第14話 TS披露したら王様に「始末する」言われた

 この国の王様か。

 設定どころか名前も作ってないけど、その場で処刑言い渡す極悪な王だったらやばい。

 そうなったらTSマルチプル使ってこの場にいる人達全員TSして、ムズじわ感で動けないノエルを強引に連れていこう――いや、魔法王国史上最高の天才であるノエルにそれはまずい気がする、TSガン構えた瞬間高レベルの攻撃魔法で瞬殺されるかもしれない。

 わーおっ、ここはついて行く一択しかないよ。


 そんな訳でノエルと黒スーツに挟まれた状態で長い廊下を歩く。

 ノエルが何か既視感ある扉の前で止まった。

 それは元居た世界でお馴染みのエレベーターだった。

 乗り込むと扉が閉まり、上昇が始まった。

 階数を示すパネルの数字がとんでもない速さで動いている。

 なのに魔法の力だろうか、微塵もGを感じない。

 外に目をやるとタイヤのないミニバンっぽいのが誘導灯に沿って飛んでいる。

 魔法と科学が同時に進んでる国っぽい。

 Gを感じないまま、階数を示すパネルが最上階の50で止まった。

 エレベーターを出て廊下を歩き、国王室というプレートがある部屋に通される。

 中はドラマなんかに出て来る社長室にそっくりだった。


「TS魔法の魔道具を持つ者とその仲間を連れてきました」


 ノエルがそう言うと、偉い人が使いそうな机でペンを走らせてるメガネのおっさんが顔を上げた。


「ご苦労、ノエル殿」


 おっさんの顔は地味だった。

 沼みたいな色のスーツというバフアイテムが更に地味効果を引き上げている。

 すげえ地味、アニメーターが適当に作ったその他大勢のモブみたいに地味だよ。

 こんなモブ顔のおっさんが王様とかマジか。

 っていうか隣に立ってるお姉さんのが凄い、美人過ぎるんだけど。

 スーツ着てるから秘書かな。


「アリア、コーヒーを」

「はい、只今用意します」


 美人お姉さん、アリアさんっていうんだ。

 スーツ越しに浮かぶヒップラインをこちらに向けて、コーヒーメーカーのある棚に歩いて行く。


「ど、どうぞ」

 

 手にして戻って来たコーヒーをやけにオドオドした様子でモブ王の机に置いた。

 それに礼も言わず口を付けるモブ王。


「うん?……アリア」

「は、はい」

「これは砂糖をスプーン大盛4杯入れた味、としか思えないのだが」

「えっ、そ、その……」

「スプーン大盛3杯、そして大盛弱1杯の砂糖を入れたコーヒーが私の好みだと何度言わせるのかね!」

「す、すみません、すぐ作り直します!」


 いや、そんなメンド臭いこだわり何度も言ってんの。

 このモブ王、果てしなくメンドくさっ。

 って、ん? 壁にこの国の国旗が貼ってあるけど、串に刺した沢山の団子を斜め前から見たようなロゴの旗もその下に貼ってある。

 エリドラTの時といい、こんなトコでも俺達にアピールしてるって事は何か意味あんのかな。


「キミ」


 モブ王の声にちょっとビクっとなる。


「私はこの国の王、モヴリアーノ・フォン・ラヴォワだ」


 ちょっ、モブ顔でその名前とか狙ってんの? 笑っちゃいけない選手権じゃないんだからガチ止めて。


「それがTS魔道具かね?」


 ペン先でTSガンを差される。


「はぁ」

「それで自分をTSしたのかね?」

「はぁ」

「ということは中身は男なんだろう、そんな破廉恥な格好をして恥ずかしくないのきゃね?」


 噛んでんだけど。

 っていうか全然恥ずかしくないよ、だって今の俺美少女だし。


「ではTS魔法を見せなさい」


 何言っての? このモブ王、この場にTSしたがってる人いないでしょ。

 俺は基本望んでる人以外TSしない。

 って、黒スーツがめっちゃゴツい角刈り連れて来たんだけど。


「その男をTSして見せなさい」

「は?」

「その男は拘置所にぶち込んでた強盗だ、お前を殴りつけたら釈放すると言ってある」

「ええ!?」

「よし、放しなさい」


 マジ! ってすげえ勢いで向かって来たよ!


