第22話 TS百合最高! と叫んで消える

 翌日、アリアさんが用意した王都庁舎の一室で朝食を取っているとノエルがやって来た。


「おはよう」『おはよ~』「おはようなり」


 三人同時に挨拶するが、マドリーの声は若干冷ややかだった。


「おはようじゃ、そんな事より」


 何かよろめいてんだけど。


「儂を……儂を今すぐ仲間にしてくれんかのう、翼とやら。もう期限などの条件は付けん、どこまでも一緒の……仲間にしてくれんかのう」


 ズーンと沈んだ顔、タカみたいな鋭い目に光は無い。

 何となくわかったけど一応訳を尋ねてみた。


「一縷の望みをかけてのう、アリア殿にTSの事をどう思っているか尋ねてみたのじゃ」


 するとこんな答えが返ってきたという。


「うーん……私には到底受け入れがたいもの、としか言いようがないですね。えっ、何故、ですか? そうですね、やっぱりわたしが男性に苦痛を与えるのが好きな女性だからです。たった今、中身が女性のTS男性に苦痛を与える想像をしましたけど、まったく興奮出来ませんでした。ところでノエル様、何故そのような事をお聞きに?」


 残酷過ぎる答えに追撃の刃、ノエルは膝が崩れ落ちそうになるのを必死に堪えながらお茶を濁すと、足を引きずる様ここへ来たという。 


「わ、儂の初恋が……終わった……終わ、終わ、おわたのじゃ」


 ショックで最後の言葉がネットスラングになってんだけど。


『ノエルさん、初恋は大体叶わないものなのよ~。早くあたし達の仲間になってジャーっと忘れましょうよ~! ね、翼~』


 またこいつは失恋直後の相手にザックリ言って。

 それに事は簡単じゃないんだけど。


「ノエルってこの国では英雄呼ばれてるなりよね? 勝手に消えて戻ってこなかったらみんな困ると思うなり」


 言いながらジロっとノエルを見るマドリー、漫画奪った恨みはやはり根深いみたい。


「そう、そこなんだよ。ノエルは何か考えある?」

「そんな事より、無いのう」

「無意味にそんな事より付けるの止めるなり!」

「そんな事より、儂に突っかかってくるのを止めて欲しいのう。マドリーとやら」

「何なりー!」


 二人の間に割って入り、ノエルの部屋で作戦を練る事にした。


「え? この国って闘技場あるの?」

『それって剣でキンキンやったり、鎖ついた鉄の球ブンブン回して、や~! とかする野蛮な場所でしょ~』

「それは数百年前の闘技場じゃ、今は選挙などの候補者が魔法能力を国民の前で見せつけるという場になっておる。他には重い罪を犯した者を魔法で処罰したりもするのう」


 これにピーンと来たので、どんな魔法で処罰するかしつこく尋ねた。


「他には、と言われも……うむう? そういえば儂しか使えん魔法で処罰した事があったのう」


 どういう魔法か聞いて更に大きくピーンと来た。

 よし、計画が完成したぞ。


『へ~、いいアイデアじゃない~』

「凄いなり翼殿! それでいこうなり!」

「この計画でいいよね、ノエル」

「うむ」


 みんなもこの計画に賛成、後は実行するのみだ。

 とはいえアリアさんとモブ王にだけは本当の事を話さなければならない。


「そういう訳じゃ、儂はこの国を去り二度と戻っては来ぬ」

「寂しくなります、ノエル様」

「どうかお達者で、兄上」

「アリア様、出来ましたのら」

「ありがとう、メロウちゃん」

「うん? それはもしかして……」

「そうですモブリアーノ様、10倍酸っぱくしたお酢ドリンクです!」

「じゅっ、じゅうばいー? そ、そんなに酸っぱいと私の絶頂が10倍になってしまいましゅー!」

「うふふ、10倍絶頂した情けないお顔を是非お見せください、モブリアーノ様」

「は、はいー! アリアしゃまー!」


 ノエルが居なくてこの調子でやって行くのだろう、まあオッケー取れたからいいや。

 ――という訳で、計画を実行する時が来た。

 そう、TS自由軍のリーダーと自白した俺をノエルが国民の前で公開処刑、抵抗する俺達を魔法で異次元に追放しようとするがノエルもそれに巻き込まれてしまう――と思い込ませる計画。

 その計画は大詰めに入っていた。


「レベル92魔法、異世界ワンウェイチケット」


 闘技場の上に現れた、いかにもヤバそうな渦巻きが俺達を吸い込もうとする。


「TSという性を弄ぶ不届き者よ、この世界から永久に消え去るがいい」


 ノエルの名演に客席大興奮。

 ってかガチで吸い込まれそうなんだけど!


