第2話 幼馴染とメッセージ

 この世界に飛ばされて1時間――位かな、でも今のモヒカンゴリラのイベントで確信したよ。

 ここは俺が作ったゲームの中。

 そしてTS神に選ばれた者しか使いこなせない性転換魔道具、いわゆるTSガンを手にしるので俺がやっぱり主人公。

 とはいえさっきの人に言った“TS神からTSしたい者を救うよう選ばれた者”は建前。

 真の目的はこのTSガンで俺と同じような百合好き男子を美少女化して仲間にする、そしてキャッキャッウフフな冒険をしながら、最終的に百合の国を作るのが目的だよ。


 男子をTSして美少女化より、最初から美少女を仲間にした方が早くね? 


 そういう考えもあるだろうが間違ってるよ、カップ焼きソバってみんな同じ味だよね、という位間違ってるよ。

 美少女は生まれた時から美少女、だから空気を吸うのと同様モテるのが無意識の当たり前。

 そして百合好き男子はどうかというと恐らくモテない、というか女性とつきあったことすらない。

 そういうヤツはTSに憧れ、美少女になる事を夢見る。

 これは間違いないの、だって俺がそうだから。

 つまりTSして美少女化した俺が生まれつきの美少女を仲間にしたところで上手くいくはずがない、それより俺と同じようなヤツをTSガンで撃って仲間にした方が絶対気が合うよ。

 そうやって作った美少女パーティで百合百合な旅を続ける。


「で、ゆくゆくはTS美少女だけの国を作るんだ!」

『うわ~、キモ~』


 TSガンが耳を疑うような事言ってきたよ。


「え? 何? 何て言ったの?」


 TSガンの上にウィンドウが現れた。

 そこに映るのは幼馴染の碧(あおい)。


『TS美少女だけの国とかキモ過ぎ~、って言ったんですよ~だ!』

「何回もしつこいんだけど、っていうか何でお前もココ来たの? 困るんだけど」

「勝手に送られたんでしょ~が! あたしだってこんなトコ行くか聞かれたら5年前から拒否ってるわよ~!」

「そうだねゴメン、っていうか俺がTSガンって言ったらGO! って言う段取りでしょ、何で守らないの?」

『アンタが勝手に決めたんでしょ~が! っていうかそんなバカなこと言うはずないでしょ~が!』

「バカバカ言ってるけど、そのバカにいつも勉強教えて貰ってるバカは誰?」

『た、たまに教えて貰ってるだけでしょ~が!』

「たまにじゃなく、テスト前いつもでしょ。それもガキん時からずーっと教えてんだけど」

『うっ! そ、そのお礼にいつも料理作ってあげてるでしょ~が!』

「その度うちのキッチンめちゃくちゃなんだけど」

『それ去年までの話でしょ~が!』


 このやり取り、保育園から高二の今までずーっと続いてんだけど。


「もういいよ。どっちもバカでいいんだけど」

『ふんぬ~……まあいいわ~、ところで』

「何?」

『いつになったら元の世界に帰れるの~?』

「何?」

『何? じゃないでしょ~が! あたし、翼の作ったゲームの中にいるのよ~! 何でTSガンとかキモいアイテムになってるのよ~! あ~早く帰りたい! 早く帰りたい~!』


 頭を抱えてロングポニテぶんぶん振り回してんだけど。


「落ち着いて欲しいんだけど」

『落ち着いてるでしょ~が!』


 それで落ち着いてるなら人類みな落ち着いてるよ。


『アンタこのゲームの製作者だからなんとか出来るはずでしょ~が! でしょ~が~! でしょ~が!』


 俺の従姉妹を彼女と勘違いした時以のパニックモード。

 その時は自分より先に恋人出来たと思ってスイッチ入ったんだろうけど、こうなると面倒臭い。

 でもこいつとは保育園からの腐れ縁、落ち着かせる方法を知っているよ。


「ちょっと碧」

『しょ~が! え? な、何よ~!』

「お話の時間だよ」

『え? なになに~!』


 こいつはお話を聞くのが何より大好き。

 どんなに機嫌悪くともこれですぐ直っちゃうよ。

 ではコホン。


 見習いの百合魔法使いが、目隠のまま森に置き去りにされました。

 何故ならそれは恐怖を克服する試練だからです


『何よそれ! まだ見習いなのに詰んじゃう試練でしょ~が! ってかまた百合キャラ~?』


 耳にはいくつものモンスターの唸り声が飛び込んできます。

 いつもキャッキャッな百合の声しか聞いてない見習い魔法使いは恐怖を抑えきれません。

 たったひとつ使える火炎魔法を撃ちまくりました。

 あっという間にMPゼロ、見習いですから当然ですね。


『大ピンチでしょ~が、てかどうなるの? どうなるの~?』


 見習い魔法使いは素早く目隠しを外すと地面に叩きつけました。


『え~?』


 そして木陰に隠れつつモンスターをやり過ごしながら森を脱出すると、愛しいお姉様が働く百合カフェに向かって駆け出したのでした。

 おしまい。

 

