第15話 生まれた時、大賢者ノエルは〇でした

 連れて来られたのは最初に閉じ込められた地下室だった。

 黒スーツが俺とマドリーを椅子に座らせると、その両脇に移動して逃げ道を塞ぐ。


「どれ、それでは質問に答えて貰おうかの」


 向かい合って座るノエルが机の上で両手を組んだ。

 これって、指令出すけど断れないからねお前ポーズ。

 まさか自分のゲーム内でこんな目に遭うとは。


「言っておくが儂はこの世界にある魔法をほぼマスターしておる」


 人差し指をピンと立てると、その先にライターみたいな火がポッと現れた。

 火が消えると今度は水の塊、そしてちっちゃなつむじ風、更には白い冷気を放つ氷が次々と現れた。


「このような魔法以外にも」


 わおっ、ミニブラックホールみたいの出した!


「暗黒魔法も得意じゃ。質問に答えぬ場合、そなたの望む魔法をプレゼントするので遠慮なく言うがよい」

 

 わーお!! 仲間になるはずのノエルに何でこんなことされるの!?


「おっと、その前に」


 ノエルが耳の穴をほじる。

 そして変な言葉をつぶやいたと思ったら、ほじった指先に「ふっ」と息を吐いた。


「どれ、これで本当に聞きたいことをそなたらに聞けるのう。あー、どっこいしょ」


 背もたれに思いっきり体を預けると足を組んだ。

 身長が高い上に足も長いので外国の俳優さんみたいに決まってる。


「そなたらも楽にしてよいぞ」


 黒スーツ見張ってんのにそんなこと言われても。


「ん? ああ、この者たちか」


 こちらの考えを読んだみたいに黒スーツに目をやる。


「そやつらには幻影魔法をかけておる。今頃そなたらを取り調べしている儂の幻影を見てるであろう」


 幻影魔法? 何か胡散臭いんだけど。


「疑っておるな。おおーいそなたら、儂疑われとるぞ」


 黒スーツをチラっと見たが反応がまったく無い。

 マジで幻影魔法機能中らしい。

 成る程、さっきの変なつぶやきは幻影魔法の詠唱だったのか。


「そなたら、TS自由軍を知っておるか?」


 いやモブ王もそのワード言ってたけど、何それ。


「知らないなり! それよりそれがしの漫画返すなり!」


 やばっ、知らないワードに気を取られてマドリーのコト忘れてた。


「そんなことより、TS自由軍を知っておるかの?」

「何で無視するなり! 早くそれがしのTS百合漫画返すなり! むにゅにゅー!」


 やば、マドリーが激おこモード寸前!


「落ち着いて」


 そう言って小さな腕を取ると、俺のDカップの谷間に押し込んだ。


「むほぉ! つ、翼殿」


 マドリーの顔からあっという間に怒りが消えた。


「こういう状況だからその話は後にしよう」

「わ、わかったなり」


 怒りが治まった上に目が潤んでる、予想以上に俺のおっぱい効果は凄いらしい。

 よし、話を進めよう。


「本当にTS自由軍のコト知らないんだけど」

「ふむ……」


 わーおっ、何か睨み殺すみたいにこっち見てんだけど。


「……ふーむ……うむぅ」


 メッチャ眉間に皺寄せてんだけど。


「確かに……知らぬようじゃな」


 へ? 


「何、そなたの目を見て儂の勘がそう言ったのじゃ。無駄に歳は取っておらんでの」


 何かわからないけど年の功ってやつか、取りあえず信じて貰えてよかった。


「ところでそのTS自由軍って何なの?」

「そんなことより、聞きたいことがある」


 また「そんなことより」だよ、モブ王も聞いてくる位だからTS自由軍ってかなり重要な事なんでしょ、そんな言い方していいの?


