6.オタクに優しいギャルVS陰キャVSデスゲーム
最近は流行のガールズバンドアニメのサブキャラである酒クズだけど演奏したらめちゃくちゃカッコイイお姉さんの夢女をしている。ああいう破滅的なお姉さんにハマる年頃なのである。
彼女にとっては二次元美少女(酒クズお姉さんは美少女ではないと思うが)>二次元その他>三次元女>三次元男なので、近所にあった女子校に入学した次第である。
その頃はまだワンチャン三次元もイケるか……? とか思っていたが、一年目でやっぱり無理だと思い知り、その結果が今である。
彼女の手元のカードは、真っ白だった。
彼女は教室で完全に孤立していた。オタク友達だっていない。
酒クズお姉さんのアニメそのものにかなりハマりギターに挑戦して秒で諦めたりしているのだから、同世代にも人気なそのバンドアニメ繋がりで友達を作ればいいではないか――そう思う向きもあるかもしれないが、すでに何もかも遅かったし、連中は何もわかってないとさえ舞々は考えていた。
かえって同じものを見ているときのほうが、そういう偉そうな選民思想は生まれがちである。
好きな相手がどこにもいない。どころか、名前さえひとりも覚えてない。いつも机に突っ伏してたんだから当たり前だ。一体、どうすればいいのか。
誰も殺さなくて済むし、誰に狙われるはずもないし、それは全くもってうれしいが、これでは24時間後に首輪が爆発するのを待つしかないではないか。
「しかも気の狂ったやつが無差別に殺して回ってるとかもあり得るしなあ……」
24時間どころか、今すぐにでもこのテントを突き破って蜂の巣にされる可能性は全然ありえるわけで。……だけど手元にある“これ”はあまりに心もとないし。
「そうだ、さっき殺された人のテントは無人だし、そこで武器を手に入れたり、立てこもれば……」
そこまで言って、頭を抱えた。
自分はさっき殺された人の名前も分からないから、出席番号だって当然分かるはずがないのだ。
「おーい、針井ちゃーん!」
頭を抱えたままの彼女に、テント越しに、そんな声がかかった。
「……は?」
やけに明るい声。罠かと思った。だけど、罠もクソもなくて、だったら普通にテント越しに攻撃すればいいではないか。
「いないのー? 針井ちゃん多分殺す相手が居なくて困ってると思ったんだけどー!」
めちゃくちゃ失礼な女だ。この女は一体自分の何を知っているのか。
「まー、それはあーしもなんだけどねー!」
「あーし!?」
って、そこじゃない! こんなメチャクチャな一人称のクラスメイトがいるのになんで今まで気づかなかったのか、どんだけ周りを見てないんだよとか、そんなことは今はどうでも良くて。
「そうじゃなくて、カードが真っ白って本当!?」
舞々は思わずテントから出て、その一人称にふさわしい外見の、いかにもなギャルに問いかけた。ケバいし黒いしスカート短すぎだし頭悪そうだし。
「ごめん、嘘」
彼女の手元のカードには、
「嘘かよっ」
思わずズッコケる。
「うん、こいつは中学の頃からの幼馴染でさ。でも、針井ちゃんいっつも寝てたし好きな人居ないだろうと思って」
「だからそれめっちゃ失礼じゃない?」
「うん、ごめん。嘘もついちゃったし。……にしても針井ちゃん、思ってたより元気だね」
「いやそれはっ」
一気に顔が熱くなる。いうなればそれは、家族と買い物に行った時に内弁慶な自分をクラスメイトに目撃されるような羞恥だった。
「……それで、私になんの用なの。えーと、その」
「
「……人のこと言えないし」
ていうか、リリィはともかく、舞々って何なんだろう。カタツムリかよ。ぶぶ漬けでも出すのかよ。
「変な名前繋がりで仲良くしようかなって思ってたんだけど、ずっと突っ伏してたから話しかけられなくて」
見た目ほど無神経ではなさそうだった。
「ま、ひとりでいたいならそうしてればいいだけだしね。……今はそうしてる場合じゃないけど」
「で、烏丸さんは私に何の用なわけ」
「手を組もうと思って」
「は?」
あまりに事もなげに言われたそれに、思わず面食らう。
「私と烏丸さんって話したことさえないと思うんだけど」
「関係ないよ。あーしはこのデスゲームそのものをぶっ壊そうと思ってる。だから仲間は多ければ多いほどいいんだ。……殺したり殺されたりなんか誰も嫌っしょ?」
それは全くもってそうだけれど、でも見知らぬギャルと二人きりは気まずいし、だけどそれ以上に――
「私、なんの役にも立たないけど」
そう言って舞々はそれを見せた。
「……ボールペン?」
「……私に支給された、武器」
蚊の鳴くような声で、舞々はうつむきがちに言った。
「あははははははははっ、ボールペン、ボールペンて!」
腹を抱えて、涙さえこぼしながら笑うリリィ。
「そこまで笑うことないじゃん! だいたいこれ、撃てるし! 暗器になってるし!」
そうだ、彼女に支給されたのはボールペン型ライフルだった。装弾数はわずか一発。ペンに偽装された先端部分を外して使うのだ。
威力は未知数だが、おそらく低いに違いない。暗殺でもするならまだしも、普通の殺し合いには全く役に立たないことは目に見えていた。
「でも一発だけだし、はずしたら詰みっしょ!」
「そ、それはそうだけど! でも武器は武器――って、なんで装弾数知ってんの!?」
「いやだって、あーしも同じ武器持たされたし」
涙を拭きながら、彼女は舞々と同じボールペンを見せた。
「……もしかして全員、ボールペン渡されてるとか」
「それはないって、流石に。どんなデスゲームだっての」
言いながら、リリィは懐から黒光りするそれを取り出した。
「ひ、ひいっ」
思わず情けない悲鳴が漏れ出る。
「ま、まさか殺して……」
「違うよ。犬っちといぶりん――ああ、最初に殺されちゃった子達ね――のテントから取ってきた」
それはまさしく舞々が考え、名前がわからなくて断念したことだった。そのまま、舞々に拳銃の片割れが渡される。
しんみりと、リリィは続けた。
「……あの二人とも、友達だった。意味分かんないっしょ、なんでこんなゲームにあーしたちが巻き込まれなきゃ駄目なわけ」
「それは」
「あの子達はすごい仲良しだったんだよ。それをこんなふうに踏みにじってさ。……絶対許せない」
それは、あまりに真っ直ぐな怒りだった。
舞々は怒ることも忘れていた。
だって、自分たちをこんなふうに孤島に連れ去り、首に爆弾を設置し爆破させ、挙げ句誰にも見せたことのないはずの腹の中を言い当てるような相手に、勝てるはずがないと決めつけていたから。
「……怒るのも分かるけど、なにか案があるの」
舞々は陰キャで、コミュ障で、空気が読めなくて、だからこそリアリストだった。普通怒ってる相手には駄目なことを、平気で言ってしまえる。
「何も思いついてないよ。……今は」
だけど、リリィは怒らない。代わりに、静かに続けた。
「でも、みんなで考えればなにか思いつくかもしれない。思いつかなくても、連中はあーしたちが結託したら、困ると思う。だから、だからさ――」
リリィは舞々に手を伸ばす。
「だから、いっしょに頑張ろうよ」
「……うん」
舞々も、手を取った。
これからどうなるかわからないが、それでも。
カードが真っ白な彼女には、他に出来ることなんてなかったから。
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