出て行きなさいよ~!』
「あのね、物事には順番ってのがあんの。カップ焼きそばもお湯注ぐ前にソースかけたりしないでしょ」
『で、でも~、でも~』
「マドリーニ・キュプニケル・デュゲル、よく聞け」
って、エリドラT喋り始めたんだけど。
「今からこの女共と子を作るのだ」
わお!?
『ちょ、ちょ、ちょっと翼~! 今Tがとんでもないコト言わなかった~!?』
「い、言ったね確かに、そにしても……」
マドリーと子作りしろ? ってこんなテキスト作った憶えないんだけど!
「喜べ、もうお前は当てにしない、代わりにお前の子供に戦って貰う。わかったならさっさとそこの女共と子を作れ、嫌と言うなら女共は一族から追放する」
桁違いに強いマドリーが戦わないなら、その強さを受け継いだ子供を戦う道具にしようって訳か。マジ信じらんない、すっげえ腹立つんだけど。
それにマドリーが嫌と言ったら女の人達を追放とか、そんな事をしたら力の弱い女の人達は他の一族の連中に掴まって一生奴隷。
エリドラの奴らめー、優しいマドリーが絶対嫌と言えないような事しちゃってえ……。
『翼~! 穢れを知らないあたしのマドリーちゃんが~、こ、子作りしちゃう~! 早く何とかしなきゃ! ね~翼~!』
「うん何とかする、あいつら全員TS決定」
『え? ちょっ、翼? 落ち着いて~! そんなコトしたらゲームおかしくなっちゃうんじゃない~?』
「TSガンマルチプル! ほら、碧」
『え? ご、GO~……』
発射された赤と青が絡み合ったビームが幾重にも分かれて飛んでいく。
これぞ宝箱でゲットした複数同時攻撃スキル、TSマルチプル!
よっし、ビームがドラゴン全部に命中したぞ。
「ぐっ、ぐおおお!?」
「な、何だこれはー!?」
どうですか? 全身のツボを押されたようなむず痒い感覚でしょ。
これが女体化への通過儀式だよ。
ドラゴン達の体がゆらめく虹色に変わり、シュワーっと炭酸が弾けるような音がして……TS完了っと。
「う……うう……こ、これは……どういうことだ!?」
這いつくばる女体化したエリドラの面々を見ると、もとがイケメンなせいか全員美女。
「お、お主……女になっているでは……ないか」
「そういう貴殿こそ……女になっておる……ぞ」
「な、なんということ! こんなところを襲われたら……一巻の終わりではないか!」
這いつくばる美女軍団が頭を抱える姿は様になるな。
『ねえねえ翼~、何であいつらパニくってるの~?』
「ドラゴン族の女性は男性に比べるとかなり戦闘力が落ちるんだよ」
『なっるほど~、ぷぷぷ~! いい気味~、どうせなら他の一族にフルボッコされたらいいですよ~だ』
「フルボッコじゃすまないよ、女性は強制子作りさせられるんだけど」
『え!? さ、さすがにそれはかわいそうね……』
そこへイケボが響いてきた。
「うっわー、すっごいイケメンになってんじゃん」
「あんたこそ逞しくてカッコよくない?」
声の方を見るとムキムキ男性3人がはしゃいでいた。
『あれって~、もしかしてマドリーと子作りさせようとした女性ドラゴン~?』
「だね」
そんな3人にエリドラTが凄い剣幕で騒ぎだした。
「お、お、お前らー! 男になったのか!? それなら我らを守れ! いいな、我らを守るのだ、わかったなー!」
「はあ? ふざけないでよ、私らをさんざん物みたいに扱ってたクセに」
「そうそう、どうしてもというならしっぽを真上に立てて土下座しなさいよ」
「なによ、その目! 行こ行こ、こいつらなんか無視してどっか行こ!」
当然なことを言い返すと、3人は背中の翼で灰色の空へ消えて行った。
「こらっ、待て! いや、お待ちください! どうか! どうか我らを守ってくださいー!」
さっきまでの偉そうな態度はどこへ、エリドラ達が身も蓋もない感じで追いかけていった。
しかしこんな展開になるなんて。
本当はマドリーが怒鳴られ叩かれてる所へ俺登場、俺に襲い掛かろうとするエリドラ達の前でマドリーをTS、俺をTS神に選ばれし者と認めてマドリーを引き渡す、という流れのはずだったのに。
『ちょっと、翼~!』
「何?」
『あれ見なさいよ~!』
意味の無いエレベーターボタン連射を彷彿させる指先の向こうに、女体化したマドリーの姿があった。
【5話予告】
一言もしゃべる事なく無くTSされたマドリーが大暴れ、的な話。
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