第17話 製作者知識で解決してやろう
もともとTSを容認しない魔法王国でしたが、突如こんな強権を発動したのでTSに賛同的な国々に動揺が走りました。
とはいえモブ王の目的はTS思想弾圧ではありません。
ノエルとアリアさんに対する遠回しなお仕置きをしたかったのです。
兄には“弟とはいえ自分は王なのだぞ”という力を見せつける。
妻には“自分以外の男に近づけばこんな大事になるのだぞ”という警告を見せつける。
つまりモブ王的にとって一石二鳥のお仕置きだったのです。
『何よそれ~、そんな個人的な理由で国を巻き込んだの~?』
「おバカさんを通り越しておバカ様なり!」
ノエルもそんなバカ過ぎる弟の器を嘆きながらも己の迂闊さも痛感しました。
ところが事態は三人だけの問題では無くなっていくのです。
『え? それってどういう事よ~』
「どういう事なり?」
まずはノエルの部屋に置いてあった変化魔法を封じたティアラ、それがいつの間にか消えていました。
世界を股に掛ける怪盗団が王都庁舎の美術品を狙って侵入した際、盗んでいったようでした。
それから時を置かず、モブ王のお達しに怒ったTS信者がTS自由軍を結成しました。
そして怪盗団から入手したのでしょう、変幻魔法を封じたティアラを使い自分らを取り締まる役人を次々とTSしてゆく事件が起きたのです。
モブ王はTS自由軍のリーダーを捕える役目をあえてノエルに任命しました。
当然兄に対する“嫌味マシマシ陰湿マシ情けヌキ”のお仕置き。
更には捕らえた者の処置をいちいちアリアさんに確認する。
これも妻に対する“モブ王風お仕置き、陰険仕立て”。
ノエルにとってこのお仕置きが最も堪えました。
モブ王が下すTS思想者の処罰にアリアさんは頷くしかありません、何故なら首を横に振れば彼女はモブ王のお達しに逆らったとして実家の公国へ蹴り返されるからです、そして公国は末永く諸国から物笑いの種にされてしまうのです。
何よりTS支持のアリアさんがそんな処罰に頷くしかない心境を思うと、ノエルは胸が張り裂けそうになりました。
『ふんぬ~! 腐れ外道よ! モブ王は心底腐れ外道よ~!』
「そうなりそうなり! それがしの漫画を奪ったノエルの弟らしく外道さんなり!」
こんな酷い状況を終わらせるにはTS自由軍のリーダーを捕え、変化魔法を封じたティアラを回収するしかありません。
そんな訳でノエルはTSしてる場合ではないのでした。 <続く>
『成る程ね~、そういう訳だったんだ~』
「ノエルの話なんかより百倍わかり易かったなり」
「ふむ、翼といったかの、手短にした儂の話をそのように物語化するとは中々やるのう。それにそなたが想像で語った部分もほとんど合っておる、大したもんじゃわい」
ガキの頃から即興で作った物語を碧に聞かせてたからこの程度はお手の物、とはいえ憶測で話した所が合ってるのは我ながら凄い――いや、でもちょっと都合良過ぎない?
「そ、それよりリーダーは捕まえられそうなの?」
「それがまるでダメでのう、これまで捕えた自由軍のメンバーを尋問するも、リーダーの記憶だけがすっぽり抜けておるのじゃ。恐らくリーダーは自分の正体がバレぬよう捕まった途端記憶が消える魔術をメンバーにかけておるのじゃろう」
何かエリドラもそれと似たようなこと言ってたな、確か記憶を読める魔術だっけか、でもこっちは記憶を消す魔術だもんな――って待てよ、部下の記憶を消して自分の正体を隠す? それって……。
「もうひとつ聞くけど、TS自由軍から何か要求は来てるの?」
「それが一切来ておらぬ。儂もそこが腑に落ちぬところでのう、相手の狙いが読めんのじゃ」
やっぱりだ、なら間違いない。
『ねえねえ翼』
碧が手の先をチョイチョイ動かしている。
ノエルに聞かれたくない話かと思い、耳をそろりと近づけた。
『面倒臭いからノエル撃っちゃいなさいよ~、そしてアリアさんと一緒にここをおさらばしましょうよ~』
思った以上に聞かれたくない話だった。
「そうなりそうなり」
いつの間にか側に居たマドリーも小声で参入。
「それがしの漫画を奪ったノエルに時間かけるの勿体ないなり、碧殿の意見に賛成なり」
普段は果てしなく優しいのにノエルだと辛辣だね。
「時間かけたくないのはわかるけど、俺はそんな強引な方法で仲間にしたくないよ」
