第8話 TS女体化しても下着のつけ方わかんない

 村近くの丘に着地したマドリーが俺を地面に下ろすと人型に戻った。


『ちょっとマドリーちゃん、そのカッコで行く気~?』


 確かにロリ裸体のままはヤバい。


「しまったなり、ここへ来る時の服を忘れたなり」

「あのバタバタした状況ではしょうがないよ。はい、取り合えずこれ貸すよ」

「むほっ?」


 宝箱でゲットした魔陣マント(魔法防御+10)を脱いでマドリーに着せた。


「ありがとうなり」


 信じがたい程可愛い笑みにクラっとなる、これが親バカというものか。


『ちょっと~! 裸よりはましだけど~、やっぱりちゃんとした服を着せるべきよ~』

「わかってるって、この村の道具屋で調達するよ」


 という訳でタルバル村の中へ入った。

 追いかけっこするお子様、果物てんこ盛りのザルを頭に載せて歩くおっさん、往来の人に声を掛ける屋台の商人。

 異世界ファンタジーにありがちな風景。

 そこへNPCの村人が話しかけて来た。


「どこから来たんだい?」


 日本からだよ。

 そう言いかけてやめた。

 ゲームにない単語を出してバグられたらやばい、ここは素通りしよう。


『こら~、翼~!』


 お母さんみたいな碧の声が飛んできた。

 ちゃんと答えなさいー、と言いたいのだろう。

 確かに言われてみればそうだ、傲慢な創造主は俺も嫌い。


「東大陸から来たのよ、この辺りは強い邪気に満ち溢れているけど……何か……あったの?」


 ゲーム通りの返事をしたが、途中から恥ずかしくて尻すぼみの声になった。


「安全な東大陸から来たのか、ならすぐ帰った方がいい。魔王の軍勢がそこまで来ているんだ。もうすぐこの村も……ああ、恐ろしや恐ろしや」


 何か古臭過ぎるセリフ。

 俺こんな恥ずかしいの書いてたの?

 元の世界に帰ったらすぐ直さなきゃ。


「ねえねえ~、今の翼が書いたんでしょ~? ああ恐ろしや恐ろしや~、うける~! ああ恐ろしや恐ろしや~、ぷぷ~」


 ケトルなんか目じゃない速さで怒りが沸騰。

 いや、落ち着け、怒ったらこいつの勝ちだよ、わーおっ。


「翼殿」

「えっ、何? マドリー」

「道具屋に着いたなりよ」


 目の前に道具屋という鉄文字の看板が下げられたレンガ積みの建物があった。

 微妙にツンとした臭いに顔を上げると、年季の入った四角い煙突から青っぽい煙が昇っていた。

 ポーションを扱ってるからそれを作ってる最中なんだろうか。

 しかしポーションの作り方など知らない俺が作ったゲームの中でそれが作られているとは、何だか不思議な気分だ。


「じゃあ入ろうか」


 取っ手を押すと扉に吊るされた鈴が鳴った。


「いらっしゃい」


 店主のおっさんがスマイルで迎えた。


「旅の方ですね、どんなご用で?」

「服を買いたいんだけど」

「はい、それではあちらになります」


 向けられた手の先にある衣服コーナー、それに碧が驚いた。


『こんな山奥なのに品揃え凄くない~?』

「ふふふ、マドリーを連れて初めて来る村はここ。なので服のラインナップは豊富にしてあるのだ」

『普通にキモいけどまあいいわ~、ところで……』


 何その余裕満々な目。


『女服のコーデなんか詳しくないでしょ~が、あたしが見繕ってあげよっか~?』

「お断りなんだけど!」

『な、何よ急に~?』

「男が美少女になったらやりたい事があるの!」

『は~?』

「うーん、これもイイし、こっちもカワイイ、どうしよっかなー、と服を体に当てながら鏡の前で悩む、それがやりたいの! わかる?」

『全然わからない、っていうかキモ~』

「それがしもわかるなり!」


 わお、マドリーの援護射撃。

 さすがTS仲間!


