第27話 喪失した記憶

「……どの!」


 ん?


「……さどの!」


 何この声、めっちゃ可愛いんだけど。


「翼殿!」


 つばさどの? 何それ? ってこの枕、すげえふにゅふにゅして気持ちいいんだけど。


「むほっ!?」


 ほっぺスリスリしたらビクンてなった、ってこれ膝枕?

 やべっ、早く起きなきゃ。

 えっ、何この美少女。


「むほ! 翼殿が目を覚ましたなりー!」

「うぬう! そなたの番で目を覚ますとは面白くないのう」


 ひぃっ、何このメチャクチャ目付き怖い美人。


「つ、翼どの、それがしの事覚えてるなり?」

「そんな事より翼、儂の事は覚えておるであろう?」


 翼? それって、俺の名前?


「……うむう、やはり記憶が消えておるのう。どれ」


 記憶が消えてる? って目付き怖い美人が俺の頭に手のっけたんだけど。


「レアスキルと合わせたオンリースキル発動!」


 え、何?

 って、ふぎぃ?! の、脳がっ、ブクブク沸騰したみたいにっ、熱いーー!!


「むほー! 翼殿に何したなりー!」

「そんな事より、どうじゃ翼よ」


 熱さがぱっと消えた、ってマジ死ぬかと思った。マジ勘弁してよ――


「ノエル!」

「おっ? ファッハッハ」

「翼殿、記憶戻ったなり!?」

「うん、マドリー」

「む、むほー!」


 顔をくしゃくしゃにしたマドリーが抱き付いて来た。

 さらさらヘアの頭を撫でながら、どんな方法で記憶を戻したかノエルに聞いた。


「儂にしか使えないオンリースキルでじゃ」

「すげえ……って、あ! メロウのゾンビ軍団に使ったのもそのスキル?」

「そうじゃ」


 やった! これならいくらTSガンに撃たれても平気じゃん。


「そう都合良くはいかんぞ、このスキルの使用回数は2回まで、使い切ったら10年後まで待たねばならん」


 って使い切ったよね、10年経たないとそれ使えないって事だよね。

 それにしても何でこっちの考え読めんの?


「ファッハッハ、このオンリースキルの取得と同時に、相手の思考や記憶を読めるレアスキルも取得したのじゃ」


 マジ?! ってか思考も読める? あれ、これどっかで聞いたような……あっ、エリドラTだ! 確か「記憶を読める魔術を使う人間がいる」とか言ってた様な。


「その人間は儂じゃ、それでエリドラTの秘密を握り、マドリーの原稿を渡す様言ったのじゃ」


 エリドラT、恥ずかしいからその部分抜かして説明したな。


「む、むほ!? 急に一人で喋り始めてとうとうボケたと思ったら、とんでもない事言い出したなりー!」


 やべっ、マドリーが今にもブレス吐きそうな顔してる。


「頼むから落ち着いて」


 そう言って事情を説明する。


「し、思考と記憶を見れるなり?! それってまさか、それがしのも見たなり?」


 何でアセアセしながらこっち見てんの。


「儂は滅多な事で記憶は覗かん、そなたの記憶を覗いた所でただ漫画を描いてるだけじゃろ。そんな事より……」


 え? 何でこっちに頭下げてんの?


