第20話 ゾンビ軍団をTSしてみた

「落ち着け、碧!」

『コンニャロ~に何か食らわせないと気が済まない~!』

「ダメだって! 巻き添えでTSビームがアリアさんに当たるかもしれない!」

『え~!? 何でよ翼~!!』


 そう言われてもアリアさんがメロウの帽子やマントに変えられてたら当たる可能性は否定できない。

 アリアさんはノエルの運命の人、男体化させたらそれで終わり。


『ふんっぬ~……あっ、そうだ! アリアさんに当たってTSしても、またビーム当てれば元に戻るんじゃない~?』

「だから前にも言ったでしょ、TSビームを二回当てると記憶無くすんだよ」

『えっ、そ、そうだっけ~!?』


 だから慎重になってんだけど。


「オホッ、オホホホッ! アリアをこうしたのは老いぼれの魔法対策でしたのにィ、TS対策にもなるなんてェ、んもォわたくしってば有能過ぎィ!」

「そんな事より、調子に乗るでない! メロウとやら!」

「あらまァ、言った側から忘れたの老いぼれェ。わたくしにファイアァ! とかアイスゥ! な魔法攻撃をしたら、愛しのアリアが巻き添え食っちゃいますのよォ?」

「うぬう……」

「ノエル、幻影魔法!」


 取り調べの時、黒スーツにかけたそれ使えばいいじゃん。


「とっくにやっておる」


 わーおっ、四天王相手にそれは効かないか。


「ではァ、正体もバレちゃったしィ、ノエルも結構苦しめたと思うからァ、もう消してもよろしいですわよねェ。ではァ、わたくしのスペスペスペシャルな能力で始末してくれますわァ」

『ちょっと翼~、どうするのよ~!』

「だから落ち着けって碧、メロウはネクロマンサーなんだよ」

『ねくろ……何それ~?』


 漫画にもいっぱい出てるのに知らないとか。


「死体を操る魔術師だよ」

『それって~、ゾンビ使いってこと?』


 そう、だから意味がない。

 俺の作ったイベントではメロウと戦う場所は墓地。

 ネクロマンサーだから当然といえば当然、適材適所というヤツ。

 でも俺と碧をこの世界に送り込んだヤツは伝説のラッパー主人公を将棋物語の主人公を伝説のラッパーにするような失敗を犯した。

 こんな主人公、フのない将棋、負け将棋、フざけんな、フて寝しちゃう、とかアホなラップ披露して予選一回戦負け。

 つまり設定を活かしてない。

 こんな死体ひとつ無い王都庁舎の中でロリっ娘ネクロマンサーとバトルとか、これなら俺の往復ビンタで勝てるんだけど。


「ピェトゥ・セェェムトゥリィ」


 え? 何か呪文っぽいの言った。


「さあ下僕どもォ、わたくしの下へ参りなさいィ!」


 ちょっと待って、まさかネクロマンシーしたの? 死体無いのに?……って、何か廊下の方から沢山の足音。

 しかもこの音、ゲームや映画で聞いた事あるんだけど。


「ねえノエル、ひとつ訊いていい?」

「何じゃ」

「ここって死体とか無いよね?」

「この階に王の一族が眠る墓所がある」


 わおーっ! 何でそんなのあるのー! ってドア開いたー!


『きゃ~~! 翼~! ゾ、ゾンビ! ゾンビよ~! しかもいっぱいいる~!』

「むほ、どうしたなり?」


 腕を俺の胸の谷間に挟まれポーっとしてたマドリーが現実に戻った。


「む、むひゃー!? 何なり、怖いなりー!」

『マドリーちゃん、取りあえずブレス、ブレスして~!』


 いやそれダメでしょ、部屋が火の海になるんだけど。


「オホッ、オホホッ! あらまァいいのォ、そんな事してェ?」

『アンタがあんなの呼んだからそうするんでしょ~が!』

「オホッ、そのゾンビの中にはァ、ノエルのパパやママは勿論、グランパやグランマもおりますのよォ! それなのにィ、そんな事してよろしいですのォ? と言ってますのよォ、オホホホホォ!」


 やっぱこいつ卑怯過ぎ! っていうかこのメロウ……。


「ドラゴンのおチビさん、まさかァ、まさかまさかブレスする気じゃありませんわよねェ? そんなスペスペスペシャルに酷過ぎる事をォォ、まさかねェ!」

「むほー、翼殿碧殿、それがしどうすれば?」

「そんな事より、ブレスをすればよいではないか、マドリーとやら」


 えっ、何言ってんの! ゾンビとはいえ自分の両親とご先祖だよ!?


「ほれ、ゾンビがそこまで来ておるぞ。早くブレスをするのじゃ、マドリーとやら」

「むにゅにゅー! お主に命令されたくないなり!」


 何やってんのー! ってゾンビが危険領域まで来たー! こうなったら効果あるか不明だけどTSガン撃つしかないー!


「TSマルチプル! ほら碧」

『え? ご、GO~』


 放たれたTSビームが枝分かれしてゾンビ軍団に命中!