『おしまいって、そんなのあり~? ってか相変わらず意味ない百合ね~』

「うるさいんだけど、百合のないお話なんかそれこそ意味ないんだけど。ともかく、

 本当の魔法使いになる前に死んだら元も子もないって話なんだけど」 


『つまり~、どういうこと~?』

「つまり慌てる前に状況判断しなさいってこと」

『状況判断か~。この世界は翼の作ったゲームっぽい、くらいしかわからない~』

「っぽい、では無くここは間違いなく俺の作ったゲームの中。つまり俺は状況判断が出来る!……はず」

『じゃ、じゃあ早く何とかしてよ~! 早く帰りたい~! 早く帰りたい~!』


 振り出しに戻ってんだけど。


「碧、落ち着いてよ。まずは記憶を整理しよう、出来るでしょ?」

『う、うん~』

「例のごとくお前はテスト勉強を教わりにいつも通り……そう、いつもいつも、いつもどうり俺の部屋に来てたよね」

「うん……って、いつも多過ぎでしょ~が!』

「で、その対価として俺の作ったTS百合RPGをテストプレイをしていた。そうでしょ?」

『うん、仕方なくやってた~。性転換とかありえないしキモ~、とか思いながら仕方なくやってた~』

「きもー、とか言わないで欲しいんだけど。それに性転換じゃなくTS!」

『どっちにしたってキモ~、っていうかアレ、全部翼が作ったの~?』

「うん、っていうのは嘘で市販のRPG作成ツールで作った」

『あのさ~前から思ってたけど、何でゲームなんか作ってるの~? あんたはお話作る方が絶対向いてるわよ~』

「お話は始まりから終わりまで一本道でしょ、でもゲームは選択肢もあるしいろんなルートを選べるから楽しいの。っていうか、お話聞くの好きだからってそんな事言わないで欲しいんだけど」

『ふんぬ~!』

「怒んなくていいから。で、話を戻すけど、そのテストプレイ中何が起こってここへ来たの?」

『キモ過ぎるから心を無にしてプレイしてたら~、画面にでっかく〈ご招待〉って文字が出て~、気付いたらこの世界に来てた~』

「そう! 何かわからないけどそいつの力で俺たちはこのゲームの中に送られた。つまりそいつの思惑がわからなければ俺たちは戻れない、と思う」

『戻れないって何よ~! こんなキモいゲームの世界から戻れないなんて絶対嫌――』


 って、碧がウィンドウから消えた!?

 わおっ!?……代わりにロゴみたいの出て来たよ。

 何だろ、串に刺した沢山の団子を斜め前から見たようなヘンテコなロゴ、ってその下に文字出て来た!


<帰還条件:ラスボスを倒す>


 何これ? 

 ああ、俺と碧をここへ送り込んだヤツか。

 もしかしてデスゲームの主催者真似てんの? それにしても捻りのない条件なんだけど。

 っていうか俺、このゲームの製作者なんだけど。そんなんでいいの? 


『え? えっ? 何なの~? 急に真っ暗になったんだけど~?』


 文字が消えると同時に碧が映ったよ。


「大丈夫?」

『う、うん、まあ……ところで何があったの~?』


 相当慌てたようでロングポニテとガッコの制服が乱れている。

 身だしなみはいつも良いだけにちょっと笑えるんだけど。


「俺ら送り込んだやつからメッセージ来た」

『え? どんなの~?』


 カップ麺にお湯入れて3分待つのと同じ位ヌルい条件を伝えた。


『ふ~ん、確かにアンタが作ったゲームだからクリアは楽勝よね。あっ、そ~だ、攻撃力とか防御力とか一番上にしていっきにクリアしない~? 製作者なんだから出来るでしょ~』

「あーカンストね、それ出来るならとっくにしてるよ」

『え、何だ~、がっかり製作者~』

「うるさいんだけど、っていうか俺、ラスボス倒す気ないんだけど」

『は? ちょ、翼~、アンタ何言って……』

「自分の作ったゲームに入れるなんてアニメやラノベにしかない展開だろ。しかも俺はTSガンを持った主人公! だったらこの世界にTS百合の国を作ってやろうと思うのが普通なんだけど」

『全然普通じゃ――』


 碧がまたもウィンドウから消えたよ、って例の文字出た。


<帰還条件追加:3日間で魔王を倒す>


 何追加出しての? ってか俺と碧の会話聞いて慌てて出したの?

 しかも画面の隅っこにカウンダウンタイマー出てんだけど。


『また真っ暗になったけど、今度は何て言ってきたの~!?』


 ウィンドウに戻って来た碧に追加条件を伝える。


『ふんぬ~! そこのあなた~!』


 碧が何故か空に指向けてんだけど。


『人を勝手にこんなキモいゲームの中に放り込んで3日間で魔王倒せってどういうつも――』


 またまた碧が画面から消えた。

 そして例の文字。


<倒せなった場合:TSを憎む魔王の手によりTSガンは破壊される>



【3話予告】 

 そうだ、最強ドラゴンを仲間にしよう、的な話。

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