第24話 TSで女体化したドラゴンと大賢者が勝負始めた
ラヴォワ魔法王国から少々離れた村のラーメン店。
そこのカウンターで俺達は豚骨ラーメンをすすっていた。
「むほほ、おろしニンニク入れると美味しいなり」
「そんな事より、高菜も中々じゃぞ」
和やかな雰囲気のマドリーとノエル。
やっと友情が芽生えた様に見えるがこれは戦い、そう大食い勝負。
何故そうなったのか。
レベル上げのバトルでも二人は全然仲良くならなかったからだ。
それどころか我先にと攻撃を仕掛け、魔法詠唱の必要が無いマジックアイテムで攻撃魔法食らったり、突発性ギックリ腰で半壊したモンスターパーティから反撃を食らったりして大ピンチの連続、お互いそれを罵り合う始末。
「そんな事より、勝負でケリを付けようではないか」
「むにゅにゅー! 望むところなり」
慌てた俺と碧が止めるよう言ったが睨み合う二人は完スルー。
それどころか勝負方法を決めるようこちらに頼んで来る始末。
断りたかった、でもこの状態じゃ魔王を倒す所ではない、なので引き受けることにした。
「なあ碧、どんな勝負にする?」
『まずアンタが先に考えてよ~、それで決着つかなかったらあたしが考えるから~』
という訳で俺が出した方法は大食い勝負。
ベタ過ぎるがこれなら平和的だし、最悪でも口からブローで済む。
そう思っていたのだが――
「替え玉くださいなり」
「こちらも替え玉じゃ」
この爆食ぶりは完全予想外。
カウンターの上に浮かぶ魔力で作られた二つの伝票にはそれぞれ≪替え玉×50≫とある。
『ちょっと翼~、食べ物を貪る大食い勝負とかあたし見てられない~! だからこの方法反対だったのに~!』
食に妙なこだわりを持つ碧がレッドカード寸前の目で俺を睨むが、この勝負を止める気は無かった。
何故ならここで止めたら二人は不仲のまま。
俺が期待してるのは勝負を終えた二人が互いの健闘を称えて友情が芽生える展開、だからこのまま見守るの。
とはいえ二人共よく食べるな、マジでわおって感じだよ。
でもマドリーについては驚かなかった、ロリの大食い設定はよくあるから。
仰天したのはノエル、いくら若返りTSしたからって元は爺さんでしょ、何でそんな爆食出来るの?
『ちょっと翼~、いい加減止めさせてよ~!』
碧の声に伝票を見ると≪替え玉×72≫になっていた。
これは二人揃って口から逆流になるのでは……って、普通の顔で同時に替え玉コールしてんだけど。
「サーセンお客さん、替え玉あと一つだけなんスよ」
どことなくチャラい店主の言葉に、二人の視線がぶつかり合う。
「それがしの方が早く替え玉言ったなり!」
「そんな事より、儂の方が先じゃ!」
『ほらほら翼~! 早く止めなさいよ~、早くこんな勝負中止しなさいよ~!』
ここは碧の言う通りにするしかない。
「カワイイお嬢さんに美人なお姉さん、どちらにもお出ししたいんスけどね、うひひ」
店主の下心全開な笑みにマドリーとノエルの顔が青ざめた。
「そ、それがし、もう食べる気無くなったなり……」
「そんな事より、儂も一気に食欲が……」
引き分けでいい、と二人に尋ねたらコクンと頷いた。
「あれ、いいんスか? ならそちらはどうッス? こんだけ食べてくれたからこの替え玉サービスしちゃーッスよ、あなたもソートー美人さんだし」
わーおっ! 今度は下心全開な笑み俺に向けてんだけど! 男の舐めるような視線っての肌で感じたよ!
「えっとその、もうお腹一杯で……あの、お会計お願いします」
結局大食い勝負は引き分けの上、いらない精神ダメージを食らうというオマケ付きとなった。
そんな訳で、次の勝負方法を碧に尋ねる。
『ふっふ~ん、聞いて驚きなさい翼~。あたしが考えた勝負はね~、ズバリ! マドリーちゃんとノエルさん、どっちがモテるで勝負よ~! ドンドンパフパフ~!』
何それ、「でしょう」と「勝負」をかけてんの? そのセンスにホント驚きだよ、わーおっ。
「むほ? モテるで勝負?」
「成る程のう、儂とマドリーどちらが百合女子にモテるか、という勝負じゃの」
それに碧の目がバカみたいに大きくなった。
『何でそんなキモい勝負になるのよ~! 二人共一応女でしょ~、だから男にモテるかどうかの勝負に決まってるでしょ~が! でしょ~が!』
こいつはラーメン屋での悪夢を見てなかったのか。
チャラいおっさん店主の舐めまわすような視線食らって大ダメージなんだけど。
とはいえ俺はこいつの反対を押し切って大食い勝負をさせた。
だからこの案に口を出す資格はない。
「そ、そうだね、その方法だよね」
視界の端には、肩を落とすマドリーとノエルの姿。
碧に反対言えなくてホントゴメン。
「で、どこでその勝負するの?」
『えっと~、そうね~……』
モテ勝負となれば選択してくれる人が複数必要。
となると数人だけなこの村で勝負は無理、かといって人口の多いラヴォワに戻るのも無理。
という訳で早くこの勝負方法諦めて、碧。
『ねえねえ翼~、スパロー帝国ってこの近く~?』
「え? うーん、近いと言えば近い……かな」
『そこに行きましょ~、帝国っていう位だから人多いんでしょ~』
「確かに多いよ、でもスパロー帝国ってワードよく憶えてたね」
『え? え~っと……アリアさんに化けてた四天王いたじゃない~、オホホ~って笑って胸がおっきいロリ~』
「メロウね」
『そいつと戦う前、あんた言ってたじゃない~』
確かに言ったよ、一回だけね。
それにしてもメロウの名前憶えてないクセにスパロー帝国は憶えてるとか、どんどん確信に近づいてんだけど。
「帝国っていう位だから人多いんでしょ~、そこなら出来るでしょ~が!」
「いや、確かに人多いけど、モテるで勝負とかそんなの出来る場所なんて」
――あったよ、そういえば。よしっ、さっそく帝国へGO!