「可愛い服の他にこっそりスク水買っちゃうのも」

「わかるなり! そしてブルマー買っちゃうのも」

「ありあり! ホント、マドリーとは会ったばかりと思えないよ」

「それがしもなり! 生れた時から知ってるみたいなり」


 っていうかマドリー作ったの俺だから大当たりなんだけど。


「マドリー!」

「翼殿!」


 息の合ったハイタッチをした。

 碧がモキモキ連発してるがどうでもいい。


「じゃあ一緒に可愛い服を選ぼうよ」

「そうなりね、むほっ! どきどきするなり」


 マドリーと手を繋いで衣服売り場へ向かった。


        □□□

 

 両手に服や下着を抱えて試着室に入る。

 中は四畳半ほどの広さで誰も居なかった。

 ふたつある鏡の前で転移前から来ていたパーカーとジャージズボン、そしてトランクスを脱いだ。

 こうして鏡で全身を拝むのは初めてだが、う~む、やっぱり俺の女体化ボディは惚れ惚れする美しさだ。

 このDカップの胸、最初は想像以上の違和感で慣れるのに大変だったが、こうして見るとすっげえセクシー。

 ち、乳首は触ってなかったな、どれ――うぉう! 男の時とやっぱ違うー! やばいやばい! これ以上はひとりになった時のお楽しみにしておこう。 

 今度はくびれ、両手でラインをなぞると男の体ではありえない綺麗な湾曲、これはやばい。

 お尻、これまた男とはまるで違う未感触のふわふわ感、これもひとりになった時のお楽しみにしておこう。

 最後はアソコ!  


『つ、翼~っ!』

「え?」

『アンタさっきから何やってるのよ~~!』


 碧が両手で真っ赤な顔を隠していた。

 やばい、自分の身体に夢中ですっかり忘れてたー!


「ふんすー! ふんすー!」


 なにこの鼻息?

 そう思いながら隣に目やると、マドリーが欲情した顔で自分の微乳を揉んでいた。


「ちょっ、何やってんの?」

「ふんすー!……むほっ? こ、これはその、思わずそれがしのちっぱいにムラムラきたなりというか」

「気持ちはわかるけどさ、それは後のお楽しみに取っておいて、下着や服を試着しようよ」

「そ、そうなりね」


 まずはパンツを履いてみることにした。


『うわっ翼~、何でその柄選んだのよ~』

「美少女のパンツといえば青と白のストライプに決まっている」

『そんなの初耳だけど~』


 鏡を前にパンツを履いた。

 んっ? 何だこれ、すげえ履き心地良い。

 脚を交互に持ち上げてみた。

 生地が肌触り良いし、フィット感も凄く良い。

 タイトなイメージがあったから意外だ。


「翼殿、おパンツ似合ってるなり」


 隣のマドリーを見ると、ふりふり付きの桃色パンツを履いていた。


「マドリーも似合ってて可愛いよ」

「むほほ、おパンツ履くとますます女性になった実感わくなり」

「だよねー、じゃあ次はこれ!」


 床ある水色のブラジャーを手に取った。


「それがしはこれなり」


 ロリで微乳なマドリーは黒いスポーツブラ、さすが俺の作ったキャラだけあっていい選択だ。


「むほっ! むほ! 困ったなり」


 スポーツブラを首から被ったマドリーが腕を通そうと四苦八苦している。

 それを手伝おうとしたがブラのゴムがきつくてなかなか通らない。


『あ~、もう見てられない~! あたしが教えるわ~』


 小物置きに載せといたTSガンからご教授の声。


「お願いするなり、碧殿」

『マドリーちゃ~ん、まずはブラを左右に広げて床に置いて~』

「こうなり?」

『うんいいわよ~、その上に立って足を通して持ち上げて~』

「はいなり」

『そして片っぽずつ腕を通せば出来上がり~』

「すごいなり、碧殿!」

『えっへ~ん、中学まで使ってたからね~』

「へえー、お前中学までスポーツブラだったのか」


 碧が目をひん剥いてこっち見た。


『何よ~、文句あるの~!』

「いや別に、っていうか何怒ってんの」

『怒ってないわよ~!』


 それで怒ってないなら全人類怒ってないことになるけど。

 まあいいや、俺もブラ着けてみよ!

 むぅ、これがブラ。

 もっとふにゃふにゃしてるかと思ったが結構しっかりしてるな。

 どれ、まずは片方ずつ腕をブラに通して……両手を後ろに曲げてホックを留める……ん? 何か難しいんだけど。

 って、腕曲げるのきっつ!


「翼殿、手伝うなり?」

「頼むよマドリー」


 ふう、自分で着けられないのは悔しいが初めてだしな。

 って、碧が口隠してニヤついてる!