「うっ? むう!? ふぐう……!」


 ノエルがドラマでよく見る胸を押さえて苦しむ演技始めたー。


「わ、儂とした事がっ、ぬああ!」


 演技かガチかわかんないけど、よろめいた拍子にこっちに飛ばされて来た!

 って観客の絶叫スゲエ。


「ノエル! 早く何とかして、ガチで吸い込まれそうなんだけど!」

「そんな事より、早く吸い込まれるのじゃ!」

「はあ!? 何言って――」

『きゃ~! ノエルさん~!』


 謎の大の字ポーズでノエルが渦巻きに吸い込まれた。


「早く来るのじゃ!」


 吸い込まれた本人がそう言ってるなら行くしかない。


「行こう、マドリー」

「う、うんなりー!」


 マドリーが動きを止めた瞬間バカみたいな勢いで渦巻きに吸い込まれた。

 すっげえ吸引力、アリンコが掃除機に吸い込まれるってこんな感じなのか――痛っ! どっかに着地した。

 目を開けるとそこは野原、遠くには魔法王国の巨大な城壁が見える。


「異世界へ放逐する魔法に転移魔法を組み合わせた、つまり二重魔法じゃ」


 ノエルが渋い笑みを浮かべる。


「そんな事より、最後の仕上げをするかの」


 頭上に浮かぶ、俺達を転移させた渦巻きに顔を向けたノエルがビックリするような大声で叫び出した。


「国の者達よ! 儂は別世界に追放するこの渦に飲み込まれた、もう二度とそちらに戻る事は出来ん!」


 観衆の悲鳴みたいな声が渦巻きから響いて来る。


「よいか、国王を、儂の弟を信じ支えるのじゃぞ!」


 それに“わかりました”的叫びが響いて来る。


「うぬう、別世界が見えてきおった。最後にこの言葉をそなたらに送ろう……」


 ここで何故か間を置く。


「実は儂、TS百合大好きじゃったんじゃ! ファッハッハッハ、TS百合最高ー!」


 そう叫んだノエルが右手を払うと渦巻きがパッと消えた。


『ねえねえ翼~、ノエルさんあんたが作った入国ワードと同じ事言ったわよ~』


 ケラケラ笑う碧。

 それにつられて笑いそうになった時、あのセリフが急に頭をよぎった。


『うわ~、メロウって本当にのらのらって喋るのね~』


 魔王軍四天王のメロウが本来の口調になった時、碧が口にしたセリフ。

 メロウが姿を現すイベントに辿り着くにはパーティーレベルが30は必要。 

 でも碧はこのゲームを序盤しかプレイしてない。

 当然メロウを知るはず無いし、俺もメロウの事を何一つ言ってない。

 何で知ってるんだ? まるでメロウの資料をどっかで見たような――いやいや、ありえないんだけど。

 だってメロウの口調は俺の頭の中で決めたから、ノートの資料には一切出てこない。

 そうなると碧が知る方法はゲームデータを覗くしか無いんだけど……ってゲーム自体ほとんど興味ない碧が? 俺のパソコンいじって?

 そういえば骨組みしか作ってない魔法王国イベントも何故か完成していたよな。

 まさかそれも碧が作ったとか? 

 いやいやいや、ありえないんだけど。

 でもそれ以外説明出来ないんだよな。


「ちょっと碧」

『え、何~?』

「お前、俺作ったこのゲームのデータいじったろ?」


 ケラケラ笑う顔が固まったんだけど。


『え? 何て言ったの~?』

「このゲームのデータいじったかって聞いてるの」

『え? 今何て言ったの~?』


 何度も聞き返すこの癖、嘘ついてるって事だよわーおっ。


「どうやって俺のゲーム内容いじったの? 全然そういうの詳しく無いのに!」

『あたしそんな事してないわよ~』


 うっ、今度は眉間に皺寄せ口先尖らせた。

 これは本当の事を言った時の癖。

 もう訳わかんない。

 でも碧が何か隠してるのは間違いない感じ。

 今はこれ以上追及するのはやめとこ。



【23話予告】

 なんと碧は翼が生み出したもう一人の人格だった! 

 だとサイコものになるよね。

 次回から新展開、なお話。 

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