第26話 TSを憎む魔王との対決

 魔王城近くという事で戦うモンスターは高レベル揃い、その分経験値もがっぽりでマドリーのレベルは13から33になった。

 直接攻撃力と物理防御力の数値は魔王を上回るカンスト999。

 そして魔法防御の数値だが、やはりというかピクリとも上がらなかった。

 でもそこはノエルがカバーするのでまったく問題なし。

 つまり準備は整った。

 あとは森の向こうに見える魔王城に突入するだけ。


 複雑な城内も制作者特権で知っている秘密の通路を使えばあっという間に魔王の前、という訳でその気になれば1時間もあれば魔王を倒せるよ。


 俺と碧をこの世界に送り込んだヤツのミッション『魔王を倒さないとTSガンは破壊される』のタイムリミットは明日。

 余裕じゃん、楽勝なんだけど。


「むほー疲れたなり、お腹ペコペコなり」

「そんな事より、儂もじゃ」


 すっかり息の合ったコンビプレイでモンスターを倒せるようになったマドリーとノエルの為に、ちょっと早いけど晩御飯にしよう。


「そんな事より、何じゃこのリリーナの顔は! そこは頬を染めて恥じらう笑みじゃ!」

「む、むほぉ、わかったなり……ところで、それがしも言いたい事あるなり」

「なんじゃ」

「隠れてリリーナとアメリを見てるカチュアが飛び出してこないのはおかしいなり、カチュアの性格なら絶対飛び出すなり」

「そ、それはじゃな……あれじゃ」


 碧の料理をあっと言う間に平らげた二人が、合作のラフに遠慮無い意見をぶつけ合う。

 傍目には言い争ってるように見えるけど、俺には二人共どこか嬉しそうなのがわかる。

 こういう風に仲良くなるのって何かいいな。

 ってさっきからあくび止まんない、満腹で焚火に当たってると壮絶に眠くなるよ。 


「――やだもう、マドリーちゃんもノエルさんも褒め過ぎよ~」


 やべっ、寝てたんだけど。


「でもあのおにぎりっていうのは本当にすっぱかったなり」

「あの時は梅干し入れ過ぎてゴメンね~」

「うむう、そのウメボシというのはそんなにすっぱいのか。健康そうな食材じゃのう」


 何だ、碧の料理の話か。


「そうよ~、血液にもいいし、脂肪も付きにくくなるのよ~」

「本当に碧殿は健康の事を考えてるなりね」

「昔から翼に料理作ってたからね~」

「うむう、それ程に翼を好いておるのか、若人の恋は良いのうファッハッハ」

「ち、違うわよ~! 翼の家ってお父さん居ないからお母さん働いてるのよ~、だから隣に住んでるあたしが代わりにやってあげたの~! ほらあたしすぐお節介焼くタイプだから~」


 お節介っていうかウザいんだけど。

 ……………って何、この間?


「むほぉ、何で翼殿のお父さん居ないなり?」

「その様な事を聞くとはさすがドラゴン、ぶ厚い鱗と同じく面の皮も厚いようじゃの」

「む、むほ!? それがし悪い事聞いたなりか?」

「やれやれ、それじゃからキャラの心情を理解しない絵を描くのじゃ」

「むほー! 何でその話になるなりー!」

「ちょっと止めてよ二人共、翼のお父さんが居ないのはね……」


 感じるっ、俺が寝てるか確認してる碧の視線を感じるよ。


「……翼のお父さん、ADHDだったのよ~」

「むほ? えーでぃー……むほ?」

「あ、ゴメン~、男の意識なのに女の体で生まれたってコトよ~」

「うむう、それが原因で別れたという訳じゃな」

「小学2年の時で、ガッコ行く時の翼の顔、今も忘れられないわ~」


 前の晩、父さんに泣いて謝る母さんの声を廊下で聞いちゃったからね。

 父さんは何も知らないで結婚したし、母さんは結婚して子供を産めばADHDを克服出来ると思っていいた。

 どっちも悪くないよ、悪いのは――


「多分今でも自分が悪いって思ってるんじゃないかな、翼……」


 そうだよ、俺がいなければもっと簡単に離婚出来たんだ。


「それからが大変で、どうしても話って漏れるじゃない~。ガッコで翼のお母さんは女が好きって噂が流れて~、それから登校拒否っぽくなっちゃったのよ~」

「ぐすっ、えぐっ、翼殿かわいそうなり……」

「うむう成る程、百合をバカにする者に対する怒りはそこから来ておったか」

「ちょっと~、これ話したの翼には内緒よ~」

「わかったえるなり、それより翼殿を立ち直らせた碧殿凄いなり」

「そんな事より、偉いのう」

「ちょっ、違うわよ~……うん、違うわ。アタシを立ち直らせたのも翼だもん」


 え?


