第44話 きよの罪

 ふと、カサカサと庭の草を踏み締める足音が聞こえてきた。


「よくやったね。リヒト」

「朱音さん」


そこには朱音と瀬戸の姿があった。朱音は満足そうな表情をしていた。なかなか捕まらない術師連続襲撃事件の犯人をようやく捕えられたのだから無理もないだろう。


「罠を張った甲斐があったね」

「もう二度と御免ですけどね」


そう言えばリヒトは術師会合で魅了の力を使っていたと言っていた。リヒトの術にかかったきよは己の欲望に飲まれケカレの力を暴走させた。おかげさまで事件の犯人を追い詰める事が出来たのだ。

 朱音とリヒトは前々から打ち合わせしていたようだったが、リヒトはうんざりした表情を見せた。


「ますます人気者になるね」

「俺のことを好きになるのはつむぎだけで充分です」

「つむぎ?」


朱音はリヒトの隣にいるつむぎへと視線を向けた。


「それが君の本名か」

「はい。申し訳ございません、偽名で名乗ってしまいまして」

「いや構わないよ。きよが偽名なのはわかってたんだ。色々事情があるんだろうなって」


朱音は全てを見透かしているかのようだった。つむぎはそんな朱音が少し怖く感じた。


「それで彼女がきよかな?」


朱音はつむぎのそばにいるきよへと視線を移した。


「完全に放心状態だな。これはなかなか」


そして難しい表情を浮かべた。その表情につむぎは慌ててしまう。


「あの。その、きよ様は……どうなるのですか?」

「当分は療養かな。その後で罪を償ってもらう」

「そうですか」

「つむぎ。彼女がどんな状態になろうと罪が消えることはない。彼女もある意味被害者なのかもしれないけれど、それが加害者になっていい理由にはならない。彼女がどんな過酷な状況でもつむぎに酷いことをしていい理由にはならないのと同じようにね」


朱音の言葉につむぎは下を向いてしまう。

 それは最もだった。きよがどんなに追い詰められても、人を殺す理由にはならない。それで罪が軽くなるなんて、殺された人が浮かばれない。


「まあ彼女が罪に問われるのはもう少し先かな。彼女にはまずは元に戻ってもらわないとね」

「……はい」


つむぎに出来ることは、少ない。だから今はきよを待とうと思うのだった。

 朱音は使用人達を呼び出して、きよをどこかへと連れて行った。つむぎはそんなきよを黙って見守るのだった。

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