「地下室の取り調べで、そなたの記憶を一度だけ見てしまった。すまぬのう」

「えっ、て事は……」

「ま、そういう事じゃ」


 チラっとマドリーを見てからこちらに微笑むノエル。

 って事は俺が自分の作ったこのゲーム世界――いや、この世界に飛ばされて来たの

をとっくに知ってたのか。


「そ、それにしても俺、奪われたTSガンで撃たれたはずなんだけど」


 その後の出来事を二人が交互に説明してくれた。

 二度目のTSビームで男に戻った俺は記憶を失い倒れた。

 魔王が次の標的とばかりにマドリーとノエルにTSビームを撃つが、ノエルのオンリースキル“オール特殊攻撃ノーサンキュー”で無効化。

 捨て台詞を吐いた魔王がその場から魔法で転移する直前、碧がTSガンで俺を撃ったという。


「翼殿の事を思って撃ったなりよ……ぐすっ!」

「あんなにTSをキモい言っておったのに、何とも健気じゃの……ふぐぅ!」


 ちょっ、二人に泣かれたら俺、堪えきれなくなっちゃうんだけど。


「ぐすん……こんな事してる場合じゃないなり、早く魔王倒して碧殿を助けるなりよ!」

「そんな事より、そうじゃな」


 二人の言葉を聞いた途端、心の中で不安定に揺れていた何かが落ちた。


「本当に……いいの?」

「むほ?」

「どういう事じゃ、翼」

「ここは俺の作った世界だと思ってた」


 もう一人の自分が口を閉じろと言うがもう止まらない。


「でも違った。マドリーはオタっぽい口調だし、魔法防御がマイナスお化けだし。ノエルもそうだ、名前と能力以外知らない設定が出来てるし……だから二人共俺の作ったキャラじゃないんだ。もう一緒に……行動しなくていいんだよ」


 マドリーとノエルが驚いた様な目でじーっとこっち見てるまあ当然こうなるよね。 

 でも言わずにはいられなかった。


「むほー、翼殿のその話、やっぱりよくわからないなり。でもそれがし、翼殿を百合仲間と思ってるし、大切なその……友達とも思ってるなりよ」

「ファハハ、そなたクサい事を言うのう」

「う、うるさいなり!」

「そんな事より、翼よ」


 ノエルがこっち向いた。


「儂はそなたが何者か知っておる、じゃがそんな事より」


 何か鼻先にビシっと指先向けられたんだけど。


「そなたは儂の望みを叶えてくれた、じゃからそなたの望みに手を貸さねばならん」

「そうなり! それがしの望みも翼殿は叶えてくれたなり、今度はそれがしが望みを叶えるお手伝いするなり!」

「望み……」


 TSガン、っていうか碧を取り戻して元の世界に帰るのが俺の望みだよな。

 いや違う、今は……ううん、ずっと前から持っていた俺の望みは――


「ふむ、碧と百合恋人になりたい、それが翼の望みか」

「ちょっ! だから心読まないでよノエル!」

「むっ、むほぉ!……そうなりよね、やっぱり碧殿なりよね……」


 マドリーが嬉しいのか悲しいのかわかんない顔で涙してるけど何で?


「そんな事より決まりじゃな、翼の望みを叶える為に魔王を倒しに行こうかの」

「そんな事より、そうなりね」

「だから儂の真似するでない!」


 例のごとく睨み合う二人を止めながら考える。

 この世界へどういう方法で送ったかは置いといて、このゲームを改変したのは碧と疑っていた。

 何故ならあいつ以外このゲームに触れたヤツはいない、もっといえばこのゲーム自体知ってるのは俺とあいつだけ。

 でも違った。

 それにあいつ、「話が違う」言ったよね、もしかして俺達をここへ送ったヤツと碧に接点があったとか――って、何あれ?

 木々の間からこっち見てるあの二人、ケモ耳だよね。

 キャラメイキングでこういうのあったけど俺作ったっけ? ってあの二人、男の俺と碧に似てんだけど。

 えっ、ニヤっと笑って消えた。

  

  □ □ □


 魔王城入口の横にある秘密の通路を使えばあっという間に魔王の間。

 やっぱ広くて天井高い、って魔王が玉座で片肘着きながら部下みたいな二人に何か話をしてんだけど。


「うわっ!? え? ちょっ」


 こっちに気付いた魔王がビックリ。


「なっ、貴様ら、どこから入って来た!」


 もしかしてこの通路知らないの? 


「打合せの最中だぞ! 勝手に入って来るとはどういう神経してる!」

「知らないよそんなの、っていうか碧を返して欲しいんだけど」

「そうなり! 返すなり!」

「二人共バカじゃのう、そう言って返すなら初めから奪う訳なかろうが」

「クックック、TSガンの無いお前はどうでもいいとして、直接攻撃最強のマドリーに攻撃魔法最強のノエルか、貴様らの事はいろいろ教えて貰ったぞ」


 教えて貰った? 誰に? って俺と碧をここに送り込んだヤツか、って事は魔王とそいつ繋がってんの? 


「そんな貴様らに合わせ、残る四天王の二人を“作り直して貰った”ぞ。クックック、クークックック!」



【28話予告】

 クク八十一。

 魔王がおねだりして作り直して貰った四天王二人が襲い掛かるゾ、的なお話。

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