「アタシの家って家庭内別居状態だったの、だからいつも翼の家に行ってたんだ~」


 そうだったの? ってそういえばあいつ、絶対自分の家に来させかったよね。


「いつも翼が話してくれるお話が楽しみで~、あれ無かったらアタシもおかしくなってたかも」


 マジか、あんまガッコ行かなくなった時、ネットでいっぱい本読んだからそれを百合系に変えて聞かせただけなんだけど。


「もう一回言うけど、絶対翼には内緒だからね~!」


 ばっちり聞いたんだけど。

 それにしても碧のヤツ、余計な事話してくれたよね。

 それに――俺の知らない、お前の事も。

 何だろ、この感覚。

 俺、あいつの事好きって事?


「むひゃ!?」

「うむう!」

 

 今度は何。


「どうしたの、二人と――きゃっ!」


 これは寝たふりしてる場合じゃない感じ! って、焚火の向こうに全身黒い鎧で覆われた騎士みたいの立ってるよ。

 ちょっ、あれ魔王じゃん?! 何で? 何でこんなトコ来てんの!


「それがTSガンか」


 魔王浮いた! って、赤マントぱたつかせてこっち来てんだけど。


「そしてお前が……」


 あ、マントに焚火が燃え移った。


「TS神、とやらに選ばれし者か」


 こっちの前に着地したのいいけどマントめっちゃ燃えてるよ。


「ん? がぁ!? うひぃぃっ!」


 火消そうとして魔王めっちゃ転がってんだけど。


「レ、レベル18魔法! 冷気クラッシュぁあ!」


 最初から魔法使って消せば良かったのに。


「ちょっ翼~、この人誰なの~?」

「そいつやばいなり! とんでもない気を感じるなりよ!」

「そんな事より、これ程の魔力を持っておるのはあやつしかおらん」

「クックック……その通り、我こそが魔王だ」


 鎧の隙間から煙出してフラついてるけど大丈夫? って、魔王城行く手間省けたんだけど。


「マドリー、ノエル、丁度いいからここで倒そうよ」

「そ、そうなりね」

「うむ、よかろう」


 魔王にTSビーム当てるとか考えた事なかったけど一応撃っとこ。

 効果ありならTS中のムズじわ感で暫く行動不能だから楽にボッコ出来るし。


「TSガン!」

「おっと」


 手からTSガンすっぽ抜けた!


「ザルゥスを倒したこいつは頂くぞ」


 魔王の広げた手の平にガンが飛んで行く、って事は念動力スキル? そんな設定作って無いんだけど。

 でもまあいいや、奪おうとしても無理、すぐこっちに戻って来るよ。

 って、魔王がTSガン掴んだ!?


「これが忌々しいTSガンか、クックック」

「ちょっ! キモい手で触らないでよ~!」


 TSガンが勢いよく一回転、顔を近づけた魔王の頬を引っ叩いた。


「クガッ!? い、活きが良いなTSガンの精霊……そんな貴様に最高の役目を与えようではないか」


 え? まさか。


「TS神に選ばれし者、とかいうあいつを撃つ役目だ」

「えっ!? な、何言ってるのよ、止めなさい~!」


 ちょっ、自分のTSガンに撃たれるとかまじ洒落にならないんだけど!


「止めて言ってんのよこんにゃろ~!」

「クックックッ、あいつをTSするのは他ならぬ精霊のお前だ」

「ちょっ、話しが違うわ~! 翼、逃げて! 逃げて~!」

「食らうがいい、TS神に選ばれし者よ」 


 ってホントに撃ったよ!

 絶対外れない赤と青のねじねじビーム向かってくるー!

 男にっ、男に戻るー! 

 いやそれよりビームが二度当たると記憶が全部消え――



【27話予告】

 ――ちゃいました。

 次回から「TSガン!! ~主人公から奪ったTSガンの精霊が魔王の俺を罵るので教育してやる事に決めました~」がスタート!

 ではなく! 記憶消去された翼を救うのはあの人、的なお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る