最終話 TS百合さいこう!

「は? 碧、何でお前が説明すんの?」

「ア、アタシ何も言ってないわ」


 いや今の声、絶対碧なんだけど。


「もういいわよ碧~、ゲームもクリアしたし、あたしが説明するわ~」


 また変な事言った、ってあれ? 今の声、碧の口じゃなくTSガンから聞こえた?


「よいしょっと~」


 わおっ、TSガンからもう一人の碧が飛び出して来たよ!


「はいツバサ、魔王役お疲れさま~。自分の正体も言わなかったし、よく出来ました~」

「アオイ! 早く我を男に戻すのだ!」


 俺達にそっくりなだけじゃなく名前まで同じ、一体どうなってんの。


「こらツバサ、何あたしに命令してるのよ~!」


 わおっ、この碧にそっくりなヤツ、凄く気が強そうなんだけど。


「お、お願いだから戻してくれないか? アオイ」


 そして俺のパチもんみたいなこいつ、さっきまですげえ威圧的だったのに急激にヘタレ化してんだけど。


「あっと、そっちの世界の翼、驚かせてゴメンね~」

「そ、そっちの世界?」

「あたし達~、並行世界の碧と翼なのよ~」

「へ? 並行世界? それって別次元にある同じ世界、だよね?」

「そ~そ~、あたしのいる地球は~、そっちと違って科学と魔法が発達した世界なのよ~。そして~」


 アオイの話はこうだった。

 幼馴染のツバサに宿題を教えながらアオイは自由研究をしていたという――って、俺と碧の逆関係じゃん。

 頭の悪いツバサと違い、成績優秀なアオイは別次元へ繋がる魔法という高度な研究に挑戦していた――あっちの俺ってバカなのか、まあ高校にもなって中二病してるもんな。

 優秀なので研究は成功、だが繋がった先は俺の作ってるゲームの中。ツバサと共に様子を探る内、ここはアオイの大好きなTS百合を題材にしたゲームの中と知った――って、そっちの世界のアオイがTS百合好き?

 更にはゲーム作成してる俺の声や、テストプレイしている碧の声がそこへ響いてくる。そのやり取りを聞いてる内にここは別次元の地球で、同じく別次元のツバサが作ってるゲームの中と知った――ってやべえ、一人で作ってる合間にえっちな本読んでたんだけど。

 しばらく二人のやり取りを眺めてたアオイはピンときた。

 こっちの碧も翼に気がある、と――ここでアオイに「お前ってツバサに気があんの?」と尋ねた、すると「そうよ~、っていうかもう付き合ってるわ。だってあたしが面倒見なきゃツバサの人生終わりだもん~」と返された。

 そういう訳で、魔法であの二人をゲームに引き込んでカップルにさせるわよ~! というアオイの計画が発動したのだ。


「って訳~」

「マジか……それにしても異世界があって、そこの俺と碧がちょっかい出してくるなんて……」

「なによ~、ちゃんと最初からヒント出してたでしょ~が」

 

 ウィンドウに例の並んだ団子を串刺しにしたロゴが浮かぶ。


「並行世界の地球が沢山あって、それが繋がってる、って意味のマークよ~」


 そんなヒントわかる訳ないんだけど。

 

「ねえねえ翼~」

「え、何?」

「実はあたし、アオイの事知ってたの~」

「え! いつから?」

「そ、その……ほら、モヒカンTSしたでしょ~、あの後アオイが話しかけてきて、その時から~……」


 それこの世界来て最初の方じゃん! 


「碧を怒らないであげて~、翼とカップルにしてあげるからあたしに協力して言ったからなのよ~。それよりこのゲーム楽しかったでしょ~?」

「まあ、結果的には……ところでエリドラTの夢の中で俺達向けのメッセージ残したよね、あれ何?」

「何って、その方が雰囲気出るからでしょ~」


 出てないよ、っていうか意味無かったような。


「マドリーのステータスいじったよね?」


 ポカンとこっちの話を聞いてるマドリーを指差す。


「うんうん、あれだと簡単にゲーム終わっちゃうでしょ~」


 まあそうだけど、雑過ぎない?