「TSガンの精霊とやら、そなたはどのような者でもTS出来るのか?」


 鋭い眼光を向けられた碧がピクンとビビってこっちを見た。


「俺が答えるからいいよ」

『う、うん~』


 こんな目付きの鋭い爺さんに睨まれたら誰だってビビる。

 でもこいつを作ったのは俺。

 神は人間にビビらない、何故なら人間を作ったのは神だから。

 ノエルを作ったのは俺、だからビビらない。

 まあ最初に会った時はちょっとビビったけど。


「これまでドラゴンゾンビとゴースト系モンスターをTSしてきたから大丈夫。このマドリーもドラゴンだけどTS出来たしね」


 言いながらマドリーを見ると心ここにあらずといった顔。

 腕を挟まれた俺のDカップにすっかり心を奪われたみたい。

 それにしても胸から溢れるこの感覚は何? これが母性ってやつ? 


「ふむ、そうか……ふーむ……」


 ノエルが長いモジャアゴ髭を撫でつつ何やら思案顔になった。

 ん? 何かピンときたんだけど。

 っていうか今こそこれを言うべきだ。


「ノエルってさ、本当はTSしたいんでしょ?」

「何じゃと!」


 わーおっ、鋭い目がくわっと開いてすげえ睨まれたよ、怖い!


「よく聞くが良い!――あだっ!? あだだだだっ!」


 勢いよく立ち上がろうとしたノエルが腰に手を当て悶絶する。


「あだだ……うむう、どっこいしょ」


 わおっ、立ち上がった。

 そして腰に手を当てながら二人の黒スーツのところへ行くと、鼻先の前で指をパチーンと鳴らした。


「幻影魔法は大丈夫じゃの。ふぅ、いやいや、歳を取ると疑い深くなってのう」


 自分の魔法疑ってんだけど、王国史上最高の天才って設定なんだけど。


「それではさっきの続きじゃ」


 どっこいしょと椅子に座り直す。


「儂もTS魔法と似たようなモノを作ったことがあるのじゃ」

「えっ? ちょっ、噓でしょ!?」

「似たようなモノと言ったであろう。儂が作ったのはTSというより変化じゃ、一度触れた相手に姿を変えることが出来る魔法じゃ」


 ちょっと待って、そんな魔法このゲームに存在しないんだけど。


「じゃが30年かけて作ったその魔法は失敗作でのう、王都庁舎のネズミを何匹も変化させたが大きなショックを与えると元に戻るのじゃ」


 大きなショックを与えると元に戻る?

 ノエルと初めて会った時、TS魔法で女体化された囮の人に即死魔法かけるフリして驚かせたら男の姿に戻ったよね。

 それと関係あんのかな?


「まったくポンコツの上、自分の魔力で作ったせいか儂には効果無しじゃ」


 30年かけてダメなら相当くるよね。

 でも何かほっとした、俺以外TS魔法を使える奴がいたらゲームシステムが完全崩壊してたよ。

 とはいえ――


「何でそんな魔法作ろうとしたの?」

「ふっ」


 鼻で笑われたよ。


「求めるもの無くば作るべし、という格言は知っておろう?」


 いや知らないけど。

 つまりあれでしょ、メチャクチャTSしたかった、そういう訳でしょ。

 だったら最初からそう言えばいいのに、結構メンド臭いヤツだな、ノエルって。

 でもまあいいや、最初はビックリしたけど実はTS願望の塊だったんだな。

 よし、やっとシナリオ通りの流れになったよ、わーおっ。


「じゃあこのTSガンで女体化してみない?」


 おお、願ってもないこと! と満面の笑みで食いつくはず、そしてパーティーに加わる……ってあれ? 沈んだ顔になったよ。


「そうして欲しいのは山々じゃが……」

「えっ? 何で? 何かあるの?」

「うむ、実はのう……むっ」


 チラっと黒スーツを見る。

 そして二人の所へ行って二度目の指パッチン。

 本当に用心深い爺さんだ。


「これはな、そなたを信用しておるから、そう、信用しておるから言うのじゃ――あだっ!? あだだだだっ!」

「また腰? 何かの病気じゃないの?」

「そんな事より病気では無い、加齢によるただのぎっくり腰じゃ」


 加齢にしても多すぎでしょ。


「ではよく聞くがいい、儂は生まれた時女性じゃった」



【16話予告】

 ジジィが突然のカミングアウト!

 かくして目つきの鋭いジジィをTS女体化する計画が発動、的なお話。

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