第12話 お爺さん大賢者をTSして仲間にしようと待ち伏せ

「マドリー、あんまり近づくと危ないからこの辺で着地して」

「むほ? もっと近くで降りた方がいいと思うなりけど」

「ダメダメ、王国に近づき過ぎると無警告で対空魔法が飛んでくるんだ」

「むひゃ!」

 そう、対空魔法は強力。

 魔法防御がないに等しいマドリーが食らえば即HP0、おまけで魔法を食らった俺も瞬時にHP0、つまりゲームオーバー。

 という訳でちょっと離れた草原に着地した。

「時間かかるけど歩いて行こう」

「はいなり」

『ちょっと二人とも待ってよ~』

 立ち止まって碧を見ると、おにぎりを持った両手がウィンドウから飛び出ていた。

『食事は大事よ~、それにこれなら歩いて食べられるでしょ~』

「服買った後に惣菜コーナーでご飯買わせたのはこういう訳か」

『マドリーちゃんが飛んでる間に作ったのよ~、えっへん』

 控えめな胸を突き出す碧の顔は腹立つほど得意げだ。

「むほーい! おにぎりなりー! 碧殿、ありがとうなりー」

 ん? 待てよ、確か梅干しの瓶も買ったはず。

「マドリー、ちょっ」

 間に合わなかったー、おにぎりモグモグさせてんだけど。

「むぐむぐ……どうしたな――」

 ぴたりと動きが止まった。

「――りひゃー!?」

 時間差攻撃炸裂、見てるこっちまで酸っぱくなる顔なんだけど!

「大丈夫?」

「むひゃーー! しゅっぱいなりー!」

 食べた断面を見ると、でっかい梅干しが三つも入っていた。

「ちょっと碧! マドリーに何食べさせてんの!?」

『何って何よ~! 梅干しはね~、クエン酸でお腹に凄くいいのよ~!』

「そうじゃなくって。マドリーは子供なんだよ、梅干し三つも入ったおにぎり出すなんて何考えてんの!」

『言ったわね~! あたしがどれだけ健康のコト考えてるかも知らないで~!』

 碧の顔がレッドカード寸前になるが、大事なマドリーを酸っぱ地獄にしたのは許せない。

「落ち着いてなり」

 マドリーを見ると涙を浮かべながら明らかに無理した笑みを浮かべていた。

「お、お、美味しいなりよ、碧殿のおに、おにぎり……」

 拷問のような味なのか、口押さえてる手から涎垂れてんだけど。

「マドリー、無理しなくていいから」

「む、無理して……むぐふっ!……ない……なりよ」

 ほら、とうとうマーライオンみたいに涎が出たよ。

『ど、どうしたのマドリーちゃん!』

 見たまんまなんだけど。

「これ飲んで~、お酢入り特製レモネードよ~!」

 トドメ刺す気!? 

