第7話 ともかくTS決定

「むほぉ! 他の一族が攻めてきたなりー!」

『ど、どうするのよ翼~!』


 どうするもこうするもラッキーなんだけど。


「ど、どうすればいいなり」

「ここは俺に任せてよ」


 口から濁流の様に涎を流すマドリーの肩を叩いた。


「翼殿……」

「ところであそこにいるドラゴン全部男性?」

「むほ? た、戦いに女性は連れて来ないからそうなり」

「他の一族全部来てる?」

「そ、そうなりね……族長が揃ってるから多分そうなり」


 なら問題無し。


「おいおい、こいつらへばってるがどうしたんだ?」

「知るか、それより見ろよ、こいつらマジで女になってやがる」

「あの三人の野郎共、やたら息巻いて話してたが本当だったとはな」


 三人の野郎共? それってエリドラを見捨てた男体化ドラゴンの事か。

 他の部族を利用して仕返しとか、相当恨んでたんだろうな。 


「こいつら笑えるな、女など惨めな姿になりおって」

「そこまで言うな、子を産む道具は貴重だ、部族ごとに分けようではないか」

 

 あっ、こいつらも俺のすげえ嫌いなタイプだよ。


「ん? 何で人間がこんな所にいるんだ?」

『ひょっへ!! 翼~、こっちに気付いたわよ~!』

「おい、そこいるのマドリーじゃないか?」

「ほほぉ、人間なんかに姿を変えてるぞ」

「こいつも女になってるようだ、なら恐れるに足らん、コテンパンにして子を産ませる道具にしてやろう」


 はい、TS決定。


「ドラゴンのみなさーん、ようこそTSの世界へ!」

「何だこのゴミは――」

「TSガン、マルチプル! ほら、碧」

『え? ご、GO~』


 お前らこれを食らっても笑える惨めな女性って言えるかな。


「な! 何だこれは!? ぐわっ!」


 ビーム全弾命中、TSへの通過儀式であるムズジワ感に巨体を転がすドラゴン達。


「むほー……さっきの翼殿、とっても怖かったなり」

「え? いや、その……俺って女を見下すヤツ見ると、すげえ腹立って頭の中が真っ白になっちゃうんだ」

「むほっ、それがしと同じなりね。ところで翼殿」


 体から虹色の光りを放って絶賛TS中のドラゴン達に目を向けるマドリー。


「みんな女体化するなり?」

「うん、要は戦闘バカで征服欲が強いドラゴン族の男を全部TSしてしまえばいいんだよ。そうすれば子作り不可、戦闘する気も征服欲も激減してめでたしめでたし」

「むほぉ、ド、ドラゴン族がみんな女性に……」

「うん、悪いけどこれが一番いい方法だと思うんだ」

「全然悪くないなり!」

「え?」

「ドラゴン族をみんな女性化なんて! むほっ、むほほ、何か凄く興奮するなり!」

「あーそれ何となくわかる」

『ねえねえ翼~』

「何?」

『ドラゴン全部女性にして大丈夫なの~? 子孫残せなくて絶滅するんじゃないの』

「いいんだよ、ここは俺の作った世界だから」

「むほ? 翼殿が作った世界?」


 やばっ!


「いや、その……あっ! そういえばマドリー、TSで美少女になった姿を見せたい相手いないの?」

「むほっ! いるなり! いるなり!」

「へえ、誰なの?」


 誰なのか知ってるけど、こう尋ねないと。


「タルバル村のミーシャたんなり! それがしの漫画の大ファンで、唯一のお友達なり!」

「そうなんだ! 俺も会いたいな、ミーシャたんに」

「いいなり! これから一緒に会いに行こうなり!」

「行こう、行こう」


 そこへ碧がウィンドウを突き破りそうに顔を近づけて来た。


『ちょっと翼、そんなトコ寄ってどうするのよ~。早くマドリーちゃん連れて魔王倒しに行きましょうよ』

「ミーシャたん♪ ミーシャたーん♪」とご機嫌なマドリーを見ながら碧の耳に口を近づけた。

「マドリーはまだ仲間になってないの、タルバル村のミーシャちゃんに会わせてから仲間になるの」

『ええ~? 何ですぐ仲間になるイベントにしなかったの~?』

「同じ目的も無く仲間になったら変でしょ」

『ゲームだから別にいいでしょ~が』

「俺のゲームにそんな手抜きは許されないの。だからタルバル村のイベントの後、仲間になる段取りなの」

『ふ~ん、村でのイベント……ね~』


 なに真面目な顔してアゴ触ってんの、名探偵アオイかな?


『ふむ、わかったわ~……』


 は?