 ザルゥスみたいにゴースト系モンスターが中に入ってる訳じゃないから効き目ないかもだけど。

 ……おっ、軍団の動きが止まったよ、わーおっ。

 ぼろドレスを着たゾンビのぼさぼさ長髪が収納されるみたいに短くなって、体つきがゴツくなった。

 王様の服を着たゾンビは髪の毛がにゅるにゅる伸びて胸が膨らんだ。

 って、それに気づいた様子無く向かってくんだけどー!


「ゾンビをTSした所で意味無い様ですわねェ、オホッ、オホホッ!」


 神経が死んでるからTSする時の全身のツボを押された様な感覚も無いのかー。

 って神経どころか脳ミソも腐ってるよね、ならTSした自分の姿に驚くはずもないよ、こりゃヤバいんだけど!


「ふむ、死体すらTSするとは、実に驚きじゃのう」


 何でアゴ髭撫でて余裕なの?


「脳が腐ってるからTSした自分に驚かないよ!」

「うむう? そういう事じゃな、なら儂に任せるが良い」

「へ?」 

「レアスキルと合わせたオンリースキル発動!」


 手の平からオーロラみたいな光り! 

 それがビームみたいに飛んでゾンビ軍団包んだー!

 わおっ、軍団ピタっと動かなくなったよ。


「キィィ! 下僕共ォ、何立ち止まっておりますのォ!」


 一人お怒りのメロウを他所に、ゾンビ軍団が自分の体見て大慌てしてんだけど。


「キィィ! TSごときで狼狽えてんじゃねェですわァ! 早くあの連中をズタボロに――」

「もう無駄じゃメロウとやら、そしてそなたの負けじゃ」

「こ、この老いぼれェ、何をなさったのですゥ!」

「そんな事より、脳の組織を回復させて自分がTSしてる事に気付かせただけじゃ」


 そんな器用なスキルあったっけ? ってゾンビ軍団が四つん這いになったりヘナヘナ座り込んだりしてるー。


「脳の組織を回復させたですってェ? そ、そんな事をした所でゾンビはゾンビよォ! わたくしの命令を聞かなくなるはずありませんわァ!」


 そう言われても、そうなったんだからしょうがない。


「そんな事より、父上母上、そして一族よ! ノエル・フォン・ラヴォワの名において命令する、今すぐ棺に戻るのじゃ」


 脳の組織を回復させたとはいえ命令聞くかな。


「早くした方が良いぞ。産まれてすぐ性転換させられた恨み、忘れてはおらん。火炎魔法で灰にしたいのを必死に堪えておる所じゃ」


 それにゾンビ軍団が慌てて部屋から出て行った。

 忘れてたけどノエルって親の仕業で強制TSさせられたんだよな。

 さっきマドリーにブレスしていいと言ったのも本気だったのか。


「そんな事より、アリア殿を渡して貰おうかの」

「オホッ……オホホォ……お断りしますわァ」


 切り札だし、傾界の魔女の性格ならそう言うよね。

 しかしメロウのヤツ、アリアさんを自分の身に着けてる何かに変化させたっていうけど、どれ?

 帽子? マント? やっぱりジャラジャラいっぱい付いてる骸骨アクセサリーのひとつ? 切り札だもんな、そう簡単にわかるはずが……ん? そういえばノエルが変化が解ける条件を言ってたよな、なんだっけ?


「アリアしゃまー、激甘コーヒーをどうかお恵みくだしゃいー」

「モブリアァノォォッ! 空気読んで声かけなさいなこの道具ゥ! 勝手に飲んでやがれですわァ! この道具モブリアーノォ! それとスペスペスペシャルコーヒー言いなさい道具ゥ!」

「ははー! スペスペコーヒー頂きますー!」


 モブ王が激甘コーヒーをがぶ飲み。


「あまひぃー! この甘しゃ、た、た、堪りましぇーん! んがっ!」


 モブ王が絶頂して卒倒、ってコレだ!

 変化魔法を解く方法が思いついたんだけど!


「隙ありじゃ! レベル51魔法、装備強制グッバイ」

「オホォォ! この老いぼれェ、不意打ちの貧弱魔法でわたくしとアリアを切り離そうとしてもそうはいきませんわァ! 食らいなさいィ! Sランク特殊攻撃、メモリー忘却ゥ」

「そんな事より、レベル70スキル、Sランク特殊攻撃ノーサンキュー」


 ノエルとメロウがバトルっぽいの始めた。

 その隙にスタタっとミニテーブルに駆け寄り、スペスペコーヒーがたっぷり入ったガラス瓶に砂糖をザザーっと投入、そしてマドラーでかき混ぜ超絶甘々コーヒー完成っと。


「メロウ」


 肩で息をしているメロウの背中に声を掛ける。


「な、何ですのォ?!」


 振り向いたメロウの頭に超絶甘々コーヒーをかけた。



【21話予告】

 激甘コーヒーを顔射したりぶっかけたりな展開ばっか。

 子供の頃は甘々コーヒー大好きだったけど、今はブラックよ。

 次回メロウと決着、なお話。

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