「骨組み状態だった魔法王国を作ったのも、ノエルを仲間にさせる為?」


 こっちに聞き耳を立てつつ無い顎ヒゲを手で撫でるノエルを指差した。


「うんうん、魔法王国はあたしの世界と同じにしたの、楽しかったでしょ~」


 別に楽しくはなかったけど、アオイの住んでる世界がああいうトコなのはわかったよ。


「ボスキャラ配置も変えたよね」

「うんうん、傾界の魔女とメロウちゃんを交換させたわ~」

「何で? それと喋り方も交換させたよね?」

「そこ~! そこ聞いて欲しかった~! あたし設定見た瞬間メロウちゃんお気に入りになったのよ~! でも口調は傾界の魔女の方が絶対合うと思ったから変えたの。置き場所変えたのは~、早くあたしのメロウちゃんを見せたかったからよ~」


 いや一応俺のメロウなんだけど、って改変したのそんな理由?


「ねえねえ、碧とカップルになったし~、何よりあたしが手を加えたこのゲーム、楽しんでくれた~?」

「うん、結果的に楽しめたよ。でもそっちの世界の碧がTS百合好きなんてビックリだよ」

「あたしも~! そっちの世界のツバサがTS百合好きで、しかもこんなゲームまで作ってるなんて~、あたし達何か気が合いそ~!」


 わおっ、手を握って来たよ。


「むほっ!」

「うむう?」


 マドリーとノエルが怖い顔でこっち見てんだけど。


「ちょっ、アオイ~!」

「冗談よ~、碧~」


 こっちの碧とは全然違うタイプ、そしてあっちの世界の俺はといえば……。

 俯いて自信無さげにチラチラこっち見てるだけ。


「あのさ、何でツバサを魔王にしたの?」

「え、何で? そうね~、あたしの大好きなTS百合を嫌ってるから~。だからこの機会にTS体験させてあたしの大好きに近づけさせようかな~、ってトコかな~。」

「アオイー、いつまでこのカッコなんだよ、もう男に戻してくれてもいいだろー」

「ダメよ~! せっかく女になったんだから暫くそのままでいなさい、もう一度そんな事言ったら宿題手伝ってあげないからね~!」


 これ――俺だ。

 勉強を教える代わりに碧の嫌いなTS百合のゲームをやらせていた俺だよ。


「あの……碧」

「何~?」

「その、ごめん」

「は~?……て、あっ! 魔王倒したからTS百合の国作る気でしょ!? 謝っても嫌よアタシ、早く元の世界に帰りたいんだから~!」


 違うよ、でも碧がそう言うなら


「うん、そうだな、元の世界に……戻ろう」

「むほぉ!? 翼殿、どこか行っちゃうなり?」

「落ち着くのじゃ、マドリーよ」

「お、落ち着けないなり、それよりノエルだって膝ガクガクしてるなり」

「あ~、も~! マドリーちゃんとノエルさん置いてすぐ帰れる訳ないじゃない」

「えっ、じゃあ……」

「帰るのはもうちょっと先にしましょ~、それにその……TS百合の国作るの~、あたしも手伝うから……」

「むほぉ! 碧殿がTS百合に興味持ったなりー!」

「碧よ、よくぞ開眼したのう」

「ち、違うわよ~! TS百合はもうキモく無くなった、ただそれだけよ~!」


 思わず仰け反った、まさか碧の口からそんなセリフが出るなんて。


「だって……」


 え、何でそんな顔でこっち見んの。


「TSで女になっても~、翼は翼だもんね」


 やべっ、碧ってこんなにカワイかったっけ?


「ふっふ~ん、碧もあたしに感化されたのかな~? ますますあんた達をここに連れて来て良かったわ~」


 しかしこのアオイはホント自信に満ち溢れ過ぎだよね。

 って、アレ聞くの忘れてたよ。


「ねえアオイ」

「何~?」

「TSガン奪われた後、男だった俺とお前そっくりのケモ耳見たけどアレ何?」

「ケモ耳のあたしとあんた~?」

「ニヤってしながら消えたじゃん」

「え? え~? 知らないわよそんなの~! って、ちょっと待って~」


 急にウィンドウオープンしたんだけど。


「スパロー帝国で異常事態? ……って、えっ? え~!」

「どうしたの?」

「スパロー帝国で“ケモ耳同盟”っていうの出来て、とんでもないスピードで勢力伸ばしてる~! 何これ~、こんなのあたし設定に加えて無いわ~!」


 ウィンドウが赤く点滅したんだけど。


「今度は何~!?」


 画面に傾界の魔女のサバスさん映ったよ。


「誰か助けてくださいましィ、わたくしの編集部がケモ耳同盟に乗っ取られましたわァ」


 って、パソコン打ってるサバスさんの後ろに例のケモ耳の碧と俺が立ってる。


「これこれ、さっき言ったのはこいつらの事だよ」

「碧殿と男になった時の翼殿に似てるなり」

「そんな事より、まさにケモ耳の翼と碧じゃの」


 まさかこの2人も別な並行世界から来た俺と碧? でもこの慌てぶりからアオイがやった訳じゃ無さそうだし。


「貴様、珍しく何かやらかしたようだなクックック」

「ツバサは黙ってなさいよ~~!! って、あっ……」


 え、何?


