14.世話じゃなくて傷口を焼いてくるタイプの幼馴染
「痛っっつっつうううううう!!!」
最後の記憶といえば、昔どこかで会ったことがある気がするスナイパーの頭にナイフをブチ込み、相打ちで腹に銃弾を食らった記憶であり、何なら自分の人生はそこで終わったものだと思っていた。
だが実際の琴子と言えば、腹部に凄まじい痛みと熱を感じながら悶えていて。
しかも体は木に入念に縛られていて、逃げることが出来ないまさしく俎上の鯉そのもので。
「あ、起きた」
目を開くとそこには、見慣れたポニーテイルがナイフ片手に立っていた。
「解体か、解体されるんか!?」
「違うけど」
腐れ縁――
「じゃあ何!? なんでナイフ持ってんの!?」
「傷を塞ぐために必要だったから」
見やれば近くに焚き火があって、彼女の持つナイフは赤熱していた。
ついでに言うと、木と背中の間にはブレザーが挟まれていて、クッション代わりになっている。
「ほっといたら死ぬと思うからさ、頑張って」
「ぎゃあああああああああああああああああっ!!!」
耳をつんざく絶叫が森に響き渡る。
赤熱した刃の腹を焼きごてのように使って、傷を焼く。麻酔なしで。弾は貫通していたので、後ろからも焼く羽目になった。
「死ぬかと思った」
「ほっといたら死んでたけど」
「……それはまあ、そうだけどさ。まあそれは、ありがとう」
そう言ってから、重たい沈黙が垂れ込めた。
すでに日は沈んでいて、森の中では焚き火くらいしか光源がない。
(……って、あれ)
自分が倒れた場所はもっと木の丈が低かった、それこそ直感的に林と判断するような場所だったわけだが、ここは間違いなく鬱蒼とした森の中で。
「わざわざ運んできてくれたの?」
「こっちのほうが遮蔽物があって隠れやすいから」
「わたし重かったでしょ」
「全然。琴子と違って今も隠れて鍛えてるし」
あてつけか。
せっかく再開した会話が、再び遮られる。
「……なんで助けたの」
長々とした沈黙に耐えきれず、思わずそんなことを聞いていた。
「幼馴染が死にかけてたら普通助けると思うけど」
そうだ、二人は幼馴染で、ついでに言うと同じ空手道場の同門生だった。
「今は普通じゃない」
「放っておけばよかったの?」
「そういうわけじゃないけどさ。……深百合は、わたしのこと嫌いだと思ってたから」
「嫌いだけど?」
何を当たり前のことをみたいな目でこちらを見てくる深百合に、思わず笑いそうになる。
「嫌いなのに助けてくれてありがとう」
「好き嫌いで人のこと助けたり助けなかったりするほうがおかしいでしょ」
「それはそうだけど」
この状況でそれが言えるのがおかしいのだ。
普通の人間は、殺す殺されるの状況で、そんなこと気にしていられないだろう。
普通の人間は、あれだけのことをされたのだから、こんな状況ならば見殺しにするだろう。
「……やっぱり深百合はお嬢様というか、育ちがいいというか」
「それどういう意味?」
もろに睨まれる。
「褒めてるんだよ、他意はないって」
やはり自分は無意識に他人を煽ってしまうし、他に取り柄もないのだから大人しく空手を続けておけばよかったんじゃないか――そんなふうに思う。
(まあ、これも言ったらブチギレられるだろうけれど)
それは流石に無神経が過ぎると、琴子は思った。
(流石にね、わたしだって自分のせいで空手をやめた子の前でね、そんな事言わないよ、普通)
そうだ、琴子は深百合が空手をやめるきっかけであり、それゆえに今も気まずくて気まずくて仕方がなくて、だけど逃げることも出来ずにいた。
もっとも、それは道義の問題ではなくて、
(……ああ駄目だ、腹が痛くて動けない)
単純に体が痛くて仕方がなかったからだったが。
どころか、泥のような疲労に焚き火の暖かさも相まって、琴子はもはや瞼を開いているのも一苦労で。
(……寝てるあいだに殺されるかも)
そんな事を考えながら、彼女は深い眠りに落ちていった。
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