「むほ? みっつ留めるところがあるなりよ?」

「え? じゃあ真ん中にして」

「はいなり」


 んぐっ!? 入りきらなかったおっぱいがブラに食い込むぅ!


「ちょっとストップ!」

「は、はいなり」


 そうか、ホック留める前におっぱいをブラのカップにしっかり収めないとダメなんだ。

 どれ、かたっぽ入れて、もうひとつも入れて……んん? サイズあってるブラなのに上手く収まらないな。

 まあいいや。


「オッケー、マドリー」

「はいなり」


 んぐっ、結構な圧迫感!


「留めたなりよ」

「ありがと」


 そう言って鏡を見る。

 何かブラから胸がはみ出てカッコ悪い。

 装着後はみ出た部分を詰め込む作業が必要なのか。

 どれどれ……ん、んん? むにむにして中々入らない! 


『着け方が間違ってるから当然よ~』


 腕を組んだ碧が冷めた目でこっちを見ていた。


「そ、そうなの?」

『そうなのっ! マドリーちゃ~ん、ブラのホック外して~』

「は、はいなり!」

『いい~? まずは軽く前屈みになって~』


 ブラを持ったまま言われた通りの姿勢を取る。


『胸を下から収めるように~ブラのカップを当てて~』

「こう?」

『うん、そのまま両手で押さえながら体上げて~」


 背筋を伸ばした。


『はいマドリーち~ゃん、ホック留めて~』

「はいなり!」


 お、さっきと違って上手く収まった感じ。


『肩紐掛けて~』

「ほい」

『そうしたら最後の仕上げ~、どっちかの肩紐掴んで~』

「じゃあこっち」

『もう片っぽの手を体の脇にやって~、収まらなかった肉をぐぐ~っとカップに収める~』

「こ、こう?」

『上手いじゃない~、もう片っぽも同じようにやってハイお終い~』


 言われるままカップに押し込んで鏡を見る。


「おお、すっげー!」


 ブラにきっちり収まった胸に見とれちゃう。


「最高だよ、さんきゅ碧」


 いろんなセクシーポーズを取ってみる。


『どういたしまして~、っていうか時間制限あるんだから早く服決めてよ~』

「そうだった! どれ試着試着」


 メイド服、アイドル服、可愛い制服、チア服、ブルマー、スク水を試してみた。


『そんな服あるとかアンタのゲームらしいわ~』

「ふふふ、こういうのもあるぞ」


 ボディラインを強調する青のラインが入った全身黒タイツを見せた。


『何よそれ~、いかがわしいわね~、まさかソレ着て冒険するつもり~?』

「うん」

『魔王の前でもソレ~?』

「うん」

『防御力いくつなのよソレ~?』

「マドリーが魔王倒すからそういうのはいいんだよ」


 呆れ顔の碧を無視しながらラバースーツを装着、鏡を見た。


「おおっ、予想以上にカッコいい! そしてセクシー!」

『や、やっぱりいかがわしいわ~! 何か羽織りなさいよ~』

「それじゃこのセクシーな体が隠れて勿体ないだろ」

『この世界へ来る前は人いない道ばっか選んでガッコ行ってたのに~、随分な変わりようね~』

「これがTSの力だよ、ちょっとは理解した?」

『ますます理解出来なくなったわ~』


 とはいえ確かに何か羽織った方がいいかな。

 それも魔王の前でバッと脱ぎ捨てたらカッコイイやつ。

 おっ、これいいんじゃない?


『あ、ポンチョ~?』

「どう? 全身タイツにポンチョの組み合わせ、よくない?」

『何でそんな地味なの選ぶのよ~、もっと可愛いのにすればいいのに~』

「このガンマン的なポンチョがセクシー全身タイツに合うんだよ」

『果てしなくキモ~』


 そこへマドリーの弾んだ声。


「見てなり! それがしはこの服に決めたなり!」

「おっ、半袖体操着に膝上の黒レギンス! わかってるねー!」

「むほほ、ありがとなり」

『ちょっとマドリーちゃ~ん、しっぽでレギンス履けてないじゃない~』

「この店でしっぽが出るよう加工してもらおう」

「うんなり」


 こうして満足のいく格好になった俺達は道具屋を後にした。


「じゃあミーシャちゃんのトコに行こう」

「はいなり!」 


【9話予告】

 ロリ百合なミーシャ登場、そして小汚い魔王軍四天王登場、的な話。

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