「TSガン、GO!」


 近距離なのであっという間に命中。

 くそー、碧が言うべき「GO!」を言ってしまったよ。


「うぉ!? ううっ、ううーっ!」


 全身のツボを押されたようなあの感覚に角刈りが悶絶。


「あ、ああ……」


 TS完了。

 角刈りだった髪はさらさらの長髪に、顔面凶器は武闘派美人に、これは中々の百合魅力度と予想。


「初めてこの目で見たがおぞましいものだな、TSというものは」


 やらせといて何その言い方、何かメッチャTSビーム撃ち込みたいんだけど。

 っていうか4コマ漫画だったら最後のコマで撃ってるオチだよ。


「ふむ、キミがTS出来るのはわかった。そいつをもう一度撃って元に戻しなしゃい」


 また噛んでんだけど。


「やだよ、TSビームを二回撃ち込むとその人の記憶が消えるんだから」

「うん? 何でそうなるのかね?」

「TSはそうコロコロするもんじゃないの」


 そういう事、でも最初は二度撃ち込むと死ぬ設定だったの、でもそれはやり過ぎという事でこの設定に変えたの。


「だがTSしたそいつはどうかね、いっそ記憶を消されて男に戻りたいと思っているのではないかね」


 いやそいつ見てよ、自分の髪とか体触ってウットリしてんだけど。


「まあいい、貴様ら、その魔道具を没収しなしゃい!」

 

 また噛んだよ、モブが頑張ってキャラ作んなくていいから。

 って黒スーツにTSガン奪われたんだけど。


『ちょっ! 何するのよ!』


 怒り半分の碧が慌ててるけど落ち着けと言いたい、何故かっていうと――


「うっ!?」


 黒スーツの手からスポーンとTSガンが抜けると、シュタッとこちらの手に戻って来た。


「奪おうとしても無駄なんだけど。だってTSガンはこんな風に戻ってくるし、トリガーも俺にしか引けないし」


 モブ王がメッチャ面白くない顔になった。

 ざまぁというかいい気分。


「ならばTS自由軍の情報を吐かせるだけになるかね」

「TS自由軍?」

「とぼけるのかきゃね? そいつらの手引きでこの国に入ってきたのだろう」


 このモブ王噛み過ぎ。

 とはいえ何そのワード? このゲームにそんなの存在しないぞ。

 これも俺のゲームにちょこちょこ改変加えたヤツの仕業?


「うん? アリア」

「は、はい」

「こいつらからTS自由軍の情報を吐かせる、どう思うかね?」

「え? そ、その……」

「うん? 私が決めた事には何人たりと逆ってはいけない、わかるかね?」

「は、はい」


 逆らってはいけないなら何で確認するの? ほらアリアさん声震えてるよ。


「ふぅ」


 誰かの溜め息聞こえた。


「TS魔道具はそいつにしか使えないそうだ、なら始末するしかない」


 ちょっ、始末する!?


「うん? どう思うかね、アリア?」

「そ、その……」

「うん? ならもう一度言おう、私が決めた事には誰だろうと逆ってはいけない、わかるかね? わ・か・る・か・ね?」

「は、はい……わかります、逆らったりなどしません」


 何この陰険なやりとり。

 とはいえヤバイ事になった、ここはTSマルチプルで全員TSした隙に脱出するしか――


「ふぅ」


 またどっからか溜め息。

 これ方角的にノエルだよね。


「では処分は任せる、ノエル殿」 

「かしこまりました、この者たちは儂にお任せを」


 これは何かあるよ、ちょっと様子を見よう。

 

【15話予告】

 こなんくんみたいに目を光らせる翼。

 そして大賢者ノエルがとうとう本性を露わに、的なお話。

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