第25話 「傾界の百合」編集長

「むほ? それがしの漫画とノエルの小説の勝負なり?」

「そんな事より、良いのか? 儂の小説の圧勝で終わるぞ」

「むひゅー! それがしの漫画が圧勝するなりー!」

「何じゃと!」


 そんな二人の腕を引いて受付に行くと、こんな事を言われた。


「飛び込み勝負ですか、ならあそこにいる主催者に参加する本を見せてください」


 受付の指差す方を見るとスーツ姿の女性が立っていた。

 なるほど、変な本を参加させ無い為のチェックか、ってどっかで見た顔。

 そう思いつつビシッとスーツが決まった主催者の所へ行くと、マドリーの漫画とノエルの小説を渡した。


「オホッ……あらまァ……」


 何かすげえ速さで読んでんだけど。


「どちらも……」


 パタンと本を閉じると妙に色っぽい目でこちらを見た。


「スペシャルに良い出来ですわァ」


 何この口調、既視感凄いんだけど。


「むほほーい」

「そんな事より、フォホホ」

 

 マドリーとノエルはといえば、主催者の言葉に顔がほころんでいた。


「ですけどォ、飛び込み参加は無理ですわァ」


 その言葉にほころんだ二人の顔が硬直。


『え~? 良い出来言ったのにどうしてですか~?』

「オホホホォ、それはわたくしにスペスペスペシャルな考えがあるからですのォ」


 この口調絶対あいつだよね。

 でも何でこんなトコでこんなコトしてんだろ。


『ど、どんな考え何ですか~?』

「合作、でしょ」

『ちょっ翼~、何口挟んでるのよ~』

「あらまァ、わたくしと同じ考えなんてェ、あなた気に入りましたわァ」


 俺の手を握りながら何か渡してきたんだけど。

 って、名刺?


「傾界の百合編集部……編集長 エンゲボルグ・サバス……さん」


 やっぱ傾界の魔女の名前だよ、ってマドリーとノエルがすげえ勢いで名刺に顔を近づけてんだけど。


「むほぉ! 本当に傾界の百合の編集長さん!!」

「そんな事より、そんな事より、あの傾界の百合の編集長じゃと!」

 

 名刺持った手に二人の鼻息すげえ当たってるよ。

 それにしても、百年前この世界を戦乱の渦に巻き込もうとしてスパロー帝国に討伐され、その恨みを晴らそうとこの帝国で復活、っていう設定なのに何で百合雑誌の編集長やってんだろ。


「あらまァ、わたくしの雑誌をご存知でしたのねェ。なら話は早いですわァ、お二人が手を取り合って合作ゥ、決まりですわねェ」

「お、お言葉ですが編集長殿、それがしノエルなんかと合作は無理なり」

「そんな事より! 儂だってマドリーと合作など到底出来んわい」


 わーおっ、編集長が提案蹴られて口の端ピクついてんだけど。

 と言う訳で俺の出番。


「マドリー、ノエル、ちょっといい?」


 二人がこっちを見た所で息を吸い込む。


「ますはマドリーだけど、プロ級に絵が上手くてキャラデザも激萌えなのは間違いないけど、話が平坦で結構ダメな気がする」

「む、むほぉっ!?」

「そしてノエルだけど、話は良いと思うしキャラ設定もガチ魅力的だけど、文章が説明っぽくて硬い気がするんだ」

「そ、そんな事より!? そんな事よりー!!」

「だからさ、一度手を組んでみない? 俺、二人が本気で合作した本読んでみたい」


 マドリーとノエルがチラっと視線をぶつけた。


「そんな事より、儂は合作全然構わんぞ。まっぴらゴメンなりー、という顔のおチビさんと違っての」

「むほぉ! 何勝手な事言ってるなりー! それがし合作やる気満々なりー!」

「オホッ、合作ゥ決定ですわねェ! それではこれからァ、わたくしの編集部にご招待致しますわァ」


 それにマドリーとノエルがチラっと視線を交わした。


「嬉しいけど、それがしやる事があるなり」

「そんな事より、儂もやる事があっての」


 二人を作った俺なので言いたい事はすぐわかった。


「そ、その“やる事”とは、そのォ……お早く済む事なのかしらァ?」

「魔王を倒すなり」

「オホッ?」

「そんな事より! そなたがしっかり儂をサポート出来るか、それが問題なのじゃ、それが出来るなら魔王なぞ今すぐにでも倒せるわい!」

「むほぉ! 何言ってるなり、お主がそれがしをサポートするなり!」


 また始まった。

 でもやっと二人が手を組む姿が見えて来たよ。


「あのォ……」


 編集長が話しかけてきたんだけど。


「魔王を倒す、とはァ、あの魔王の事ですのォ?」

「え? まあその、色々あって……そ、そういえばサバスさん、傾界の魔女って知ってますか?」

「オホォ? わたくしの雑誌名に似てますけど、魔女、ですかァ……」

 

 やっぱ俺の作った設キャラと違う設定になってる。

 これも送り込んだ奴の仕業――いや、碧の仕業――って、アレ?

 サバスさんのネクタイピン、例のあれだよ、串に刺した沢山の団子を斜め前から見たようなヤツだよ。


「あの、そのネクタイピンどこで買ったんですか?」

「これ、ですかァ? あらそういえばこれェ」


 ん? 


「この意味は魔王を倒せばわかる」


 え? 何これ。


「わ、わたくし今何か言ったかしらァ?」


 その後、魔王を倒したらすぐ編集部に行く約束をしてサバスさんと別れた。



【26話予告】

 いよいよ魔王討伐、的なお話。

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