『そのふたりと何か約束して仲間になる、それが村のイベントでしょ~が? でしょ~が~!』

「えっ……」

『ふっふ~ん、当たりでしょ』

「いや、その」

『あっ! 悔しいからって認めないつもり~?』

「違うって、その……半分当たり」

『半分~!? おっかしいな~、当たりだと思ったのに~』


 碧に半分当てられるとは、ちょっと驚いたな。

 まあそんなことはどうでもいい、いま一番引っ掛かるのは“マドリーだけでは魔王には勝てない”というエリドラTの言葉。

 確かに今のマドリーではちょっとキツイ。

 でもちょこっとレベルを上げてパラメータアクセサリーを装備させれば魔王ボッコは可能――いや、確実にボッコできる。

 何だ、別に難しい事無いじゃん。

 それにしてもエリドラT使ってメッセージ伝えるとか手の込んだやり方するよね、でも疑心暗鬼作戦は失敗、残念でした。


『ねえねえマドリーちゃん、ちょっといい?』

「何なり? 碧殿」

『マドリーちゃんさ~、何でTSしたくなったの? ショタで十分可愛いじゃない~』


 何を聞くかと思ったら、TS百合ゲーのキャラにする質問じゃないでしょ。

 そもそもこの世界にショタという概念は存在しないんだけど。


「しょた?」

『あっ、え~っと、可愛い男の子、って意味よ~』

「むひゃ! それがし全然可愛く無いなりよ」

『何言ってるのよ~、誰が見ても可愛い男の子よ~!……は~、本当にそのままでよかったのに~、うう~っ』


 泣く程?


「そ、それがし……男に生れたくなかったなり」

『何で~?』

「男だから戦わなきゃいけないなり……それがし怒ると強くなるみたいなり、だから他のドラゴン族と戦う時いつも連れていかれたなり、騙されてるのに気付かないで……」

『騙されてるって、どんな風に~?』

「お前の漫画をバカにしてる一族がいるから倒しに行くぞ、って騙されたなり」


 悪いけど、ちょろ過ぎない。


『ふんぬ~! あったま来る~! Tの連中、そんな悪行をしてたなんて~!』

「お、落ち着いてなり。偶然エリドラさん達の会話聞いて、嘘だってわかってから行かないようにしたなり」

『だから子作しようとさせたのね~! ふんぬ~、どこまでも許せないわ~!』

「だからそれがしが悪いなり……」

『え?』

「男に生まれなければエリドラさん達を怒らせる事もなかったなり、それがしが戦う事もなかったなり……」


 いや、重いんだけど。

 性格悪いエリドラ達のイジメに苦しむマドリーをTSして救う、って設定が何でここまで重くなってんの?

 やっぱあいつの仕業? 俺と碧をこの世界へ送り込んだあいつの仕業?

 っていうかマドリーの涎が凄いんだけど、何かマーライオンみたいなんだけど。


「で、でも翼殿と碧殿のお陰で女体化したから今はとっても嬉しいなりよ、早くミーシャたんにこの姿見せたいなり」

『ミーシャたん? それってどんなコ~?』

「それがしと同じ、大の百合好きなり」

『は? 百合好き~?』


 何でこっち睨むの、俺のゲームなんだから仲間サイドはみんな百合好きに決まってるでしょ。


「翼殿、碧殿、行こうなり」


 マドリーがこちらに背中を見せてしゃがみ込んだ。

 って事はおんぶして空を飛ぶってこと? そのちっこい体で?

 まあいいや、マドリーなら無条件で安心だ。


「じゃあ失礼して」


 小さな背中に抱き着いた。


「むほっ、翼殿! ご、ご立派な乳をしてますなり」

「俺のおっぱい? へえ、そんなにいい?」


 背中に押し付けたまま左右に動かしてみた。


「むほぉぉぉ! つ、翼殿! 凄むほぉ!」


 裏返った声で悶絶してる、超可愛い!

 わーおっ、恋人イジって楽しむ女子の気持ちがわかった気がする。


『何やってるのよ!」


 碧がバカみたいに目を大きくして睨んでる。


「いやあ、このDカップの胸を押し付けたくなって」


 碧が自分の胸に目を落としてからこっちの胸を見る、その目が何故か険しくなった。


『ふんっ……まあいいわ~、早く出発しましょ~マドリ~ちゃん」

「何かあったなり?」

「何でもないわ、早く出発よ~!」

「む、むほっ! わかったなり」


 わおお!? マドリーの柔らかくて小さかった背中がデッカくなるー! 

 これって鱗? やばっ落ちる!

 そこへ鉤爪の手がこちらをキャッチ、二本の角がある頭のてっぺんにそっと置かれた。


「行くなり、しっかり角にしがみ付いてなり」

「う、うん、あんまり飛ばさないでよ」

「わかってるなり」


 羽が広がった! でっけー!

 わーおっ、飛び上がった! すっ、すっげえ縦G!

 んぐぐぐぐっ…………わお!? わおおおおっ、空飛んでるー! 

 さっき居た場所があんなに小さく見える!

 まさかドラゴンに乗って空を飛ぶ日が来るとは!

 うはは、すげーすげー!

 と、はしゃいで一時間後。


「わ、わお……うぷっ!」


 俺は空酔いしていた。


「あ! もうすぐタルバル村に着くなりよ」


 マドリーの声に顔を上げると、森の中にぽつんとある小さな村が見えてきた。


【8話予告】

 TS美少女化したマドリーはタルバル村のミーシャたんと百合百合になるのか? 的な話。

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