第9話 魔王軍四天王 VS TS美少女化した最強ドラゴン
ミーシャちゃんは宿屋の前で洗濯物を干していた。
「え? ホント? ホントにマドリーたんなのぉーーー!? あーっ、目が金色、ホントにマドリーたんだーーー!」
中学生位の年齢に見えるミーシャちゃんの声はやたらデカかった。
「むほほ、驚いたなり? 実はそれがし……」
TSした経緯を話すマドリーを微笑ましく見てたら碧が小声で話しかけて来た。
『で~、マドリーちゃんはどんな約束して仲間になるのよ~?』
「それはね……」
そこへミーシャちゃんが挨拶してきた。
「初めましてーーー! この宿の看板娘、ミーシャでーーーっす!」
「こちらこそ初めまして、翼です。よろしくね」
『あたしは碧っていうの~、よろしくね~』
碧と一緒に挨拶する。
「お嬢様、私は片付けがありますので」
「わかったわ、よろしくね」
一緒に洗濯物を干していた男の子が宿へ歩き出す。
あの年で働いてるのか。
とか思いながらミーシャちゃんに目を戻すとTSガンをじっと見ていた。
「その魔道具でマドリーたんをTSしたんですか?」
「え? うん、そうだよ」
「翼様、あの……」
思い詰めた目でこっち見るけど何?
こんなのシナリオにないんだけど。
「TSガンで――」
そこへ何かが崩れるような凄い音がした。
『びっくりした~! 何今の音!』
そんな碧と一緒に音の方へ顔を向けると数人の村人が必死の形相で走ってきた。
「逃げろ! 逃げろ!」
「バケモノが来たぞー!」
連れ違いざまそう叫ぶ。
『バケモノ~!? わたしたちも逃げなきゃ~!』
「待ってよ、これもマドリーが仲間になるイベントなんだけど」
ドンッ! という打ち上げ花火のような音。
『ね、ね~翼~、この音って~……』
「ザルゥスの足音だな」
音が鳴るたび、足の裏に響く振動が大きくなる。
『ザル……え、何?』
「ザルゥス」
『そのザル何とかって強いの~?』
「強いも何も魔王軍四天王のひとり」
『四天王~!? 何でそんなのがこのド田舎村に来るのよ~!』
「それは――」
三階程の高さがある教会の裏で足音が止まった。
そして排水口のゴボゴボ、恐竜のグルル、が混じった唸り声をあげて教会の陰からぬっとザルゥスが現れた。
『ヒィ~ッ! 何あのグロいの~!』
「あれがドラゴンゾンビのザルゥスだ」
「ぎゃああーーっ、マドリーたーーん!」
怯えるミーシャちゃんを守るようマドリーが両手を広げてザルゥスに向き合う。
かっこいいよ、マドリー! とか思ってる場合じゃない。
あいつのポイズンブレス食らったら即死。
という訳で俺もマドリーの後ろにそそくさと隠れる。
「俺様は魔王軍四天王の一角、ザルゥス」
『ひぃ~、ゾンビなのに喋ったわよ~!』
「喋ってるのは魔王配下のゴースト系モンスター、あの死骸の中から操ってんだよ」
しかしくっさ! カラスに漁られたゴミ捨て場の10倍くっさ!
こんなの目の前に来て魔王平気なの? 鼻の穴詰まってんじゃないの。
「四天王がひとりの俺様を見て逃げないとは、お前らなかなか見どころあるな。というか……」
え、なに?
「俺様、臭くないよな?」
それ答え殺しなんだけど、臭い言ったら「よくも言ってくれたな、死ぬがいい!」ってヤツなんだけど、っていうか何俺の作ったセリフと違うこと言ってんの?
これも俺と碧をこの世界に送り込んだヤツの仕業?
「むほ? くんくんなり……それ程臭くないなりよ」
えー! って、ドラゴン族同士の争いで凄惨な臭いに慣れてるからそんなこと言えるのかな。
「ふむ、人間のガキにしては見所があるじゃないか。どれ褒美だ、俺様の肉体美を見るがいい」
角と尻尾生えてんのに人間と間違えてる、まあゾンビだから視力悪いのかな。
って色んなマッスルポーズ決め出した。
ちょっ、動くたびに腐った肉汁飛んできて腐敗臭凄いんだけど!
ヴええっ、吐きそうになってきた。
ってミーシャちゃんも吐きそうになってる、頼むから止めて!
「ちょ、ちょっといいなり? ま、魔王軍がこの村に何の用なり?」
さすがマドリー、シナリオ通りのセリフを言ってくれた! 自由すぎるザルゥスとは大違いだ。
「おっと、すっかり忘れていた」
忘れるなよ!
「くっくっく、見どころのあるお前らだから特別に教えてやろう。俺様がこんなド田舎にやって来た理由はな……」
村に現れる金色のドラゴンを仲間にせよ、歯向かうなら始末せよ、という魔王様の命令でこの村に来た。
って言うはずなんだけど、こいつさっきから自由過ぎるからな。
「この村はTSとかいう文化が盛んらしいな、魔王様はそれに大層お怒りだ。そこでこの村を消滅させるよう俺様に命令されたのだ」
魔王がTSに怒ってるとか、またも全然違うセリフ!
これも俺と碧をこの世界に放り込んだヤツ仕業だな。
めっちゃ腹立つ! 人のゲーム勝手に変えちゃって!
「こ、この村を消滅? そ、そんなの許さないんだからーーーー!」
ザルゥスのせいで若干セリフが変わってしまったが、シナリオ通りミーシャちゃんが叫んでくれたぞ。
「許さないだと? ほう、ならこの俺様を止めてみろ。TSとかいうのと一緒に消滅されたくなかったらこの俺様を止めて見ろ!」
「ちょっとーーー! その口ぶりだとTSのこと知らないでしょー?」
ミーシャちゃん!?
「人間のガキがっ! そんなもの知るか!」
「消滅させるのならTSを知ってからにしてよーー! この世で最も尊いんだからーー!」
何この製作者置き去り展開!
「マドリーたーーーん!」
「は、はいなり」
「TS漫画をあの人に見せてギャフンといわせてーー!」
「わかったなり」
マドリーが両手を広げるとそこに原稿が現れた。
「予備のコピー原稿なりよ」
指先で弾くと、コピー原稿が畳位の大きさになってザルゥスの前に飛んで行った。
「ふん、まあいい。魔王様への報告も兼ねて付き合ってやる」
二本の鉤爪がグチュっと原稿を掴む。
「ほう、この絵、なかなか上手いではないか」
ドラゴンゾンビが漫画の編集みたいなこと言ったよ。
「ふむ……ほう……」
マジか、ザルゥスがスマホみたいな手付きで読んでるんだけど。
「どうよーー! その漫画にはTSの全てが詰まってるのよーー!」
「むほほ、ミーシャたん照れるなり」
ザルゥスが顎に手を当てながらじーっと原稿見てるけどもしかして……。
「ふむ、これがTSか。素晴らしい! うん、素晴らしいぞ!」
え? まさかのTS開眼!?
「とでも言うと思ったか! くだらん、実にくだらん!」
わおー! 原稿握りつぶしたー!
「魔王様のお怒りがよくわかった。男が女に変わるなど悪い冗談! 男は俺様のように肉体美を極め、強くあるべきなのだ!」
あ、コイツ俺のすげえ嫌いなタイプ。
「TSというくだらんものを教えてくれた礼だ!」
ポイズンブレス吐いてきたよ。
でもこっちには――
「危ないなり!」
マドリーがファイアブレスを吐いてポイズンブレスを焼き尽くした。
「む!? 貴様ドラゴンか?」
やっと気付いたの。
「お主っ! それがしの原稿よくも壊してくれたなりっ!」
出た! 激おこマドリー!
シナリオではミーシャちゃんにポイズンブレス浴びせようとしたからザルゥスに戦いを挑むんだけどまあいいや。
「ふんっ、人間の姿のままこの俺様と戦おうというドガッ!?」
やったよ、マドリーの右ストレートが顔面に炸裂ー!
「ガガガガガガガ!」
殴られた勢いで首がグルグル回ってる! ってそこからキッタナイ液体が飛んでくんだけど!
「きっ、貴様! よぐも、よぐも、よぐも――」
「なりーっ!」
マドリーが手の平を合せた両手でグルグル回る頭を真上から叩き付けた。
「ごべっ!」
うえっ、頭のてっぺんが陥没して左右の角がバッテン状態になってる。
すげえマドリー! でもいくら何でも強過ぎない?
俺のゲームだとザルゥスはドラゴンの姿に戻ったマドリーを少しだけ苦戦させる強さのはず、なのに7割の力しか出せない人型でマドリーは圧倒している。
「碧、ザルゥスのパラメータ見せて」
『え? うん』
ザルゥス LV64
種族:ドラゴンゾンビ
HP 1230/4500
MP 320/320
力 511 攻撃力 511
素早さ 177 防御力 486
体力 758 魔法防御力 159
知力 97
魔力 126
俺が作った通りのパラメータ。
ということはマドリーが強すぎる?
「しぶといなり、でもこれで終わりなりィ!」
「ぐっ、ぐぅぅ、ごの俺様が! ごの俺ざまがぁ!」
一方的なフルボッコでザルゥスは終わりか、魔王の強さを伝える四天王の役目をぜんぜん果たせなかったな。
「ぐぅぅ! アイスサージ!」
苦し紛れの攻撃魔法、でもそれは攻撃力百二十の魔法。
対するマドリーの魔法防御は四百ちょっと、つまりノーダメージ。
「ぎゃあ、なり!!」
え?
「ふぎゅぎゅ……なりっ」
倒れたー!? え、何で?
『ちょっと翼、マドリーちゃん、やられちゃったわよ!』
「碧! マドリーのステータス出して!」
『う、うん』
エリドラたちに無双してるし、まったくチェックしてなかったけど……。
ウィンドウにステータスが浮んだ。
マドリー LV13
種族:ファイアドラゴン
HP 87/1188
MP 0/0 次のLVまで 47181
力 901 攻撃力 901
素早さ 481 防御力 910
体力 894 魔法防御力 -900
知力 163 百合魅力度 980
魔力 0
【10話予告】
あれ? 魔法防御の値が……やばくね? なお話。
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