「……そういえば繋がる魔法、色んな並行世界に飛ばしてた~」

「そなた、魔法を解除せずこちらに来おったのか」

「それってヤバイの?」

「魔法はその当人から発しておる、じゃから解除しない限り魔法の効果もこの世界に持ち込まれるのじゃ」

「じゃあケモ耳がこっちに現れたのもそのせい?」

「むほぉ、よくわからないけど、ケモ耳の目的は何なり」

「ふっふ~ん、それはね~」


 わっ、ウインドウにケモ耳二人のドアップ顔!


「あたし達の大好きなケモ耳だけの世界にするのが目的よ~!」


 このケモ耳碧、こっちのアオイ以上に気が強そうな顔してるよ、わーおっ。


「お前らが色々やってる隙に俺達の野望が大きく前進したんだけど、わおっわおっ、わーおっ!」


 わーお、は乱発するとバカみたいに見えるよ、もう一人の俺。


「あの、ちょっといい? このゲーム作った翼だけど」

「話すのを許すわ~、どっかの世界の翼~」


 何このケモ耳碧、偉そうですげえ腹立つんだけど。


「俺達TS百合の国作るんだけど、そっちはそっちでケモ耳の世界とかやってくれない? お互い不干渉ってヤツ」

「ダメね~」

「え? 何で?」

「あたし達の世界だと、ケモ耳で生まれるとフタナリなの。だから百合とかTSとか半端なの許せないのよ~! 共存なんてお断りでしょ~が!」


 フタナリ!? 


「ケモ耳は魔法力が凄いから、こうしてTSガンをフタナリガンに改造したんだけど、わおっわおっ、わーお!」


 ええ!? どうやってTSガン手に入れたの! ってもしかして。


「あっ! ああっ!? 予備でアイテムコピーしてたTSガン無くなってる~!」


 やっぱゲームデータいじってたアオイか。


「そんな訳で~、あたし達どんどん仲間増やしてその内あんた達もフタナリにするからね~、じゃあバイバイ~」


 ウィンドウ消えたよ。


「こ、こんなの許せない~! あいつらのトコに殴り込みよ、碧~!」

「うん、行きましょ、アオイ~!」


 同じ顔で拳握ってやる気満々なんだけど。


「むほ、それがしも行くなりー!」

「そんな事より儂のオンリースキル、Sランク特殊攻撃ノーサンキューの出番じゃな」


 マドリーとノエルもやる気満々だよ。


「クックック、貴様も行くのか」

「いや行くしかないんだけど、っていうかツバサはどうすんの?」

「クックック、我はもう魔王の能力を外されたからな、足手まといになる位ならここに居る方が……って何をする!」

「いいから一緒に行こう、俺が協力するからアオイを見返してやろうよ」


 今度は俺がこいつとアオイの上下関係を無くす番だよ。


「みんな乗るなり」


 ドラゴンになったマドリーが乗りやすいカッコしてる。


「碧、今度も頼むよ」

「ふっふ~ん任せてよ~、TSガンGO~! って言うんだから~!」

「TSガン、は俺言う所なんだけど」


   □□□

 

 アオイがいろんな並行世界に飛ばした魔法のせいで次々とやってくる並行世界の俺と碧。

 それにメチャクチャに苦労したけどやっと落ち着いた。

 こうして完成したTS百合RPG、実はもうネットでアップしてるよ。

 相当難しいと思うけど、見つけたらクリックしてみて。

 アオイの魔法が掛けてあるからゲーム世界に飛んで行けるよ。

 そして興味あるなら俺達が作ったTS百合の国に来て。

 入るには合言葉が必要だけどわかるよね、そう――

 

 TS百合さいこう!



 【おしまい】

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TSガン!! ~自分の作ったゲームの中に飛ばされたらTSガンがあったので、TS百合パーティを作る事にしました~ こーらるしー @puru

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