第45話 約束

「朱音さん」

「わかってる」

「これでいいんですよね」

「ああ。本当に助かったよ」

「じゃあ約束、守ってもらいますからね」


リヒトは朱音に詰め寄っていた。そんなリヒトの気迫に、朱音はうんざりしている様子だ。


「リヒト様、約束とは何ですか?」


何か訳ありの二人の様子に、つむぎは首を傾げた。するとリヒトは満面の笑みをつむぎに見せた。


「実はね。つむぎと結婚してからずっと朱音さんにお願いしていたんだ。そしたらこの事件を無事解決できたらいいって言ってもらったんだよ」

「お願いですか?」

「そう。しばらく休みを貰えないかってね」

「お休みですか?」


リヒトは少し含みのある笑顔を見せた。


「だってつむぎともっとゆっくりしたいもん」

「っ」

「俺たち、新婚なんだし」


リヒトが色気たっぷりに囁いた。魅了を使っているのではないかと思うくらい凄まじい色気である。こんな凄い色気、つむぎにはとても耐えられそうにない。そう思って距離を取ろうと思ったが、時すでに遅し。リヒトは腕の中につむぎを閉じ込めていた。逃すまいと力強く抱きしめているのに、優しくて温かくて心地よい。抵抗しなければと思うのに、抵抗する気力がだんだん無くなっていく。

 リヒトはそんなつむぎの耳元を優しく囁いた。


「俺はもっとつむぎの近くにいたいんだ」


その台詞だけでつむぎは頭が沸騰するのではないかと思ってしまった。


「駄目、かな?」

「だ……だ……」


頭がいっぱいいっぱいで言葉がうまく紡げない。顔を真っ赤にしたまま、視線を泳がせている。


「だ?」


そんなつむぎを面白そうに見つめつつ、つむぎの返事を甘く優しく催促してくる。


「だ、駄目じゃ……ない、です」


そんのリヒトから逃げられるわけもなく、つむぎは小さな声で答えた。


「それはよかった」


リヒトは大変満足そうであった。

 どうにも腑に落ちない。つむぎは頬を膨らませてリヒトを睨みつけた。

 しかしそんなつむぎもリヒトには可愛くて仕方なかった。デレデレと表情を崩して、つむぎを見つめている。


「そうだ。新婚旅行とかどうかな」

「新婚旅行?」


つむぎは首を傾げた。新婚旅行とは一体何なのだろう、と疑問に思った。

 つむぎは自分が結婚できるとは思っていなかったのでそういうのに疎いだけなのかもしれない。


「俺の母の国の風習なんだ」


つまり外国の風習らしい。つむぎは成程、と頷いた。だから聞いたことがなかったのだ、と納得した。


「ね?行こうよ」


リヒトがおねだりしてきた。それがまた可愛くてつむぎは口をつぐんだ。またリヒトの思うがままに流されてしまいそうなのだ。何とかこの状況から逃げ出したいつむぎは懸命に脱出する術を考えた。

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