 酸っぱの化身碧を止めたりしてる内に鋼鉄の扉に到着、この向こうに魔法王国があるのか。

 しかしトラック突っ込んでも大丈夫そうな扉、って何かフィギュアみたいの浮いてんだけど。

〈入国ワードを音声入力してください。違うワードの場合、命の危険がありますのでご注意ください〉

 わお、受付けか。

 俺のゲームでは光る魔石にしてたけど、こっちでは魔法少女フィギュアになってんのか。

 って事はまた俺と碧を送り込んだヤツが改変したんだな、腹立つー。

 と、フィギュア受付がじーっとこっち見てる。

 では素敵な入国ワードを言ってやろう。

「TS百合は最高」

 フィギュアが手にした魔法ステッキをくるんと回した。

〈三名の入国を許可します〉

 よしよし、しかしTSガンの碧もカウントしてるとか、驚いたな。

「それもTS神から教えて貰ったなりね、さすが翼殿なり!」

「ま、まあね」

 嘘をつき続けるのがキツくなってきた……。

『ねえねえ翼~』

 碧が笑った目で手招きしているので耳を近づけた。

『TS百合は最高~、TS百合は最高~、ぷぷぷ~』

 今後手招きはいっさい無視、一生俺の後頭部に手招きしてください。

 しっかし凄いな、出口があんな遠くに見える。

 こんなブ厚い城壁作るなんてラヴォワすげえ。

 そう思いながら入り口を抜けた。

「えっ、何これ?」

 舗装された道路、立ち並ぶビル群、王国は俺の居た日本の都市そっくりだった。

 違う点といえば魔法のホウキの進化版だろうか、お洒落な物干し竿みたいのに人が腰掛けて移動しているところだった。

 それにしてもゲームでは建物どころか道だけの状態だったのに。

 やっぱりどこかおかしい、もしかしてこれは……。

「むほぉ! 見たことない不思議な国なり!」

『ホントよね~、ファンタジー世界にないわコレ~』

「むほ? ふぁんたじー?」

「ちょっと二人とも、喋ってないで早く大賢者を見つけよう」

 途端にほっぺを膨らませるマドリー。

「あのさマドリー、気持ちはわかるけど……」

「わかってるなり翼殿、これもミーシャたんの為なり。それにここに居る大賢者がそれがしのTS漫画を奪った大賢者と同じとは限らないなり」

 いや、限られてるんだよー! やばい、マドリーがノエルを受け入れる方法を考えなくては!

『ねえねえ翼~、ノエ……じゃなく、その大賢者って凄いんでしょ~? そう簡単に見つかるの~? っていうか会うこと出来るの~?』

 確かにそんな世界的偉人とホイホイ会えるなんてまず無理。

 だが俺はこのゲームの製作者、会う事など造作もない。

「王立魔法学園へ行こう」

『そこにノエルがいるの~?』

「まあね」

 えーっと確かここを真っ直ぐ進んで、ふたつ目の十字路を左に曲がって……あれ? ゲームと違って小さい通りがあるからわかんない。

『ねえねえ翼~、あれじゃない~?』

 碧の指差す先に、俺の世界にある大学みたいな建物があった。

 その屋上には魔法の力であろう、王立魔法学園という文字が浮かんでいる。

「むひゅー、ここに大賢者がいるなりか……」

 学園の門をちょっと恐い目で睨むマドリー、その頭を撫で撫でした。

「いるんじゃなくて、今からここに来るんだよ」

 それに目をぱちくりさせる。

「大賢者はこの学園で特別講師をしてるんだ、そしてもうすぐやって来る」

「それもTS神様が教えてくれたなり?」

「ま、まあね」

「でもその大賢者、仲間になってくれるなり?」

「え? ああ……大賢者が来たならTSガンで撃ちなさい、そうすれば仲間になる、ってTS神が言ったんだ」

 むむぅ、敵ならいざ知らず、仲間に嘘つき続けるのがめっちゃメンド臭くなってきた。

「むほっ? 何で大賢者を撃つなり?」

「えっとその……大賢者はTSを望んでいる、っていうのも教えて貰って……」

 ああっ、もうヤメッ! こんなメンド臭いことしてらんない!

「ごめんマドリー! 実はこれから仲間にしようとする大賢者ってノエルなんだ!」

「むひゃ!?」

「そこでお願い、TSする代わりにマドリーの漫画返すようノエルに言うから、仲間にするの許して貰えるかな?」

『あたしからもお願い、マドリーちゃん』

 なんと碧が予想外の援護射撃。

「……わ、わかったなり。翼殿と碧殿にそう言われたらそれがし困るなり」

 モジモジするマドリーを見ながら胸を撫で下ろす。

『ねえねえ翼~、ところでそのノエルって~、何でTSしたがってるの~?』

「俺やマドリーみたいに百合が大好きだから」

『は~? まあアンタが作ったキャラだもんね、そうなるわよね~』

「むほ? 作った?」

『あっ、えっとその~……と、ところで大賢者ってどんな感じなのよ翼~、もしかして天才ショタとか~?』

「何でショタになんの? 普通お爺さんでしょ、っていうか魔法使い顔のお爺さんなんだけど」

『え~? お爺さんなのに百合好きなの~?』

「百合好きに年齢とか関係無いの、ともかく百合が大好きなの。TSしてあげるね言ったら、やったやったバンザーイ! ってスキップしながら仲間になるよ、だから大丈夫」

『お爺さんが、やったやったバンザ~イ! 言いながらスキップしたら引くんだけど~』

 いやそこ笑うとこ。

「わああーー!」

 背後からの悲鳴に驚いて振り返る。

 そこには何故かオーバーサイズの背広を着た女の人とそれを見下ろすゴツイ男の姿があった。


【13話予告】

 性的暴行の予感。

 そんな事よりTSした大賢者お爺さんはバンザイスキップしながら仲間になるのか、的なお話。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る