きっぱり言うとふたりの顔がちょっと曇った。
「そんなことより、話し合いは終わったかの」
何がそんなことよりなのかわからないけど、目の前の内緒話にも余裕顔、さすが無駄に歳を取ってない。
「どうせ不甲斐ない儂の悪口を言っておったのじゃろう」
前言撤回。
「TS自由軍とノエルが開発したTS魔法、このふたつを何とかすればいいだよね?」
まずは抱えてる問題を何とかしよう、そうしなきゃ仲間に誘えない。
「ほう、この儂が手を焼いているこの問題をそなたが解決するというのか」
「解決出来たら俺たちの仲間になってくれる?」
ノエルの鋭い目に力が戻ったよ。
「儂を仲間に、じゃと。何故じゃ?」
「そんな事より、理由は後で話すよ」
見たか、ノエルお得意の「そんな事より」を使い返してやったぞ。
「そんな事より、うむ、わかった」
無理矢理そんな事よりねじ込んできた。
意外と幼稚なんだな、ノエルって。
とはいえ問題解決したら仲間になる約束したぞ。
「そんなことより、条件がある」
勘弁して、もう「そんなことより」真似しないから。
「明後日じゃ」
『え?』
「むほ?」
「そんなことより、明日中に解決すること、それが条件じゃ」
これにマドリーが噛み付いた。
「明日中にとか無茶苦茶なり!……あっ、わかったなり! お主最初から仲間になる気ないなりね!」
「そんなことより、そなたのTS百合漫画に不満があるのじゃが」
「むほっ! ど、どんな不満なり? って話を変える気なりね! 卑怯なり! やっぱりお主大嫌いなり! むにゅにゅー!」
やばっ、マドリーが激おこモード寸前。
すかさず小さな腕を掴むと俺のDカップの谷間に押し付けた。
「むほっ!? むほほぉ……」
空気が抜けたみたいに大人しくなったところでノエルに目を戻す。
「いいよ、その条件で」
『ええ~!?』
驚く碧とは対照的にノエルは眉ひとつ動かさない。
まるで予想通りと言わんばかり、これも伊達に歳を取ってないということか。
「もう一度確認するけど、解決したら仲間になるんだよね」
「うむ約束しよう。ただ儂にも立場というものがある、仲間になる期間は一週間以内という条件になるがの」
そっか、この国最高の天才にして世界に3人しかいない大賢者だもんな。
姿を消すにも限度があるって事か。
まあこちらとしても構わない、どうせ2日以内に魔王を倒さなきゃいけないんだ。
「いいよ」
『ちょ、ちょっと翼~』
碧が手の先をチョイチョイ動かし、またも内緒話のお誘い。
「何?」
『あんな条件にオッケー出して大丈夫~?』
「楽勝だよ」
『ちょっと~、アンタこのイベント作った記憶ないんでしょ~? どうやってリーダー探し出すのよ~」
「探す必要ないよ」
『は?』
「他のイベントと被ってるんだよ、この設定」
『被ってる?』
「この世界にスパロー帝国ってあるんだけど、そこのイベントと設定まる被りなんだ」
『ふ~ん……つまり~、別イベントの設定が~、ほとんど手を付けてないこのイベントに使われてるってコト~?』
「多分ね」
『あたしたちをここへ送り込んだヤツの仕業かしら~』
「だろうね」
『そっか~……』
手を顎にやって考え事始めたんだけど、これって名探偵アオイ第二話の始まり? どんなに推理したって俺達送り込んだヤツの正体わかるはずないんだけど。
『ん~……ところでさ、翼~』
「何?」
『その~……ちょっと楽しくない?』
「はぁ?」
『自分の作ったゲームって何でも知ってるじゃない、そこによくわからないイベントあるって、その~……楽しくない?』
名探偵アオイ第二話終了、ってどんな推理してるのかと思ったら、そんな訳わかんないこと言ってくるとは。
「俺のゲームが訳わかんないヤツに変えられてんだぞ、楽しいどころかスゲエ腹立ってんだけど」
『そ、そうなんだ、あたしは結構楽しいけどな~』
マジ訳わかんない。
まあいいや、スパロー帝国と同じイベントならサクっとクリアしよ。
ちょっと――いや、かなり気になる点はあるけど。
【18話予告】
モブ王とアリアの寝室に忍びよる翼たちの耳に響く激しい声。
18話から18禁になった? 的なお話。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます