第11話 魔法食らうと瞬殺なので大賢者を仲間にする事にした

 ロープレにはやっぱ魔法王国だよね、お好み焼きにはこってりソースみたいに、てな感じで作ったこのラヴォワ魔法王国。

 その闘技場に俺達は対戦者として立っている。

 周囲を見回すと、満員の場内を照らす眩しいほどの白い照明に巨大なオーロラビジョン。 

 闘技場といっても中世のコロッセオみたいなものじゃなく、サッカースタジアムそっくりな作り。

 驚いた事にこの魔法王国は現代日本と同じ科学力が同居してるのだ。

 何でそんな設定なのかはさておき、俺達の対戦相手は魔法使い顔のお爺さん。

 背の高い体からアニメで見る強者オーラを放ち、怖い程鋭い目でこっちを睨んでる。

 その威圧感、完全にタダ者じゃない。

 当然といえば当然、このお爺さんこそ魔法王国の英雄にして史上最高の天才と呼ばれる大賢者その人。

 という訳で満席の声援は全て大賢者のもの、こっちは完全アウェー状態。

 そこへ電車の発車ベルみたいな音が鳴り響く。

 激しく点滅するオーロラビジョンに目をやるとバトル開始の文字。


「マドリー、頼むよ」

「わかったなり!」


 うなじをしならせたマドリーがギザ口からファイアブレスを吐き出す。

 防御魔法を張ってもそのブレスは桁違いの破壊力、大ダメージは必至。


「レベル54魔法、冷気エクストリーム」


 えっ、防御魔法じゃなく攻撃魔法?

 ファイアブレスと氷系魔法が激突して餃子百人前を焼くような凄い音! って、白い蒸気になったー!

 あのファイアブレスと同じ威力とは。

 それにしても魔法詠唱早過ぎない?


「翼殿、碧殿、頼むなり」

「オッケー、TSガン……ほら碧!」

「ご、GO~」


 大賢者に向けてトリガーを引いた。


「オンリースキル、Sランク特殊攻撃ノーサンキュー」


 ええっ!? TSビームが大賢者の前で砕け散ったー!


「ファッハッハ、見おったか、これが大賢者の力――あだっ!? あだだだだ!」


 何か腰痛めてんだけど。


「ひ、久々のオンリースキルは腰にくるのう」

「むほほほー!」


 いやマドリー、笑ってる場合じゃないんだけど。


「うむう? これを見ても笑っておられるかの? レベル99魔法、異世界ワンウェイチケット」


 闘技場の上にいかにもヤバそうな渦巻きが登場。

 わおーっ! 吸引を始めた渦巻きに体浮きそうなんだけど! 


「翼殿!」


 ドラゴンに変身したマドリーがキャッチしてくれた、って凄い吸引力! 

 ええ! マドリーの巨体が浮いてる?


「むひゃー! 吸い込まれるなりー!」


 必死に翼を動かしてるのにどんどん渦巻きに近づいてくー!


