第3話 最強ドラゴンを仲間にする事にした

『何ぷんすこしてるのよ翼~、あたしが真っ暗闇に閉じ込められてる間何あったのよ~?』

「あの文字の送り主がね、3日以内に魔王を倒さないと……その、お前達の命は無い書いてきたの」

『ちょっ、何よそのデスゲーム~!』

「それだけじゃない、TSを憎んでいるってのも書いてきた」

『別にそれはどうでもいいわ~』

「どうでもよくないんだけど! 魔王討伐はこのゲームの最終目的じゃないの、飽くまでプレイヤーの腕試しイベントのひとつなの! 魔王は最強の存在というだけでTSとはまったく無縁の存在なの! わかる?」

『え? あ~、うん』


 ちょっと話聞いてる? ってなに明後日の方見て首傾げてんの?


「それなのに文字の送り主は“TSを憎む魔王”と言ってきた。<ご招待>とか言って俺の作ったゲームに送り込んだクセに、こんな基本設定も知らないとか腹立つんだけど」

『へ~……うん』


 だからどこ見てんの。


「碧、聞いてる?」

『え? あ、うん、TSを煮込む魔王をご招待なんでしょ~』


 やっぱ聞いてないんだけど。


「俺はTS百合を何より愛しているの、だから文字の送り主が許せないの」

『は~』

「なので魔王を最速で倒す事にしたよ、そして文字の送り主にこう言ってやるよ」

『え~っと……元の世界に帰るもんか~! このままTS百合の国を建国してやるんだけど~! って言うつもり?』


 わーお、まさかこいつに考えを読まれるとは。


「や、やるじゃん碧」

『ふっふ~ん、幼馴染だから翼の考えなんかわかっちゃいますよ~だ』


 ますよーだ、じゃないんだけど。

 タイムリミットまでにラスボス倒さないとお前破壊されるんだけど。

 だから得意げな顔でこっち見てる場合じゃないんだけど。


「俺の考えわかるとか偉い、偉いよ」


 突如湧いた怒りを誤魔化したくてTSガンを激しく撫で撫でした。


『ちょっ! どこ触ってるのよ!』


 え? ガンがこっち向いた!?


「わおっ!」


 TSビーム!! 

 やっべ、今のはやばかった! とっさに目標解除したから良かったけどマジやばかった! 


「何すんの!? って、お前動けるの!?」

『ア、アンタが変なとこ触ったからでしょ~が!……あれ、そういえば向き変わってる~?』


 マジか……自分で動いて撃てるのか。


「あのさ、碧、もっかい動いてくれる?」

『え? うん、わかった~』


 ウィンドウの中で踏ん張り顔になった。

 何かウケるんだけど。


『う! う~~~ん! ふぉっ! うっ、うう~~ん! あれ~? ふんぬ~~~っ! ……ハァ、ハァ……ダ、ダメみたい……』


 何だ、たまたまか。


「ともかく、いくら半狂乱になっても勝手にTSビーム撃っちゃダメ、いい?」

『もう一回撃てばもとに戻るから別にいいんじゃないの~?』

「わーおっ、何言ってんの、そんな簡単なもんじゃないんだけど。いい? TSして更にTSすると記憶が消えるの! 全部だよ、全部」

『ええ? 何よそれ~、何でそんな仕様にしたの~?』

「TSはファッションみたいにコロコロ変えるもんじゃないの」

『変な縛りキモ~!』


 重みのあるTSの尊さを何一つ理解できないようだ、かわいそうに。

 まあいいや、サクサクっとゲームを進めよう。


『ねえねえ翼~、どこ向かってのよ~?』

「タイムリミットがあるからまずは街に寄って、それからドラゴンの巣に行くの」

『ドラゴンの巣?』

「そう、ゲーム終盤で仲間に出来る最強の仲間がいるの」

『ちょっと~! アンタまだレベル1でしょ~が、そんなトコ行くの無理に決まってるでしょ~が~!』

「ちんたら序盤しかプレイしてないお前にはわからないだろうけど、俺の作ったこのRPGはめちゃくちゃ自由度高いよ」

『自由度~?』

「そう、条件クリアしないと新しいフィールドに進めないゲームと違い開始早々どこでも行けるの。魔王と戦うことだって出来るの、辿り着く前にゲームオーバーだろうけど」

『へ~、だからレベル上げしなくても最強の仲間を加えることが出来るってことね~』

「その通り」

『でも大丈夫~? その仲間、ドラゴンの巣とかヤバそうなとこにいるんでしょ~』

「うん、まあパーティレベルが40超えなきゃキツイ場所」

『アンタまだレベル1でしょ~が! どうするのよ~?』

「俺はこのゲームの製作者と言ったでしょ、これから最短のクリア方法を見せるから」

『は~い』


 まずはカジノへ行く、メダルを稼いで景品をゲットする為。

 選ぶゲームは短時間で結果が出るスロット。

 そしてここからが裏ワザ。

 スロットが回ってる間に素早くステータス画面開き、あらかじめ買っておいた薬草を使うの。

 こうすると必ずジャックポットになるの。

 そうやって稼いだコインで景品のステルスジェルを大量入手。

 え? 経験値を3倍にするアイテムあるでしょーが、それと交換しなさいにょー! だって? 

 あのね、それと交換するには膨大なコインが要るの。

 スロットをガコガコ回してる内にタイムリミット、即ゲームオーバー、わかった?

 うん、わかればいいの。

 じゃあ続き。

 ステルスジェルを使って敵とのエンカウントをゼロにしたままドラゴンの巣へ向かうの。

 途中にある強力な装備やアイテム入ってる宝箱も忘れずチェック。

 ほら、レベル10くらいの強さになった。

 特殊アイテムでTSガンの攻撃バリエーションも増えたし。


「――という訳であっという間にドラゴンの巣に到着」


 高レベルモンスターの骨で埋め尽くされた山頂、周囲の火山から噴き上がる煙で見渡す限り灰色の空。

 想像してたイメージにぴったりだよ、わーおっ。


『ねえねえ翼、ご飯にしましょ~』

「そういや腹減った」


 でっかい骨をベンチ代わりに座った。


『はい翼のハムサンド~』


 碧がウィンドウの向こうからサンドイッチを手渡してきた。

 そっか、カジノの食品売り場で俺に持たせたカゴにいろんなのポイポイ投げ込んでたもんな。


「ありがと、もぐもぐ……んぐっ!?」


 すっぱ! 何これ、ピクルスびっしりじゃん。


「碧、ハムサンドじゃなくてピクルスサンドなんだけど……」

『当然よ~、アンタが移動してる間にあたしが挟んでおいたんだから~』


 碧がサンドイッチを頬張りながらピクルスの瓶を揺らしている。


「何でそんなマズくなる事すんの!?」

『ピクルスは血液をさらさらにしてくれるのよ~! アンタはいつも肉~、肉~、ミ~ト~、ばっかで血液どろどろでしょ~が! だからあたしが健康を考えて手を加えたのよ~、いいから黙って食べなさい~!』


 この世界でもブレないとか、まあいいや、どうせこれ以上何か言っても「健康にいいんだからー!」の無限ループだし。

 ピクルスの味しかしないサンドイッチを食べ終わった俺は手に付いた汁をマントで拭いながら火山灰で視界不良な先を歩き続けた。 


『ちょっ、翼~、何あれ~!』


 急に見通しが良くなった先に円陣を組むドラゴンの姿があった。


 【4話予告】 

  オタクでショタな最強ドラゴンをTSガンで撃ったら何とまあ、な話。

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