□□□
「うむう、久々の帝国じゃがここは何という場所じゃ?」
「秋葉原……じゃなくアケハバラっていうんだ、通称アケバ」
「アケバとな、帝国にこんな奇妙な街があるとはのう」
中身は爺さんのノエルが戸惑うのも無理はない、ここはアキバをモデルにした場所。
「アケバはオタクの聖地で有名なりよ。お爺さんのノエルは知らなくて当然なり、むほほ」
「そんな事より! そなたもここへ来たのは初めてであろう、観光客顔負けにきょろきょろしておったではないか!」
「むほー! それがしはミーシャたんと一緒にアケバ行く約束してたから当然なり! そんな事よりアケバ知らない方が恥ずかしいなり!」
「うぬうマドリーよ、儂の口癖をマネするでないわ!」
また始まったんだけど。
『ねえねえ翼~』
「何?」
『アンタがこういうトコ作ったのって~、コスプレとかオタク全開したいからでしょ~?』
「……お前って妙に鋭い時あるよね」
『あ、当たり前でしょ~、幼馴染なんだから~』
「っていうかこの世界来てから妙に精度上がってない?」
『は、は~? それ褒めてるの~?』
何か目が泳いでんだけど。
「そんな事より、勝負する場はどこなのじゃ」
「そうなりよ翼殿」
「あ、ごめんごめん、勝負する所はね……えーっと、あそこ」
同人誌専門店やメイド喫茶が並ぶ中、一際大きな建物を指差す。
あれこそオタクな勝負イベントをやってるアケバ総合館。
飛び入り参加もオーケーなそこでオタクに突き刺さるポーズ勝負をやってるはず。
何でそんな場所を作ったかというと、TSした俺に喝采を浴びせたかったから。
という訳でマドリーとノエルを飛び入り参加させた。
「ここから飛び込み挑戦者の登場となります。はいマドリーさん、どうぞ!」
オタな方々で埋まった小さな会場に司会者の声が響く。
「むっ、むほっ!」
予想以上の数だったのだろう、舞台の端から出て来たマドリーがオタの視線にぎょっとなる。
「それではー、はいポーズ!」
司会者の音頭に「はいポーズゥ!」とオタの声が続く。
「むほっ、むほほー!」
緊張しまくりで目を渦巻きにしたマドリーが、両手でハートマークを作るという萌え萌えキュンなポーズを決めた。
「おおー!」
オタク達が大喜びな反応、ってマドリーの様子おかしいんだけど。
そいえばラーメン屋で下心全開な店主の笑みに具合悪くしてたもんな、この会場も男ばっかだからもしかして……。
「むほうぇ!」
嫌な予感が的中、マーライオンみたいに涎を流すマドリーに会場が静まり返る。
「さ、さて、お次! この方も飛び込み挑戦者ですね、はいノエルさん、どうぞ!」
「そんな事より、儂の出番じゃな」
さすが歳を重ねただけあってオタな方々の視線にも自信満々。
「これが儂の決めポーズじゃ!」
って何そのポーズ。
誘うようなエロい目、上唇を舐める舌、両手で持ち上げる爆乳。
何かお爺さんが若い頃ムラムラ来たポスターを再現しました、っぽいんだけど。
「ひょおー!」
えっ、反応良い! オタクにレトロブーム来てんの?
とはいえこの声援、勝負はノエルの勝ち――
「あだっ!? あだだだだっ!!」
お得意の腰痛来てんだけど、ジジ臭い悶絶に歓声消えてんだけど。
ほどなく発表された結果は二人揃って最下位。
『ねえねえ翼~、どうするのよ~』
「まさか二回続けて決着つかないとか、完全予想外」
『ココって~色んな勝負やってるし飛び込みオーケーなんでしょ~、何か適当に選べばいいんじゃない~?』
確かにそうだ、ってホント色んな勝負あるな……ん? TS百合同人誌勝負? ピッタリ過ぎでしょこの勝負、さっそく二人の本で勝負させよう!……あ、でも二人の本を印刷しなきゃ……って魔法での印刷もやってんの? しかも早くて安い! よし、これだ!
【25話予告】
早くて安いよしこれだ! じゃないよ、ラッキーフィールド屋さんのCMじゃないんだから。
物語も佳境、「むほー」とか「そんな事より」なんか言ってる場合じゃない、的なお話。
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