「TSという性を弄ぶ不届き者よ、この世界から永久に消え去るがいい」


 大賢者のセリフに客席大興奮、つまり計画通り。

 そう、マドリーが仲間になったとき話したあの計画は順調に進行中なんだけど。


    □□□


「碧、魔王倒す目処がついた、って何?」

『ちょっと翼~、マドリーちゃんを軽くレベルアップさせれば魔王ボッコとか言ってたじゃない?』


 ちょこんと首を傾げる碧に呆れる。

 こいつはザルゥスとのバトルを見て何も気付かなかったの。


「魔王はね、最強クラスの攻撃魔法をばんばん使って来るんだよ」

『え~?』


 いや、いくら何でもその位わかるでしょ。


『そ、それってどの位の威力なの~?』

「一番威力ある魔法で四百位のダメージ、それも全体魔法」

『な、何かよくわからないわ~』

「マドリーの魔法防御値はマイナス九百、簡単に言うとそれ食らったら即死」

『何それ~! 全然ダメじゃない~!』


 碧が頭を抱えてロングポニテをブンブン振り回した。

 俺もそうしたい気分だよ。

 しかし俺の設置した魔法防御値は二百五十のはず、何でそんな数値になったの。

 多分俺と碧をここへ送り込んだヤツの仕業だろうな、どこまでも腹立つ。


『でもドラゴンって確か魔法も使うんでしょ~、何でマドリーちゃん今まで大丈夫だったの~?』

「魔法詠唱にはラグがあるんだよ、マドリーはそこそこ素早いから放たれる前に直接攻撃やブレスで瞬殺してきたと思う」


 だからこそ魔法防御が残念過ぎる。

 ここまでヒドいと回復アイテムや魔法ダメージ軽減アイテムじゃ全然追いつかない。

 それなら大賢者を仲間にするか、魔法防御呪文のエキスパートで詠唱速度も一番だ。

 いや、ちょっと待て、大賢者ってレベルをカンストした賢者をチェンジさせるしか入手出来ない最難関ジョブだった。

 参ったな、仲間に出来る賢者ってみんな低レベルなんだよね。

 しかも大賢者にジョブチェンジした後もかなりレベル上げなきゃ強力な魔法防御の呪文覚えないし。

 そのレベル上げをしようにも、高レベルのモンスターは攻撃魔法の使い手ばかり、当然パーティーで現れるからマドリーは瞬殺されるだろう。

 かといって大したことないモンスター倒して経験値稼ぎしてたらタイムリミットの3日なんてあっという間。

 そうなったら碧と一体化してるTSガンが魔王に破壊される。

 ああ! 失敗した! いきなり大賢者を仲間に出来るイベント作っとけばよかった――って、あったよそのイベント。


「マドリー、ここから魔法王国までどの位で行けるかな?」

「むほ、魔法王国?」

「ああゴメン、ラヴォワ魔法王国の事だよ」

「そ、そうなりね……むほー……1時間位で行けるなりよ」

「じゃあそこまでお願いするよ」

「わかったなり」


 ドラゴン化したマドリーが俺を頭に乗せると空へ飛び立った。


『ねえねえ翼~、そのらぼ何とかって何~?』

「ラヴォワっていうのはこのゲーム……じゃなくこの世界最大の魔法王国だよ」

『ぷぷぷ~、中二病ならみんな大好き魔法王国ね~』


 そうそう、みんな大好き魔法王国。

 わおっ、受け入れボケって怒りをスルーするのに最適なんだけど。


「ちゅうにびょう、って何なり?」

『病気の一種よ~』

「どんな病気なり?」

『中二病っていうのはね~、罹ってる間は何ともないけど~、治ったら地獄を見る病気なのよ~』

「治ってから地獄なんて可哀そうなり」

『うん、そうなのよマドリーちゃん。家族や友達からしつこく話のネタにされて地獄を見るし~、ひとりの時ふと思い出してまた地獄を見るの~、ホント可哀そう。ね、翼~』


 うんうん、中二病ホント可哀そう。

 って、受け入れボケ連続はさすがにキツイんだけど!


『ところで翼~、その魔法王国に行って何するの~?』


 やっと本題に入ったんだけど。


「大賢者を仲間にするの」

「むほっ、大賢者!?」


 驚いた声がお尻にビリビリ響く。

 それには心なしかブっとい棘が感じられた。


「う、うん、魔法王国史上最高の天才を仲間にするんだ」

「つ、翼殿! 何でそんなの仲間にするなりー!」


 え? 


「そんなのって……何かあったの?」

「メチャクチャあったなり!」


 マドリーの話はこうだった。

 全魔法コンプは勿論、オンリースキルすら持つこの世界に3人しかいない大賢者。

 その3人はドラゴン族にとって憎き敵だった。

 何故なら大賢者はドラゴン族を魔王軍レベルの脅威と見ていて、時おり討伐しに来るからだ。

 そして悲劇はマドリーが新作百合漫画を届けにタルバル村へ行ってる間に起きた。

 討伐しに来た大賢者がエリドラTと戦闘に入ってしまったのだ。

 ドラゴンと大賢者の戦いは痛み分けで終わるのがお決まりだが、その大賢者は一方的にエリドラTを圧倒、あと一撃で終わりという所まで追い込んだ。

 ところが大賢者はそうせず、代わりにこんなことを言って来た。

 百合漫画を描くドラゴンがここにいるだろう、そいつの作品をこちらに差し出すのだ。そうすれば二度とここへは来ないと約束しよう。

 これにエリドラたちは大慌て、マドリーの寝床に隠してあった百合漫画のデータを見つけ出すと大賢者に渡してしまったのだ。

 当然帰って来たマドリーは激おこ寸前だったが“百合漫画データと引き換えにエリドラTさんが助かって良かったなり”と何度も自分に言い聞かせ、激おこを必死に押し殺した。


「それでも朝まで泣いたなり!」


 涙声がビリビリとお尻に響く。


『マドリーちゃん可哀想~。でもその大賢者~、百合漫画欲しさにドラゴンと戦いに来たのかしら? だとしたら相当やばいわよね~』


 床を撫でるようマドリーの頭を撫でる碧を見ながら確信する。

 ドラゴンを軽くボコる実力、そして百合好き。

 間違いない、これから仲間にする大賢者だ。

 しかし困ったな、そんなイザコザがあったなんて。


『ねえねえマドリーちゃん、その大賢者何て名前なの~?』

「ノエルっていうなり、エリドラTさんがコワイ顔で何度も言ってたなり」


 恨みがましい声がお尻に響く。


『ねえねえ翼~、ノエルってわかる~?』


 製作者の俺に何を聞いてんだか、とはいえこの話をマドリーに聞かれたらやばい。

 碧に向けて人差し指をクイクイ動かした。


『はいはい~』


 髪を掻き上げ耳を近づけて来た。


「ノエルっていうのは簡単に言うとチートキャラ。マドリーが直接攻撃と直接防御の

チートなら、攻撃魔法と防御魔法のチートがノエル」

『なによそれ~、仲間になったらこのパーティー無敵じゃない~! ちょっと翼~、何でノエルのコト言わなかったのよ~』

「声おっきいんだけど」

『ごめん~』

「ノエルは一度ゲームをクリアしないと仲間に出来ない隠しキャラ、だから忘れてたんだよ。それにそのサブイベント、骨組みしか作ってないんだ」

『え~! ちょっとそれ大丈夫~?』

「取りあえず仲間になる形まで作ってあるから大丈夫……のはず」

『不安な言い方ね~、本当に大丈夫~?』

「3日以内にクリアするにはノエルを仲間にするしかないよ、とにかく行ってみよう」

『ねえねえ翼~』

「何?」

『本当に大丈夫~?』


 マドリーのでっかい頭に目を落とした碧が再びこちらを見る。

 仲間にしようとする大賢者がノエルと知ったらマドリーは激おこモードになってパーティーを離れてしまうかもしれない、それだけは避けたいんだけど。

 何かいい方法はないものか。

 うーん、ノエルに頼んで偽名を使って貰うとか。

 わおっ、それ俺がうっかりノエルって呼んでしまうパターンだよ。

 そもそもマドリーには嘘をついているのに、これ以上嘘をつくのは無理っぽい。


「翼殿、もうすぐ着くなりよ」


 顔を上げるとダムみたいな壁に囲まれた魔法王国ラヴォワが見えた。

 

 

【12話予告】

 仲間予定の大賢者じじぃ登場。

 やっぱTS美女になりたいじじぃなのか、的なお話。

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